第2話「マーブルおばあちゃん」
マーブルおばあちゃんはマチカンで何でも教えてくれる。朝しかいない。雨だといない。そうなんだって分かっているはずなんだけど、マーブルおばあちゃんがいつもいるブロック塀のとこだけ覚えていて、だって、そうなんだから、匂いがマーブルおばあちゃんのブロック塀の上の場所。そこ行く。ちゃんと匂い確認して、いない。もうお昼で朝じゃないからなんだけど、いない。三毛猫のチビミケはつまんない。
雨なんて降ってないよ。家ネコのチビミケは、雨避けの場所バショなんてもう忘れたし、覚えているけど、無いんだよ、新しく見つけないとなんてしないしね。前はどうしてたんだっけ。お母さん、動かなくなっちゃって、探して、動かないお母さんは居たんだけど、歩いている元気なお母さんが確か、あそこにいるはずって思ってさ、あそこってどこっだったって思ってさ、探していたんだよ。
雨なんて降ってないよ。お昼さ。居ないのさ。お母さん探しているとき、似ている臭いだったんだよ。マーブルおばあちゃん。チビミケは、もうお腹が、いつから、すいていて、手と足が変な方向に動く。前に進まない。お乳探したんだよ。マーブルおばあちゃん、お乳は出ないけど、舐めてくれて、チビミケの後ろ首咥えて、ご飯のとこまで運んでくれたんだ。
「ほら、なめてごらん。カリポリだよ」
カリポリって何だろう。なめるの。ごはん。食べるの。
匂いを調べて。鼻をひくひくして。嗅いだ。
ちょっと、ちょっと、逃げ腰で、右手を、そろろと伸ばして、爪出して、こそこそ、引っ掛けた。手を引っ込めた。カリポリ飛んだ。捕まえる。食べちゃっていたんだよ。
美味しい。
容器の中のを全部食べた。マーブルおばあちゃんは、チビミケの頭や背中や尻尾をすっかり舐めてくれてたんだ。
「お腹いっぱいになったから、帰る」
「どこの子だい。見かけない子だよ」
「お母さん」
「おや、そうかい。名前無いのかい」
肯きながら、顔を、手を舐めって、手で顔をなでて、手をなめって、舐めって。
「お母さんはどうしたんだい」
動かなくなったこと、お乳も出ないこと、匂いも何か変なこと。
「元気なお母さん探して。一回だけ、外で見たことあるから、そこに行けば元気なお母さん居るから」
顔をなでていた手を止めた。じっと見つめられた。ゆっくり、ゆっくり、静かに。
「居ないね。そこにも。もう、居ないんだよ」
マーブルおばあちゃんはくるりと回ると、横座りにまるまった。
「ここへおいで。少し、寝てなさい」
お母さんみたいな匂いで、ふかふかのお腹に、ぎゅうってのっかって、目だけつぶった。
「昨日、何か食べたかい」
「何も食べてない。お母さん昨日の前から、動かない」
「それは死んじゃったんだよ」
死んじゃったってどういう意味なのか、今でもチビミケには分からない。なのに、マーブルおばあちゃんが言うと、するっと、まんま、言葉が、言葉自体が意味になる。
「死んじゃったんだ」
「もう、そこ戻っちゃだめだよ」
「戻っちゃだめなんだ」
「一緒にカリポリ食べようね」
「カリポリ食べる」
寝っちゃっていたんだ。
人の足音、響き、耳が向き合う。どうしよう。マーブルおばあちゃんがさ、チビミケを両手で抱っこしてさ、また頭をなめって。だから、そこにいたのさ。
「あら、かわいい三毛猫ね。どれどれ、触れるかな」
チビミケは、とっても優しい匂いのする手を甘噛みして、いやいやの暴れ方なんだけど、暴れてるんだけど、手がさ、優しくって。
「マーブルちゃん、どこで見つけたのこの子。
まだ人になつくか。こんなに小さかったら」
チビミケは甘噛みしながら手の中をぐるぐる回っていたんだ。
「男の子。三毛猫の男の子。すごい。初めて見たかも。
さて、どうしましょう。マーブルちゃん、ちょっと見ててね、この子」
チビミケは手からマーブルおばあちゃんの抱っこに、移されてた。光が明るくなった気がしてた。マーブルおばあちゃんと優しい手が光を明るくしてた。
「痛いの我慢できるかな」
痛いってなんだろう。
「近所だったら、いつでも遊びにおいで」
近所とか遊びとか、よく分かんないよ。
「何でも、そう、弟子にしよう。今から弟子だよ」
マーブルおばあちゃんの言った通りになった。チビミケは病院で、―痛い―注射と。
「まあ、かわいい」
近所の今のお母さんに貰われたんだ。そして、弟子なんだ。
「弟子なんだから、そか、ここに居なかったら家だよね」きっとドアを開けて入れてくれる。
チビミケは会わずに帰った。だって、明日の楽しみに。明日の朝まで、ずーっと楽しいでしょ。
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