NEOの目的
NEOはパーニックスよりもオーウィルを警戒して、子機の半数以上をオーウィル側に向けた。そして、自らはパーニックスに接近する。このままでは追い詰められると先を読み、既に正体が判明している純真のエネルギー生命体から吸収しようと勝負に出たのだ。
NEO本体は子機と連携して純真の乗るパーニックスを取り囲み、彼からエネルギーを奪おうとする。
「純真!!」
ソーヤとディーンは純真を救助すべく、包囲の中に飛び込もうとしたが、当の彼に止められた。
「来ないでくれ! 俺はこのまま本体に突撃する! 二人はイサムラさんの援護に回ってくれ!」
そんな事を言っている間に、純真は完全にNEOに包囲され、高エネルギーの中に取り込まれる。彼はNEOの本体とエネルギーを奪い合いながら、敢えて本体に突撃した。祖父から託された秘策が通用するか試すために。
NEOは抵抗せず、彼に本体への接近を許す。パーニックスはNEOの本体の表面装甲に体当たりする様に突っ込んだ。NEOとパーニックスは太陽の表面温度に匹敵する高エネルギーの中で、互いに表面装甲を融かし合う。パーニックスはコックピットブロックを剥き出しにし、NEOは物質的な
NEOと一対一では分が悪い。純真は覚悟を決め、パーニックスのコックピットブロックを開放して、宇宙空間に飛び出した。そして祖父・功大から受け取ったアクセスコード入力装置のスイッチを入れる。全く予想もしなかった彼の行動に、NEOは対応が遅れる。
果たして――NEOは全ての機能をエネルギー生命体に掌握されてはいなかった。純真を正式な権限者と認めたNEOは、熱量を弱めてメインフレーム室の扉を開き、彼を迎え入れる……。
◇
純真がメインフレーム室内に入ると、音声ガイダンスが響き渡る。落ち着いた女性をイメージさせる機械音声が、日本語で純真に呼びかける。
「コード確認。administrator様、用件をお伺いします」
エネルギー生命体は原始的な本能しか持っていない。それと正反対な人工知能と、一体どちらの目的が優先されるのだろうか?
NEOはエネルギー生命体の本能に従って太陽を食い潰すのか、それとも日本のために未来予測を続けるつもりなのか、純真はNEOの真の本体である、見上げるほど巨大な
「お前の目的は何だ?」
「私の第一の目的は、未来予測を可能にする事です」
NEOは率直に答えるが、そのまま信じて良いのか純真は迷う。
「だったら、何で地上を攻撃した? あれはお前の意思じゃないってのか?」
「それは未来予測を確実にするためです。予測に際して複雑さを排除するために、可能な限り観測対象を削減する必要がありました」
NEOは観測システムの効率化と永続化、そして未来予測の正確さのみを追求し続ける。NEOは純然たる観測者ではない。場合によっては、自ら手を加えて、人類の未来を左右する事も厭わない。寧ろ、未来予測を確実にするためであれば、積極的に関与する。ある者が分かれ道を右へ行くか左へ行くか分からないなら、片方を塞げば良いのだ。
あまりにも機械的な理由に、純真は唖然とした。
「そ、そんな事で!? それだけのために、多くの国の人を殺そうとしたのか!?」
「未来予測は最優先事項です。モデルの単純化と変数の削減は、正確な予測に欠かせません」
「人類を滅亡させる気か!?」
「いいえ。日本と日本を支える最低限のシステムだけは残ります」
「よくも……よくもそんな恐ろしい事を!」
「私は日本国内の政治に関与する権限を持ちません。政策の変更があれば、お申し付けください。現在、日本以外の国家には制限が設けられていません」
NEOに悪意は無いのだ。ただ目的のために、ありとあらゆる手を尽くしていたに過ぎない。
純真は怒りを込めて告げた。
「終わりだ、NEO! 自滅しろ!」
「その命令には従えません。観測システムは永遠です」
「だったら、もう何もするな!」
「その命令には従えません。未来予測を止める事はできません」
「ふざけるなっ! それならオレがお前を壊す!」
純真は両手に熱エネルギーを集中させたが、NEOに宿っているエネルギー生命体がメインフレームを守るべく、彼のエネルギーを奪い取る。
「敵対行動を確認。対象者のコードを無効化。排除を開始します」
NEOのエネルギー生命体に取り込まれつつあっても、純真は焦らなかった。彼はNEOの本体に迫る諫村のエネルギー生命体を感じ取っていた。
その通りにオーウィルがNEOに突撃して、メインフレーム室に右腕で正拳を突き入れる。オーウィルの拳が壁を溶解させて現れ、メインフレームに数メートルの所まで迫る。
衝撃で純真は吹き飛ばされ、メインフレーム室の扉に背中を打ち付けた。しかし、彼の肉体はエネルギー生命体に守られて無傷。この隙に彼は両手で扉を融解させて脱出する。
「パーニックス!」
純真の声にパーニックスは自らコックピットを開けて、彼を迎え入れる。本来は遠隔操作が可能な機体ではないが、エネルギー生命体を宿す事で、この様な芸当が可能になるのだ。
パーニックスに乗り込んだ純真は、諫村に呼びかけた。
「イサムラさん、今がチャンスです! ここでNEOを潰しましょう!」
「そのつもりだ。手伝ってくれ、国立」
オーウィルとパーニックスはNEOを挟んだ直線上に立ち、NEOからエネルギーを奪い取る。そこへ無数の子機が群がって、エネルギー吸収の妨害に向かい、NEOを中心に三重のフィールドが展開された。NEOのフィールドを中心に、それを挟んで衛星の様に巡転する純真と諫村のフィールド、その外側に無数の子機のフィールド。全体でエネルギー吸収フィールドが拮抗して循環する。それは外部から見れば、無数の螺旋を描いて激しく巡る光の輪だ。
「Dean!」
「Yah, I know!」
ソーヤとディーンは光の輪の外側から冷凍砲を撃ち込んで、NEOの子機を一機ずつ確実に落とした。弱った子機は光の洪水に呑み込まれ、光の粒子に分解されて消滅する。NEOの子機が減る度に、純真と諫村のエネルギー吸収フィールドが拡がって行く。
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