第12話コテージの夜
豹の剣を頭上にかかげ、振り下ろす。
剣風で地面に穴があく。
それを何度か繰り返すと人ひとりがはいるだけの穴があいた。
竜馬が亜矢の亡骸を抱き上げ、その穴にいれた。
春香たちは近くの瓦礫や岩を集め、その穴を埋めた。
長細い岩を見つけた獅子雄は墓標がわりにそれを突き刺す。
天井に向かって零子は、魔銃フェンリルを撃つ。
銃声が空間に鳴り響く。
銃声は鎮魂歌であった。
とことことディスマは春香に歩み寄る。
「亡くなった戦士の武器は別の人間が引き継ぐことができるけど、どうする?」
とディスマはきいた。
春香はちらりと美穂を見る。
美穂は神木の弓を強く握る。
「私、亜矢の分まで生きるから。絶対に生き延びてみせるから」
美穂は宣言した。
空間に大きな木製のドアが浮かびあがった。
「これが新しい機能の一つコテージの入り口だよ。そこは絶対拒絶領域になっているので、体を休めることができるよ」
ディスマは解説した。
中はかなりの広さだった。
全員がくつろいでも余裕の広さであった。
中央に大きなテーブルがおかれている。
どうやらそこはリビングのようだ。
簡易ではあるがキッチンも備え付けられている。
奥には扉がいくつかあり、その一つを零子は開けた。
「いいね、きれいなシャワーとトイレもあるじゃないか」
零子は嬉しそうに言った。
その他の部屋は個室になっているようだ。ベッドなど必要最低限の家具がおかれていた。
「さあさあ、ようやく俺の出番だな」
腕まくりし、竜馬はキッチンに向かう。
彼は固有特技「調理」を使い、食材を調理していく。食材はあのドロップアイテムである。怪物たちが原材料であることに春香は一抹の不安を覚えたが、それはいい意味で裏切られた。
ワニ肉のステーキと亀のスープが今夜の晩餐であった。
ステーキはしっとりとした歯触りでよくソースが絡み、極上の味わいであった。
黄金色のスープはこくがあり、体にしみわたる。
「とても美味しいですよ」
海斗が感嘆の声をもらした。
「あんた、こいういのは食べないのかと思ったよ」
零子がステーキにかぶりつきながら、空美に言った。
「私、生きたい。生きることは食べること。食べることは生きること。私、こんなところで死にたくない」
空美はそう言うとごくりとスープを飲んだ。
うまそうに皆が食事をしている風景を見て、竜馬はひとり微笑んだ。
みんな思ったより図太いな。
彼は心の中でそう思った。
部屋でひとり、春香は休んでいた。
浅い眠りのなか、彼は睡魔に体を預けていた。
甘い香りが鼻腔をくすぐる。
それに暖かい。
まぶたを開けると息がふれあうほどの近い距離に零子の秀麗な顔があった。
甘い吐息が頬にかかる。
「お目覚めかい……」
零子は語りかける。
「あんたにお願いがあるんだ。私にだけ特別にユダの痛みを多く振り分けて欲しいんだ。私の武器をもっと強くして欲しい。私はね、こんな狂った世界で死にたくないんだ。あの子のようにね」
そっと春香の手をとり、零子は自分の頬にあたる。それはとてつもなく柔らかく、心地よいものだった。
「私、綺麗だろう。ろくでもない両親だったけど美人に産んでくれたことだけは感謝してるんだ。ねえ、あんた。私のこと好きにしていいからさ、お願いだよ……」
ポタポタと春香の頬にあたる生ぬるい液体は零子の涙だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます