魔女と骨 7

「は、はは……そうか。おれはずっと、守られていたのか。そうとも知らずに、ずいぶんとのんきに生きてきたもんだ。ルージュ……ありがとう」

 ルージュは首を振る。

「金の器を探す傍らで、おまえの身体を再生するための魔術を探していたのだが、幾分時が経ちすぎてしまった。言いづらいのだが、おまえの家族は、もう……」

「……」

 ルートは曇り空を仰ぎ見る。


 風が、鳴いた。


「そうか。それだけの時が、流れてしまったんだな」

「……すまない。だが、ようやく、おまえの身体を再生させる方法を見出すことができた。せめて、第二の人生を歩んで欲しい」

「戻れるのか。元の姿に」

「ああ。わたしの命と引き換えに」

 ルージュの全ての魔力で肉体を再生させ、ルートの心臓と魂を返す。それでルートは人間として復活するのだという。


 ルートはうつむいた。

「もともとわたしの命はおまえに救われたものだ。今度はわたしがおまえを救う」

 ルートは首を振る。

「――もう、十分助けられたさ。もう、十分だ」

「しかし……」

「おれの人生は、あの時に終わったんだ。ルートは、死んだ。だから、もう……いいんだ」


 風が、止んだ。


「いや、まだやれることがあるな。こんなナリになっちまっても、誰かの役に立てるんなら……。そうだ、おれは騎士だ。ルージュ、お前を守る騎士として、おれは生きることにする」

「わたしを、守る?」

 ルートは頷いた。

「もう、独りきりで戦わなくともいいんだ、ルージュ。おれも共に戦おう。お前の剣として」


「……いいのか、それで」

「ああ」

「……ありがとう。ルート」


 ルート。アンタは優しい男なんだな。

 普通の人間なら、自分の運命を嘆いたり、恨んだり、諦めたりするだろう。

 しかしルートはそれを受け止め、受け入れ、前に進むことを選んだ。ルージュのために。


 孤独な魔女の物語は、騎士によって救われることで幕を閉じた。

 ここより二人は新しい物語を始めるのだ。


「テリー。巻き込んで悪かったな。しかし、お前に出会わなければあの蟻の女王のところまでたどり着けなかっただろう」

「どれだけの礼をつくしても足りぬ。もし困ったことがあればいつでも呼べ。強く念じるだけで良い。さすれば我らはいつでもおまえの元へと馳せ参じよう」

「そっか。そんじゃ、その時はよろしく頼むぜ。じゃあな」

 陽がすっかり落ちていた。

 お腹が空いたなぁ。

 オレは二人に別れを告げ、帰路についた。




 そういや、また何か忘れているような。

 ま、いっか!




 迷子になり、そこらへんを泣きながらさまようユーリを見つけたのは、それから二日後のことだった。



 おしまい!



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俺の嫁を紹介します~らいとばーじょん~ るーいん @naruki1981

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