第24話 夜空の舞踏会 前編

 眼下に広がる夜景。洋風の大きな建造物の窓から漏れる明かりが星のように輝いている。──僕は今、飛行船に乗っているのだ。本部から北西に進んだところにある王都の上空を飛んでいる。

 船内は広く、天井が途轍もなく高い。豪華なシャンデリアが吊るされており、煌びやかな空間を演出している。立食パーティーで、中央には何段にも積み重ねられた大きな特注のケーキがある。

 ──ここはとある財閥令嬢の誕生祭の会場だ。

 周りにいる人間は総じて高級そうなタキシードやイブニングドレスを身につけ、交流をしている。

 彼らとは正反対な僕は漆黒のパンツスーツに同色のネクタイを締め、懐には祈りを込めた銀のナイフを忍ばせてこの場に臨んでいる。

 ここには当然、僕と同じような人間もいる。──護衛するのだ。彼らは揃いも揃って屈強な肉体の男たちだ。素手で戦ったら勝てる気がしない。

 今回の任務、ナスチャはレジスタンス本部でお留守番となった。さすがにここに連れてくることはできなかった。それについてかなり文句を言っていたが、僕がナッツを追加で買い与えると、大人しくなった。

 僕はこの会場で不審なことが発生していないか目を光らせる。

「セシリア、これ美味しいわよ」

 そう言って紺色のイブニングドレスに身を包んでいるシェリルが皿に載せられたローストビーフを勧めた。

「ああ、はい、ありがとうございます」

 シェリルは普段よりも化粧が濃く、華やかだった。濡羽色の髪も綺麗に結われている。両耳に付けられた小ぶりな宝石のピアスが一閃した。

 食べたことのないような高級な料理の数々に舌鼓を打っていると、お手洗いに立っていたアンジェラとレイチェルが戻ってきた。

 二人とも普段は特異体の装備だが、シェリルの護衛としてこの飛行船に乗るため、ロクな武器も持たずに僕と同じ無難な格好をしている。

「セシリア、料理を堪能するのも結構ですが、仕事中ですからあまり羽目を外さないようにしてくださいね」

 アンジェラの琥珀のような瞳が僕を見据える。表情は相変わらず何を考えているか読めない微笑を浮かべている。

「……いや、あの、これはシェリルが勧めてきたものですから」

 そう弁明すると、

「口答えすると飛行船から投げ捨てますよ」

 と死体を見るような目つきで脅した。

「ごめんなさい」

 忘れていた。アンジェラに楯突くとロクなことにならないのだ。レジスタンス入隊直後に砕かれた手首が疼く。

 僕は食器を片付け、シェリルの護衛という任務に戻ると、レイチェルが口を開いた。

「それにしてもあなた、よく生きてたね」

 そう言って僕の頭をポンポンと撫でる。自分と同じくらいの年齢で、身長は約十センチメートル小さい人にそれをされるのは少し違和感を感じた。

「あのときはありがとうございました」

 僕はレイチェルにずっと言い損ねていた礼を言い、頭を下げた。──彼女はレオンに殺されるところだった僕を守ってくれたのだ。

「ところで……今回の任務はなぜこのメンバーなんですか? シェリルの護衛でしたらそれ専門の人間に任せればいいと思うんですが……」

 僕はぽりぽりと頭を掻いて言った。

「それは……」

 アンジェラは言いづらそうに視線を逸らすが、言う決意をし、僕のほうに寄ってくると、耳元で話す。

「……シェリルは護衛という目的において、一般人は一切信用していません。そのような人間を雇うより、自分一人のほうが強いから、という話を聞いたことがあります」

「……シェリルって何者なんですか?」

 僕は無意識のうちに疑問を口にした。

「元ホロコースト部隊に所属していたみたいです。あまりその頃のことは話したがらないので、謎が多いですよ」

 アンジェラは口元を隠しながらも困惑が混じった笑みを浮かべる。

「それで私たちにこの護衛の任務を与えたのは、護衛で雇われる元軍人よりも、私たちのほうが圧倒的に強いからって理由みたいです。そりゃそうですよね。自分より弱い人間に護衛させても意味なんてないですもの」

 と言ってクスクスと笑った。

「あと理由はもう一つあります。この任務はほぼ毎年あって、ホロコースト部隊から二人、ザ・武器というものを持ち込まなくとも戦える人が選ばれるんですよ」

 一拍置いて、

「……いわゆる、特異体と同化した上でそれを戦闘に用いることができる人間が選出されます」

 と続けた。

 アンジェラは羽織っているスーツのボタンを器用に片手で素早く外し、裏地を見せた。そこには黄金色をした成人女性ほどの大きさのひし形が規則正しく並んでいる。ひし形の一つを指でなぞると浮き上がり、短剣の形となった。

「……じゃあなぜ僕は今ここにいるんですか?」

 僕は特異体と同化はしていない。普通の人間が無理やり持ち込んだナイフ一本程度の戦力はたかが知れている。

「それはシェリルがあなたに期待しているからですよ」

 アンジェラは含みのある笑みで言った。

 こうやって談笑していると、突然機体が大きく揺れる。同時に天井から吊るされたシャンデリアの明かりが消えた。

 

 

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