第13話 いざ、宮殿

 心配する母をよそに私は元気になった。フォリンを置いていくのは寂しいけれど、ひとまず城へ向かっている。祖母が凄腕の調合師でよかったと思った。

「ナタリアは私の助手ってことにしておくからね。向こうに着いたらよそよそしく頼むよ」

「わかってる」

「エデン様が心配なのはわかるけど、そんな顔してたら怪しまれるよ」

 そう言って眉間をそっと押された。

「あとその指輪、外しておきなさい。見る人が見れば一目で高価な代物だとわかるよ」

「……はい」

 指輪をポケットに押し込むが、なくさないか不安だった。

「そんなに不安なら首にさげておきなさい」

 苦笑いしながらも祖母の手は優しい。頑丈な植物の繊維に指輪を通すと首の後ろで結んでくれた。

「ありがとう」

「ほら元気だしな。これから堂々とエデン様に会えるんだから」

「うん!」

 城の前まで来ると門番に事情を話す。そしてすぐに彼の元へ通された。大きなベッドに眠っている彼は、顔が真っ青で呼吸も浅かった。

「すみません。私の治療法は人が多いと難しいものなので、ご退出願います」

 打ち合わせ通り、祖母はそう言った。わざわざ彼女に頼んだくらいだ。王室の人といえども素直に従った。

「エデンさん……」

 私は枕元にしゃがみこんだ。彼の顔を改めて近くに見ると、眉毛がぴくっと動く。

「エデンさん!」

「しっ!」

 祖母に怒られ肩をすくめる。祖母は隣でハーブの調合を始めていた。今回はお香のようにして嗅がせるらしい。つんとする匂いと爽やかなハーブの香りが漂う。だんだんとエデンさんの呼吸が深まっていった。

「手を握っておやり」

 優しい声に促されて、彼の手を取る。

「ん、んん」

 彼の声だった。

「エデンさん、わかりますか」

 ゆっくりと彼の瞼が持ち上がる。

「あれ? ここはどこだ?」

「お屋敷の看護ルームです」

「あぁ、そうか」

 安心したようにベッドに沈み込む。

「エデン様にお水を」

「は、はい」

 祖母の声にぎこちなく彼にコップを渡した。

「ありがとう」

 ……? 何かすごい普通? とてつもなく嫌な予感がした。

「すまないが、父上を呼んでもらえないか」

「わかりました」

「私が行きます」

 一足先に立ったのは祖母で、二人きりになった。

「あ、あの……」

「どうした?」

 気だるそうな声で応対してくる。まだ本調子ではないのだ。

「エデンさん、森で何があったんですか?」

「森……?」

「ええ、森で倒れたとお聞きして」

「そうだったかな……実はよく覚えていないんだ」

「じゃあ、一昨日どこで何をしていたのか、覚えていないのですか」

 ぐっと顔を近づけると、彼は困ったように目をそらした。

「覚えてない」

「うそ?!」

 私の言葉に一番驚いていたのは彼だった。

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