第42話 オタはラインができない
俺はその日の晩、家に帰って鏡を見ながら一人ファッションショーをやっていた。
「んーダサいかなコレ……結構前に買ったやつだけど」
手にしたシャツにはリアルなドクロと天使の羽が描かれ、背中にはよくわかんない英文の羅列。
真新しいジーパンにチェーンベルトと、ファッションセンスが中学から成長していない。
「これはどうだ?」
良さげなシャツを見つけたので広げてみると、背中に【堕天使】と縦書きされていて即座に折りたたんだ。
「なんなんだ、この中二病全開のシャツは……」
並べてみてわかる、俺の手持ちの服の少なさ。
服のカラーはほぼすべて黒か合わせやすい白と、バリエーションの貧困さが酷い。Theオタの服って感じだ。
「オセロみたいな色ばっかり着やがって……。というか俺服デッキなさすぎでは?」
一応前に火恋先輩とのデートに合わせて購入した一張羅があるのだが、こっちはこっちで気合入りすぎててちょっと……って感じだ。
あのときは変なアドレナリン出てたし、ラストチャンスと思ってたからな……。
そんなこと考えてたら二人と話したくなってきた。
俺はスマホを手に取り、ラインアプリを起動させる。
遅い時間なので、通話は遠慮して、軽くメッセージのやりとりでもしたいな。
だが、そう思うとなんと打っていいかわからなくなる。
今何してる? ←ウザい
お風呂入った? ←キモい
会いたいよ~>< ←超キモい
「だめだ、何をしてもウザキモくなってしまう……」
スマホとにらめっこして数分。ポロン♪ とラインの着信音が鳴る。
「まさか火恋先輩か、雷火ちゃんから……」
そうだとしたら完全に以心伝心じゃないか?
暖かな気持ちになりながら新着メッセージを見ると。
『 伊達姉妹に似たAV手に入ったんだけど、貸してやってもいいぜ――相野伝示』
「○ね」
音速で返信すると、がっくりと肩を落とす。
「期待した俺がバカだった」
するとまたポロン♪ と着信音が鳴る。
今度こそ火恋先輩か雷火ちゃん――
『次のデートにダサい服着てきたら殺すわよ。――水咲
「なんでお前なんだよ!」
っていうかなんでこの子は俺のラインIDを知ってるんだ。交換した覚えないぞ。
俺はしばらく返信内容に困った後、『はい、すみません。気をつけます』とメッセージを返す。
◇☆◇
水咲邸宅、
スマホを見て口元をおさえる月と、それを見守るイケメン執事の藤乃の姿があった。
「あぁ、送っちゃった!」
「一時間以上迷ったあげく、送った文章が殺すとは……お嬢様、さすがに……」
「うるさいわね! 長文送ったら引かれるし、媚びた文も送りたくないし、いろいろ考えたらこうなっちゃったのよぉ!」
「おやすみなどの一言でも良かったのでは?」
「それは彼女気取りすぎでしょ!?」
「彼女でございましょう。(偽)がつきますが。それにお嬢様は恋愛小説を書かれる文筆家ですので、そういう駆け引きは得意なのでは?」
藤乃は
ヴァイス&シュヴァルツをプレイする男女が、最初はいがみあっていたが、カードバトルを通じて次第に恋に発展していく物語である。
「あれはキャラが言ってるから大丈夫なの! あたしが言うのとは全然別なの!」
「そういうものでございましょうか。青少年の心を掴む大ヒット作ですので、恋愛の押し引きは得意なのかと」
「あんなの全部妄想よ。あれをリアルとか言ってる奴はバカよバカ」
「読者の前では絶対言ってはいけませんよ。夢が壊れますので」
「あぁ~変なの送っちゃった……これで喧嘩になったらどうしよう……」
スマホを持ったまま、ベッドの上をゴロゴロと転げ回る月。
「送らないという選択肢はなかったのですか?」
「嫌よ! 今日はいろいろあったからライン送っても許されるでしょ!」
気の利いた言葉は思い浮かばないが、なんとか絡みたい。
藤乃は思春期特有の、面倒な恋愛沼にハマった主人に肩をすくめる。
その時ポロン♪ と月のスマホに着信音が鳴る。
待望の返事のはずなのに、彼女は慌ててスマホを放り投げた。
「見ないのですか?」
「す、すぐ見たら既読がつくでしょ? メッセージを待ちわびてたみたいになるじゃない。一晩熟成させるわ」
「カレーみたいなことを言いますね。変なところで気が小さい……」
「藤乃、あんたならどういうメッセージ送ってた?」
「生憎とわたくし”異性”との恋愛経験がございませんので、わかりかねます」
「恋をしたことないの? 人生損してるわね」
「恋はしたことがございますよ」
「???」
首をかしげる月。
それ以上特に説明することなく、にこやかに笑う藤乃は月の寝室から出ていった。
◇◇◇
「く~、この人送ってきておいて既読つかないし……」
やっぱ俺に興味はなく、イヤイヤ付き合ってるということだろう。
でもよく考えるとわけわかんないことになってるな。
許嫁が二人いるのに、彼女は別の人がいますってなんだそれは? 三股になるんじゃないのか。
周りの人にどう説明すりゃいいんだろ。
というかこのことは親父とかに言っていいのだろうか?
「ダサい服やめろって言われたし、なんか買いに行くか……」
と言っても俺の懐事情はかなり厳しい。
「コスプレのレンタルとかしまくったせいだな……」
費用以上の思い出をもらったので、全く後悔していないがやはり苦しいものは苦しい。
これはもう秘蔵のゲームを質に入れるしかないか……。
ふと鏡を見ると、ボサボサの髪型も気になった。
「キタローみたいになってんな……」
長く垂れた前髪が、片目を覆い隠そうとしていた。これもなんとかせねば。
新しい服、美容院、デート代、一体いくら飛ぶことになるのやら。
そんなことを思っていると、スマホが鳴る。
ディスプレイには【社畜】と映っていた。
「オヤジか、なんだろ」
通話ボタンをタッチして、スマホを耳にくっつける。
「もしもし?」
『父さんだが、犯罪犯してないだろうな?』
開口一番に犯罪の心配をされるってどうなんだ。
「するかよ」
『ただでさえ世間は不倫炎上が問題になってるんだからな』
「急に耳が痛い」
『それで、首尾はどうだ?』
「ん~雷火ちゃん、火恋先輩に関してはうまくいってると思う。ただやっぱり剣心さんには嫌われてるっぽい」
『だろうな。父さんが剣心さんの立場だったら、お前のこと嫌いになるしな』
それは親の言うことなのか。
「順調とは言えないけど、オヤジに助けを求めることは起きてないよ」
「そりゃ良かった」
「あっ、一つだけ」
「なんだ?」
「……やっぱいいや」
「なんだ? 金か?」
一発でバレた。
「いや、いい。自分でなんとかするから」
「無理をするな。一人でも大分苦しいだろう。交際費とはそういうものだ」
「いや、ほんといい。オヤジのスネかじってデートしたくない」
「……強情な奴だな。なら良いバイト先を紹介してやろう」
「まじで? 時給3000円くらい?」
「人生をなめるな。バイト先ってのは――」
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