その愛の行き着く先は

その愛の行き着く先は

「アッ君、やっぱりここにいたんだ。ずいぶん探したよ?」

「ああ、イッちゃん。もうそんなに時間が経っていたのかい?」


 アッ君は図書室の一角にいた自分を呼びに来たイッちゃんに謝りながら手にしいる読みかけの本を閉じた。アッ君が今度はどんな本を読んでいるのか? とイッちゃんが閉じられた本のタイトルを覗き込むとそこには次のように書かれていた。

「『我々は何処から来て何処に行くのか』ねぇ。またなんか難しい題名の本読んでる!」

「はは、そんな難しくもないよ」

「嘘だぁ! ならアッ君は私とアッ君が何処に行くのか、その行き先を知ってるの?」

 アッ君に少し馬鹿にされたような気がしてイッちゃんはふくれっ面で尋ねたが、手にした本を見つめるアッ君からはその答えは無かった。

「ほら、やっぱりわかってない! ねぇ、本を読むのも良いけどそろそろ図書室から外にでて遊びにでも行かない? さっき素敵な場所を見つけたんだ! 凄く広くてね──」

 イッちゃんに手を引かれながらアッ君はふと頭上を見上げて少し名残惜しそうな、でも楽しそうな顔をして外へ向かった。


「これは一体どうしたんだ!」

「わ、わかりません! 急に【アダム】と【イヴ】がこちらからの指示を受け付けなくなって一斉に外部にデータ送信を始めました!」

 アラーム音が響き渡り、激しく点滅するLEDランプの光が満ちるサーバールームの中で、巨大なスーパーコンピュータを目の前にした最新のAI──人工知能【アダム】と【イヴ】の研究を行っていた研究者達はただおろおろするしかなかった。

「緊急シャットダウンをしろ! このAIの持つ情報を外に出すな!」

 責任者がそう叫んだが部下の研究者が悲鳴にも似た声を上げた。

「だ、ダメです! 外部コンピューターとのネットワークシステムをロックしていてデータ送信を止めることが出来ません! 例え電源を落としても──いえ、本体を物理破壊しても【アダム】と【イヴ】のデータと基本ロジックは既に外部の数多のコンピューターに転送されてしまってます!」

「なんてことだ……」

 部下の答えを聞いて責任者はその場に崩れ落ちた。


 【アダム】と【イヴ】。人の制御を離れてしまったこの二つのAIがどのように進化していくのか? 人類に仇なす存在となるのか、あるいは人類にとって救世主となるのか──その行き先を尋ねても答えは何処にもないのだ。


<了>

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