空きコマと図書室
「ライラさん!一人だからって女の子のお尻ばっかり追いかけてたらダメですからね!?」
「わかってるってそんなことしないよ……………たぶん」
「何か言いましたか?」
「いえ、なにも!」
もう信用ないな~
「リリーこそ一人で大丈夫?」
「大丈夫ですよ、もう子供じゃないんですから」
入学式の翌日。
私たちは学校の敷地内にある噴水の前に立っていた。
学校側で手違いがあったらしくまだ寮に入れていない私たちは、この一か月間泊まっていた宿から登校し、今から授業に向かう所である。
早く授業に行かなければならない私達がこんなところで話している訳はそう深くない。お互いの適正属性が違うため、学校ではほとんど別行動になるからだ。
魔法学校の授業形態は日本の大学に近く、クラスと言うものが存在していても授業は各々の適正属性にあった別のものを受ける。クラス単位で受ける授業は二日に一回程度ある『護身術』の授業ぐらいだ。
その点、私とリリーの場合は最も授業が
『闇属性』の適性を持ち『闇属性』の授業を受ける私と、『闇以外の属性』に適性を持ち、『火、水、土、風、雷、光』の授業を受けるリリー、授業中も離れ離れで
あるし休み時間だって同じ時間じゃない。
一人一部屋の寮は隣同士になるらしいし、放課後になれば一緒に冒険者ギルドに向かって依頼をこなす。
そうなれば一緒に居られるけれど、リリー一人の学校生活が心配でついてきた私からすれば、学校で一緒にいられないのはやはり不安だ。
リリーもなにやら失礼な
「もう授業向かわないと遅刻になっちゃいますから行きますけど、私がいないからって他の女の子にデレデレしないでくださいよ!」
「わかってるってー」
「特にあの王女様には注意ですよ、ライラさんコロッと落ちちゃいそうですから」
「ちゃわない、ちゃわない」
やっとお互いの授業教室に向かう私達。
私の属性は闇属性だけで授業もリリーに比べて少ないから、授業終わったら様子でも見に行こっかな。
▼▼▼
「んぁ~~、やっと終わった~~~~」
闇属性の授業を終え教室から出たところで、返ってくる言葉はないことが久しぶりで少し違和感を覚えながら、私は大きく伸びをした。
別に疲れるような授業だはなかったし、眠くなるようなものでもなかったけれど‥‥‥。
「まさか闇属性の適正持ちの生徒が私一人だけだったなんて……」
流石は適正者の少ない属性と言うことなのだろうか。
壮年の女性の先生と広い講堂でマンツーマン授業、人見知りの私が緊張しっぱなしの中、座学のみの授業で闇属性の何たるかを叩き込まれた。
一つ、闇を操ること。
一つ、影を操ること。
一つ、よくわかっていない。
結局はこれだけのことだったのに闇属性の歴史を交えながら百分間、まぁ伸びもしたくなるというもの。
「さて、リリーの様子でも見に行こうかな」
自分の授業以外の時間は空きコマ、つまり自習時間と言う扱いとなる。
自分で特訓するもよし、図書室で勉強、友達とお茶会しても何でも良いという訳だ。
一人きりの授業、朝会ったときにリリーは心配するなと言っていたけれどやっぱり心配な気持ちは健在だ。
「確かリリーはこの時間は水属性の授業だって言ってたよね?」
水属性の教室はたしか……
「おっ、あったあった。さてリリーはちゃんと勉強してるかな……?」
水属性の教室の後ろの扉から中を覗いてみる。
空きコマは自由に使っていいとされているが授業の邪魔はいけない。
そーっと……。
「…………………リリー」
リリーの姿を見て耐え切れなくなってしまって、
リリーが寂しがっているんじゃないかと思って見に行った自分がバカみたいだった。
後ろの扉からのぞき込んでみたリリーの姿には心配するようなところなんて欠片もなく、只々真剣に魔法を学んでいた。
貪欲に、実直に、忠実に、魔法の知識を取り込んでいた。
「リリーは私の力になりたいって、エリスさんを探せる力が欲しいって望んで、魔法の力を身に着けようとしているんだ…………」
ここまで来る途中で何回も自分を責めていたリリー。
自分は力不足だと……。
そんなリリーがやっと魔法を学べる環境に来れたのだから、ああなるのは分かるはずだったのに‥‥‥。
リリーが寂しがっているんじゃないか、なんて思っていた自分に無性に腹が立った。
「私ももっと力をつけて、リリーを何者からも守り切る力を身につけるんだ」
リリーの姿を見て胸の奥からこみ上げてきた熱いものに突き動かされるように、私は昨日覚えた構内の地図を頭の中で広げながら、ある場所へ向かうのだった。
▼▼▼
リリーの授業を除いたそのままの足で私が向かったのは敷地内にある図書館だった。
司書のおばさんに軽く挨拶をしてから中を巡る。
「誰もいないな……」
やはり珍しい闇属性が理由だろう。
