第61話 モルダーvsアスティ
「では第一回、部外者の女VS部外者の男の試合を初めていこうと思う。実況は族長であるこの私、シャルシャトム=フィルが務める」
「解説は村を追われて十余年、シャルシャトム=フィニーが務めさせていただきます」
軽く腕相撲とかで終わらせようとしていたら、騒ぎを聞きつけたフィルがなぜか街の者を集めて急遽、得体の知れない大会を初めていた。そしてなぜか集まってきたエルフの者どもも食料と酒を片手に見守っている。お前ら復興はどうしたのかと言いたい。
「ではフィルさん、今回の種目はどういったものなんでしょうか?」
「今回の種目はだな、エルフ族に伝わる伝統の競技をやってもらおうかと思う」
「なるほど、それは見てるエルフの方も盛り上がらずにはいられないですね。具体的にはどのような内容なんでしょうか?」
「フィーナはここにいなかったから知らないのか。まあ教えてやろう。この競技はお互いに手のひらサイズのクリスタルを自身の体のどこかに終い、それを奪い合う戦いだ」
「なるほど、確かにエルフに取ってクリスタルとは家の宝であり、誇りでもある。それを奪い合うゲームなんですね?」
「そうだ。というわけでアスティ殿にモルダー殿、準備はいいか?」
俺とアスティに普通に村の宝であるクリスタルを渡してくるエルフ族。そして盛り上がるギャラリー。
「いや……おかしくね?」
「この村の伝統を笑うか? 解説のフィニーよ、どう思う?」
「人間と言うのは実に浅ましく、伝統を軽んじる生き物ですね。極刑にしましょう」
「いや……違くてね?」
なんだろうな、全員酔っ払いかな? 話が通じない。
「どうしたんですかモルさん! 私が怖いんですか! 怖気づいたんですか!?」
軽快にフットワークをしている眼の前の馬鹿はもう臨戦態勢に入っていた。俺がおかしいのか?
「いやさ……そうじゃなくて……これやる必要ある?」
「試合開始!!」
カンっという甲高い鐘の音が響き、戦いの幕が無理やり、半ば無理やり落とされた。俺は何してるんだろうな。本当に。
「えいやあああああ」
無駄に大きい掛け声とともに走ってくるアスティを普通に横に移動して避ける。アスティはその勢いでしばらく進んで、こけそうになったがなんとか体勢を持ち直しまたこちらに向かってくる。今度は顔面へパンチをしようと拳を振るってきたので、それをいなしながら避けると、アスティは手の勢いが止まらずに自身の顔面を思いっきり殴っていた。馬鹿かな?
「あのなあアスティ。俺に勝てるはずないだろ? ほら鼻血が出てる。さっさと負けを認めようぜ」
「はあはあ……中々やりますね……。ならこれならどうですか……」
するとアスティの手が棍棒に変わっていた。ニヤリと笑うアスティ、どよめく会場。
「おーっと、アスティ殿の手が武器が変わっている! 解説のフィニーよ、これをどう見る?」
「モルダー殿は武器も何も無いので、これでアスティ殿が優位に立っていますね。これをどう覆すのか、いや覆す術があるのか、見ものですね」
普通に形態変化したことをスルーして実況するエルフ族の馬鹿二人。というか武器使うの反則じゃねえのかよ。武器置いてきちまった俺が馬鹿じゃねえか。まあ使うつもりもなかったけど。
「ふふん、これでモルさんが勝てる確率は0になりましたね……喰らえ!」
棍棒に変わった右手を大ぶりで上から振り終え押してくるアスティ。それを半歩右にずれ躱すと、また勢い余ってそのままごろごろと転がっていった。
「くっ……避けてばっかりじゃないですか……! 正々堂々戦ったらどうなんですか!?」
「そうは言われてもなあ……」
手を出して怪我でもさせたら悪いし……かと言ってこのまま何もしないままでは試合は終わらない。どうしたものか。
「まあ別にいいですよ、手を出さないならこちらが一方的に攻撃するだけです! 喰らえ!」
馬鹿の一つ覚えみたいに棍棒を降るアスティ。攻撃する時に足でも棍棒に変えて奇襲でもすればいいのに、能力の使い方がおそまつ過ぎる。まあもとは魔王だし、鎧があれば巨大化で一方的に倒せていたんだから、そんな小細工をする必要はないのだろうが。なんだろうな、こんなことなら戦闘教えておけば良かったな。
「くっ、なんで避けるんですか!! 卑怯者!!」
ぶんぶんと大雑把に降ってくる棍棒をひたすら避ける。当たりはしないがいい加減避けるのも疲れてきた。どうにかこの状況を打破できないだろうか。そう言えば……相手のクリスタルを取ればいいんだよな。なら別に攻撃する必要はないな。
「これでもくら……え? きゃあああああああああああ」
すれ違いざまにアスティの上着を剥ぐ。キャミソール姿のアスティが甲高い悲鳴を上げている。
「けだもの!! 何をするんですか!!」
「そうは言ってもなあ、ようは相手のクリスタルを奪えばいいんだろ? 動きを封じなくても服を全部脱がせば解決するだろ」
「え、ちょっと。なんですかその目は。え? ちょっと、え? やめてください。え? モルさん」
怯えた顔でこちらを見てくるアスティ。最初はこんな余興すぐにでも終わらせようと思っていたが、ちょっとテンション上がってきた。
「くっ、ただではやれれるもんですか……! やー!!」
左手も棍棒に変えて両手で攻撃してくるアスティ。手数は増えたが、隙きがありすぎる。これじゃ脱がせてくれと言っているようなものだ。
「え? あ。きゃあああああああああああああああ」
