ダンジョンと魔物が現実世界へと転移した異界(ダンジョン)攻略物語

地雷源のチワワ

序章 -駆け出しの探索員-

第1話 -駆け出しの探索員-

 ある日を境に唐突に世界は変わった。


 平穏な日常は壊され人々は絶望を目の当たりにする。


 不運なことに、そんな絶望を味わった一人の青年がいた。


 青年は大切な家族を亡くした。


 職も失い途方に暮れる日々を送る。


 そんな青年は武器を手に今日も日銭を稼ぐため魔物がうごめく希望と好奇心渦巻く異界へと一人、探索に向かう。



 肌寒い冬の空はどこまでも続いている。


 息も白くなりピリピリと肌も痛いそんな気温。


 いつまでも布団にくるまっていたい気持ちを抑えて玄関で荷物の確認をした。


 「はぁ……」


 日本が壊れてもう5年くらい経つのか……


 2028年1月20日木曜日、午前6時。


 火は消しただろうか。


 戸締まりはしっかりしただろうか。


 それらの確認を一通りしてから刀をベルトのホルスターに差した。


 脇差もベルトの背部にしっかりと収まってるのを確認する。


 武器は大丈夫そうだ。


 次は持ち物……っと。


 背負ったコンパクトなリュックに水筒や財布、非常食である干し肉、ランタン型LEDライトなどを入れて準備万端。


 装備した武器一式を持って「いってきます」と一人つぶやき扉の鍵を締めた。


氏名:白縫 春人(しらぬい はるひと) 

年齢:27歳

職業:異界探索員


 一般人が何食わぬ顔で真剣を腰にさして出歩こうとしている光景を平和な時代に生きた人から見たらどう思うだろうか。


 そこまで物騒な世の中になったのかと驚くか。


 だとしたら何で銃とかじゃないんだよって突っ込むだろうか。


 まずは銃刀法違反だろと言われるだろうか。


 けれど今は、武器を所持して出歩くことのできる職業があるのだから合法だ。


 それが異界探索員。


 この異界探索員とは国が認める国家資格で年に2回、春と秋にだけある国家試験を合格した者だけがなれる職業だ。


 新しく整備された法令と異界のサバイバル知識。


 そこに出現する王道な魔物の習性なんかを一通り勉強して一日がかりのテストに挑む。


 難易度はそんなに難しくはない。


 この資格を取得すると異界(ダンジョン)を探索する権限と国に届け出た武器を所持して使用する許可が得られる。


 なので見るからに危ないだろう刀を腰にぶら下げていたとしてもなんら問題はない。


 きっと問題があるとするのなら……


 黒のジーンズに紺色のパーカーの上にダウンジャケットを羽織っているだけの恰好だろう。


 ちょっと危険地域に冒険に行ってきますっていう恰好ではないのは確かだ。


 少し前だったら痛い人とか危険人物として補導されなかねないんじゃないだろうか。


 いや逮捕されてるか。


 その少し前の平和な時代の思考をしてみると、どうして異界ってところに行くのに武器が必要なのかって疑問に答えるなら……


 異界には、人を襲い食い物にするような獰猛な魔物が存在するからだ。


 それも一匹だけではなく数千、数万も種類がいるらしい。


 それに未知の生物である魔物に加えて未知の鉱物や未知の植物、未知の遺跡、未知の現象なんかで未知がいっぱいにつまっている。


 ロマンと知的好奇心を刺激されるような冒険が眠っているのだ。


 命を落とす可能性とは裏腹に夢も眠っている。


 それが異界だ。


 これから向かう場所も異界へと入るために朝早く起きて、こうして準備をしているわけで……


 でも、この見た目は「そんな装備で大丈夫なのか? 防具は持ってるだけじゃ装備したことにはならないんだぜ?」って突っ込まれたのも事実だ。


 なんでそんな装備なのかは……


 いたってシンプル、考えるエネルギーがもったいないくらいだ。


「お金がない」


 異界探索員の収入は、その日の異界探索で得た魔物の素材や鉱物などの素材を売買したり仕事を仲介してくれる所で様々な依頼をこなして報酬を得たりするのが主だ。


 つまるところフリーランス(仮)なのである。


 このご時世、人手が少ないと言われるがインフラの破壊によって働く場所は、限られてしまっている。


 人によっては収入の補填のために副業として始めたり、くすぐられた冒険心と趣味でやるひとも多い。


 誰しもあこがれたことはある職業だと思う。


 ゲームなんかで剣や盾をダンジョンに持って行って、強大な魔法やスキルを駆使して強大なモンスターと戦いを挑み勝利を刻む。


 時には迷宮とも思えるような場所を冒険をして、窮地に立たされ仲間と助け合ったり、その中では愛も芽生えるかもしれない。


 けれど楽しいことだけじゃない。


 大変な目にあって苦渋をなめるとかね。


 そんな、あこがれを異界に求めて行きついた先は皆同じようなものだと自分は思う。


 戦いがあるってことは、命のやり取りが必ずある。


 綺麗事や楽しいことだけがそこに詰まっているわけじゃない。


 やっぱり現実はどこまで行っても残酷なんだって……


 駆け出しの自分が言うのもあれだけどさ。


 そこにあったのは魔物たちとの過酷な生存競争を勝ち抜いて日々を生きていかなくちゃいけない現実だ。


 でも一部の人達の欲求は止まらないどころかどこまでも突き進んでいく。


 ブログで異界での活動報告をあげてる有名人とか、日本や住民を守るために活動してる人達とか、見ていて心を惹かれた。


 リスクを背負い、努力してでも新しい世界を見続けて夢を叶えていきたい人たちが先陣を切り開き過酷な異界探索員であるけど職業として廃れることもなく人気職として上位に位置しているのはそのせいなんだと思う。


 さあ、残された貯金も僅か、家の維持費、生活費、雑費、電気代、水道代、税金等々────


 今月しっかり稼がないと来月生きていけない。


 これが人気職のプラスアルファで抑えておくもう一つの現実だ。


 そんな現実を受け止め今日も張り切り自宅の横にある車庫をガラガラっと開ける。


 現在住んでいる家は駅やらスーパーが徒歩で行きずらい。


 ここらへんの暮らしに必要で買っていた古い軽自動車へと乗り込んだ。


 偽革の匂いが鼻につくが乗り心地は悪くない。


「一応関東で都心には近いはずなんだけどなぁ……思えば、こいつも税金がかかってるんだ」


 少なくとも高騰したガソリン代は稼ごう。


 今日は、いつもと違う場所の大宮で探索をするんだ。


 近所にある異界は哺乳類系の魔物だらけだから、その異界よりはきっと稼げるだろう。


「さあ行こうか!」


 どんな冒険が待っているのかを想像しながらハンドルを握り胸を高鳴らせた。



異界と魔物が現実世界へと転移した異界(ダンジョン)攻略物語

序章 -駆け出しの探索員-

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