さらば!「ろ号」(1)

「あああっ、虹色水のサンプルが」

 三郷は、散らばった欠片を集め始めた。

「サンプルなんて研究部にまだあるでしょ。なんなら、山に行けばいくらでも手に入るじゃない」

 高円の言葉を無視して、欠片を集めようとする三郷。

「ああ、もうっ、手を怪我するわよ」

 高円は三郷の元に駆け寄ると、拾い集めるその手を止めた。

 三郷は、高円をじっと見つめた。口元に力が入っている。

「っててて。ありゃ、やっちまったなあ、こりゃ。おい、怪我は無いかい」

 機体のスピーカーから葛城の声が聞こえる。

「どこ見て操縦してんのよう。つぶされちゃうとこだったわ」

「すまねえ、すまねえ。すぐに起こすからよ」

「そうよ、さっさとして」高円は強い口調で言ったが、

「おうよ、あれ、おっかしいなあ。故障か?」

 そこへ御所が駆け寄ってきた。

「葛城さん、そのまま一回降りてください。寝かせたままで、機体チェックプログラムを走らせてみます」

「わかったよ、じゃ出るわ」

ゴガッ

 機体背部の搭乗口扉から異音がした。

「あれ、開かねえぞ」

「扉がゆがんだかしら。待って、上に登ってみてみるわ」

 そういって御所が葛城の機体にとりつこうとした時、機体の上半身が急に起きあがった。両手をしっかり地面につけて、四つん這いになっっている。

「ちょっ、ちょっと、危ないじゃない。葛城さん!」

「いや、嬢ちゃん、俺じゃねえんだ。俺は何もしてねえ」

「え?」

「・・・っ、こいつ、勝手に動きやがる!」

 ろ号は、足を片方ずつ立てて直立体制へと移行する。訓練中の葛城には見られなかったスムーズな動きだ。

 御所は、すぐそばのコンソールに駆け寄ると、キーボードを叩き出した。

「停止命令・・・通らない。扉強制解放・・・・・・・通らない。どうしてっ!」

 御所は声を荒げている。

「こいつ、止まれ止まれ、このこのっ・・・ん?なんだ?ぐ、ふぅぐぐぐぐぐぐ」

 葛城の苦しそうな声がスピーカーから流れ出している。

「・・・波形反転!?どういうこと、これじゃパイロットが」

 御所は顔面蒼白だ。

「御所さん、どうなっているの、これはなに?」

「わからない。でも、脳波パターンが見たこともないものに変わって、しかもパイロットに逆流してる。葛城さん、葛城さん!?」

 御所が叫ぶが、葛城から返答はない。素早くバイタルをチェック。

 葛城の脈拍、呼吸は著しく低下しているものの一応生存を確認できた。

「・・パイロットは邪魔ってこと?」御所がつぶやいた。

 葛城ろ号は、隣で倒れている三輪機へ手を伸ばした。そして、自機の左手人差し指を立てると、三輪機の右腕に突き刺した。

 瞬間、三輪機が痙攣しはじめた。葛城機が指を引き抜くと、三輪機は四つん這いから直立態勢へと移行。右腕は力が入らないのか、ダランと垂れたままだった。

「・・・・そうか、微生物だ」

「三郷くん?」

「微生物ですよ、御所さん」

 三郷はなにか確信を得たようだ。

「虹色水の微生物が葛城機に入り込んで、機体を乗っ取ったんだ。それで運用系は二ついらないから、パイロットを気絶させた」

「微生物?虹色水の?」

「そうです、それで葛城機は近くにいた三輪機にも自分を分け与えた。仲間として!いや、まだ仲間という概念があるかどうかはわかりませんが、微生物の自己拡張の一種だと思いますが・・」

 三郷が最後までしゃべるのを高円が遮った。

「続きは別の場所でしましょ。今はここから離れないと」

 高円は三郷と御所を連れて、整備工場の非常口まで走った。

「大和隊長、ろ号二機が暴走。対処が必要です。大路班長と五条くんに伝達を」

 高円が走りながらインカムで状況を伝えると、大和から

「わかった」

と短く返事があった。直後、本部内でけたたましくサイレンが鳴り始めた。

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