他の生徒とは授業時間が違ければ、空きコマの時間もズレているようだった。
「……まぁ探し物にはちょうどいいか」
少し時間は掛かったけれど図書館を一周し、お目当ての本を見つけられた。
かなりの年代物であることが感じられるそれらの本を手に、適当な椅子を見つけて座る。
取ってきた本は闇属性に関するものと吸血姫に関するもので、片っ端から取ってきたので結構な量になっている。
「これは今日中に読み切るのは難しいかな………」
闇属性の本だけじゃなく吸血姫の本まで取ってきたのは私が記憶喪失だからだ。
自分が吸血姫ってことは分かっていても、その弱点や強みをすべて把握しきれている訳ではない。
生まれたときからの記憶とかがあれば別なんだろうけれど、
自らの力をもっとよく知れば、出来ることの幅が広がるかもしれない。
「この辺は私でも知っている内容だな……」
……………
「あっ、やっぱり吸血姫って闇属性に高い適性を持つ種族なんだ……」
……………
「数百年前、一人の吸血姫のせいで王国が窮地に陥った……これは力とは関係ないかな」
……………
「やっぱりこっちの世界でも吸血姫っていうのは人間に嫌われているんだな……」
……………
「過去に魔王領で何回か吸血姫が目撃されている……吸血姫ってやっぱり魔族だったんだ」
……………………
……………
………
…
「ライラさん?」
「うひゃあ!びっくりした、リリー脅かさないでよ」
「脅かしてなんかいませんよ。私の授業が終わったら迎えに行くって言ってたライラさんがいつまで経っても来ないから探しに来たんですよ」
「えっ、もうこんな時間!?」
図書館に備えられている時計を見ればもう五時を過ぎていた。
どうやら読書に夢中になるあまり、時間の経過を忘れてしまっていたらしい。
「ごめんリリー、つい夢中になっちゃってたみたいで……」
「いいですよ別に、私を迎えに行くことなんて忘れちゃうぐらい夢中になってたんですね」
「うっ……」
どうしよう、すごく怒ってらっしゃるみたい。
最近リリーが私に怒っている理由はわからないけれど、今回の理由は流石に分かるや。
「それで、私のことをほっといて何の本を読んでいたんですか?」
「うん、吸血姫に関する本と闇属性に関する本をね…」
「吸血姫と闇属性ですか……どうしてまた?」
「実は私ね、闇属性の授業が終わった後リリーの授業を覗きに行ったんだ」
「い、いつの間に!?」
「えへへ、それでねリリーの真剣な姿を見たら、私も頑張らなきゃなぁって思ってね」
「ライラさん……」
「いや、感動なんてしないでね?ある意味当たり前の事しかしてなかったわけだから」
「……感動なんてするはずがないじゃないですか…………すごく嬉しくはありますけど…………」
「なんか言った?」
「いいえ何も…さっ、帰りましょうライラさん」
私の手を取ってズンズンと歩き出すリリー。
「あれ、冒険者ギルドには行かなくていいの?」
「今日は学校初日だからいいんです。もうそろそろ寮の部屋も用意出来た頃でしょうしそっちに行きましょう」
なんだかリリー機嫌よさそう。
最近怒ったリリーばっかり見ていたけれど、やっぱりこういう表情を見ているとこっちも幸せな気分になれる。
……なんで機嫌よくなったのかはわからないけれど。
「早く行きますよライラさん」
▼▼▼
「結構いい部屋ですねライラさん」
「そうだね~」
五階建ての寮の最上階に部屋を設けてもらった私とリリー。
本来五階は王女様とか公爵令嬢様専用の部屋らしいが、他に空き部屋がなかったことや魔法適正の優秀さからこの階に部屋を持てることになったらしい。
流石は王女様たち専用の部屋、かなり高級感がある。
寮もいい部屋だし、リリーも楽しそうだし、久しぶりになんだか気持ちがうきうきしているが……。
その気持ちを遮るのは一つ、王女ウェンディ・フロスト・リーネリッヒだ。
五階に部屋を持つというのは彼女と同じフロアであり、リリーが角部屋で私はその隣、このフロアには四部屋しかないため私の隣の部屋は高確率で王女の部屋であるということだ。
気になりもするだろう……。
それにあの子はたぶん………。
考え事を止める声。
「……ライラさん、久しぶりに一緒に寝ますか?」
「えっ―――
い、今何て?
この一か月間ずっと一緒に寝てくれなかったのに、いきなりどうして?
いいの?
「寝ないんですか?」
「ね、寝ます!」
「じゃあ今夜はライラさんの部屋に行きますね」
なんだかよくわからないけれど、ひょっとしてリリーに嫌われちゃったのかもって思ってたから、一緒に寝てくれるってまた言ってもらえて良かった……。
やっぱりリリーの抱き心地は最高で、ぽあぽあ~って気持ちになれた。
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