CODE: UNKNOWN ―無色の王―

羽音ことり

　あらゆるもの──生物、そして現象は、誰かに認識されて初めて意味を持ち、「概念」として昇華される。

　かつて、人類は結核を不治の病と信じていた。

　だが一九四四年、ストレプトマイシンという特効薬の発見によって、その認識は覆され、結核は「治療可能な病」へと変貌した。

　──ただ見えていないだけで、この世界には、数多の可能性が隣り合わせに存在している。

　西暦二〇五七年。

　ついに人類は、「能力（スティグマ）」とさえ呼ばれる力を“認識”するに至った。

　能力（スティグマ）に関する最初の記録には、認識と同時に、性別や年齢を問わず能力を発現させた者たちが、世界各地で観測されたと記されている。

　まるでそれが、人類に元から備わっていた機能であるかのように。

　その力は能力（スティグマ）と名付けられ、人類にもたらされた祝福であると同時に、

　≪能力至上主義≫という新たな秩序を生み出した。

　かつては地位や金が力の象徴だった。

　だが今、その象徴となったのは──能力の強さそのものだ。

　もっとも、こうした変化すらも、歴史の流れの中ではほんの一瞬に過ぎない。

　あたかも何もなかったかのように、時は静かに、確かに、前へと進み続ける。

　──前へ。

　──さらに前へ。

　人類は歩みを止めず、日々進化を続けてきた。

　だが──

　ある「一瞬」を境に、その歴史は終わりを告げることになる。

　この世界の真実を、認識したその瞬間に。

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