第5話 有彦の気転

黒い霧は、聖なるホーリーサークルの周囲を包み、ぐるぐると渦巻きながら俺達を狙っている。


「……寒い」


有彦が腕を擦りながら震えて。確かに、電車に乗った時より肌寒く感じるような。


「どうすんの、このまま維持は出来るけど、次の駅に着く迄になんとかしないと、電車の外まで溢れだして人を飲み込むんじゃないの?」


「だろうなぁ」


十字架に念を集中しながらアンジェラが不安そうに言う。と、俺の脚にまとわりついて離れようとしない有彦がぽつりと。


「霧は、暖かいと消える、よ」


初めてちゃんと話したかもしれない。

俺は驚いたが、表情を引き締めて。


「まじか?…まあ、こいつがなんなのかわからねえが…いっちょやってみますか。


弾けるバーストファイア!」


人差し指と親指を擦り合わせ、パチンと鳴らす。すると俺の指先の上に蒼白い炎が現れた。


それを息でふ、と吹くと、炎は広がり円の外に躍り出て。黒い霧と炎が混じりあう。まるでそれは、円舞を踊るように優雅だ。


ぐるぐると混雑しながら、蒼と黒が天井へ上っていき。やがて、炎が場を制した。黒い霧はまるで最初から何もなかったかのように消え去り。


俺はもう一度指を鳴らし、炎を消した。アンジェラも術を解く。


「なんだったんだ、一体。てか、有彦、お前のアドバイスで助かったぞ。…あんがとな。」


有彦の小さな頭を存分に撫でておく。こうして危機を乗り越えた後、電車が駅に到着した。

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