「おーっと、アスティ殿のスカートが降ろされ、上下下着姿になっている!! これは余りにも鬼畜すぎる! 解説のフィニー、この状況をどう見る?」
「アスティ殿の下着は黒なんですね。可愛いですね」
「解説しなくていいですよ!!!」
下着を見られないように手で隠そうとしているが、完全に見えている。なんだろうなこの状況、俺捕まらないかな。
「防戦一方のアスティ殿。だがクリスタルは見つかってはいない!! まだ逆転の目はあるぞ!」
「ですね、もう下着しか残ってないですけど、頑張って欲しいですね」
涙目でこちらを睨むアスティ。だがクリスタルは見つかってはいない。ということはクリスタルはその下着の中にあるということだ。つまりはそれを脱がしても、罪には問えまい。残念だったなアスティ、生まれたままの姿で敗北に打ちひしがれるがいい。
「うぅ……モルさんの犯罪者! 変態! 痴漢! 穀潰し!!」
「いや……なんかごめん。でもまあ、どうせ裸になるし、今更だろ」
「う……やってみないと分からないじゃないですか! くらえ!!」
またも一直線に突っ込んでくるアスティ。何かを学ぶということを知らないのだろうか。
右手の棍棒が顔面に当たる直前で体をそらし、最小限の移動で避ける。それを分かっていたのか、くるりと周り、左手の棍棒に遠心力を載せて上から叩きつけるように振り下ろしてくる。それをしゃがみ込むことで回避する。
「さて、万策尽きたな、アスティ。柔肌を晒すが良い」
悠長に勝利宣言して悦に浸っているとアスティはしゃがみこんだ俺に対し右足を棍棒に変え、左足を軸に回転し、足払いをしてくる。咄嗟にしては良い判断だ。
「動作が大きい、躱してくれと言っているもんだ」
アスティの足をジャンプし躱す。これで俺の勝ち……と思っていると、アスティの顔がニヤリと笑った。
「ふふん、これで躱せたと思いましたか?」
アスティは両手を棍棒から戻すと、手を地面につけ、棍棒に変化させた両足で回転を利用し攻撃してくる。
「カポエラか!」
「ふふん、これが魔王の力ですよ。喰らえ!!」
「くっ……!」
両手でなんとか蹴りを防ぐが、アスティの勢いは止まらず、無数の蹴りを放ってくる。余りの波状攻撃に俺はそれをただ防ぐことしか出来ないでいた。だが、防げてはいる。その蹴りを防げば俺の勝ちだ。
「はっ、さすがに俺も驚いたが、所詮は武芸だ、俺に勝てはしない」
「ふふん、まあそうでしょうね。でもこれなら!!」
アスティの掛け声と同時に左足がバネに変化する。地面を強く蹴ったかと思うと、宙に浮かんだアスティがその落下のスピードに乗せて右足の棍棒で踵落としを俺の顔へと放つ。
寸前の所で両手を交差し、攻撃を受け止める。受け止めれはしたが衝撃で腕が後方に押し出され、無防備な体がさらけ出される。アスティはそれに対しにやりと笑い、間髪入れずに右足を棍棒に変え、空中で体を回転させ、振り切るように俺の顔面へと蹴りを放った。やばい、これは躱せない。
「これで!! 終わりです!!」
両手をなんとか動かそうとするが、アスティの蹴りを防いだ衝撃が残っており、体の後ろに投げ出された両手は言うことを聞かない。ここから避ける事ができるか? だめだ、例え後ろに飛ぼうともまた追撃が来る。くそっ、お前案外強いじゃねえか。勇者の俺が負けるなんて……認めよう、体術ならお前の方が上だ。だが……勝負には負けん。
「アスティ!!」
「なんですか!! 命乞いですか!!」
「下着の中身が見えそうだぞ!!!」
「え? きゃあああああああああああああ」
空中で体を丸め、必死に俺から体を隠そうとするアスティ。だがもう遅い! クリスタルの反射光が目に入り、俺はクリスタル目掛けて手を伸ばす。
「これで!! 終わりだ!!」
胸の谷間にあるクリスタルを胸の下から手を入れ、抜き取った。言葉には表せない興奮が俺を支配する。それは勝負に勝ったからだろうか、それとも谷間に思っきり手を突っ込んからだろうか。俺には分からない。
地面に落ちて、放心状態で空を見上げるアスティ。高らかにクリスタルを掴んだ右手を空に突き上げる俺。それを見て、歓声を上げるギャラリー。
「おーっと! モルダー殿の! 右手には! クリスタルだあああああああああああ! 勝者はモルダー、モルダー=ウバレインだあああああああああああああああ!!」
負けられない戦いがここにはあった。一瞬の攻防、機転。勝者は笑い、轟くように声を上げる。
「勝ったぞ!! 見たかアスティ!! 俺の!! 勝ちだ!!」
こちらに背を向け涙目で睨むアスティ。残念だったな、すべては俺を中心に回っている。
「モルさんなんか……死んじゃえええええええええええええ!!」
負け犬の遠吠えだ。勝ったのは俺だ!! 残念だったなアスティ!!
勝利の余韻に浸かりながらふと思った。そもそもこれは俺の好感度を上げるためにやったものじゃなかったのかと。その矛盾を俺は考えるのをやめることで振り払った。勝利に代償はつきものだ。
だが、完全にゴミどころか畜生を見る目で睨むアスティを見て我に返った。俺は何をしていたんだろうかと。
まあ、でも一つ言うことを聞かせる権利は得た。失うものも大きかったが、得るものの大きい。戦いとはそういうものだと、感傷に浸りながら俺は思った。
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