第53話 クリスタル・カリバー

 村の東側に入り口があり、そこの方面に敵はいる。入り口からわざわざ攻撃したのは見せしめか、武力の差を示して降伏を早めるためだろう。で、目的はグラン・クリスタルにあると言っていたがそれならば裏から強襲して奪ったほうが早い。なぜ入り口から攻撃するか、それは多分ここのエルフ自体を狙っているんじゃないか?


 入り口から攻め、順当に行けば制圧して先頭の近くにいたエルフとグラン・クリスタルは確保できる。ただし逃げたものもたくさんいるだろう。その上、これみよがしに村の中央に飾ってあるグラン・クリスタルを持って逃げる者がいてもおかしくはない、いやむしろそうするべきだ。そうなると敵側が警戒するのは入り口以外からの逃走になる。つまりは俺が強襲のために裏を取ろうとして村の入口とは別の所から行ったとしても敵に出会う可能性は格段に高い。


「どうすっかなあ」


 と考えていると村の入口でまた一際大きな音がした。もうエルフ側の抵抗も限界が来てるかもしれない、とりあえずは敵に見つかることも想定しつつ裏に回るとするか。


 しばらく姿勢を低くし、茂みの中に身を隠しながら後衛のいる所まで目指していると、三人ほどの敵兵が遠巻きに発見できた。二人が剣を持っており、一人は杖。近接戦闘が二人、回復か魔術系が一人か……。戦わないに越したことはないが……後々エルフの人質を取られて抵抗されるのもしんどいな。倒しておくか。


 剣を持った二人は村の方を見渡し警戒している。その後方にいる杖を持った男は注意が散漫としている。こんな所に敵は来ない、それに来たら前の二人が対応するだろうとお思っているのだろう。それが命取りだ。


 なるべく音を立てないよう近づいて、エクスカリバーの杖で頭を思いっきり殴ると、そのまま前のめりで沈んでいった。エクスカリバーで刺しても良かったんだが、まあ殺さないに越したことはない。今更な気はするが、こっちで犯罪者として追われるのはできれば避けたいしな。と、音に気づいたのか、たまたまなのか、振り返った剣士の一人と目が合った。


「おま……人間か! てきしゅーー


 倒した男の杖を咄嗟に拾い、剣士の男の顔面に投げると、勢いよくぶつかり、その勢いのまま地面に転がっていった。何が起こっているか分からないという表情でもう一人の剣士は見ていたが、俺が剣を持っているのを見て剣を構えて俺を見据えた。


「さてとお手並拝見と行こうか、新エクスカリバー」


 エクスカリバーを右手に持ち、山を落ちるように剣士まで駆け抜ける。その勢いのまま乱雑に剣を振ると当然のごとく交わされ、俺がバランスを崩し体制を整えている内に男の剣が俺の腹に深々と突き刺さっていた。


「人間か。エルフに下端していた者か、盗賊かは分からないが恨みはない許せ」


 本当に恨みはないのだろう、淡々と言った後剣を抜き、トドメの一撃を刺すためにゆっくりと剣を構えた。その油断が命取りだ。こちとら死にかけるのは慣れてるんだ。


「ぐっ……! お前……うごけ……た…………のか…………」


「職業柄な、慣れているんでな。恨みはない、許してくれ」


 最後に何を思っていたのか分からないが、最後の表情は笑っていた。俺と同じような人間だったのかもしれない。今となっては口を聞くことも出来ないのだが。


 自分の脇腹を見ると先程刺された箇所が回復魔法を受けた時のように治っていた。今考えれば刺した瞬間には回復を受け治っていたように思える。


「なるほど……これがこの剣の効果か……これなら一人でもいけるな」


 もう一人の剣士の腹を思い切り殴り気絶を深めてから、敵の後衛向けて俺は歩みを進めた。新エクスカリバーと共に。


 森を歩くこと五分、ようやく敵の後衛が見えてきた。ここから村の入口も確認できるが、防戦一方、なんとか堪えているが破られるのは時間の問題と言った所か。エルフ族だと攻撃できる者が少ないのだろう、前線で戦ってる者が少ない。回復魔法はあるのでしばらく持ちそうだが遠距離攻撃で後ろにいるエルフをやられたらお終いだな。それをやらないのは戦えるエルフ自体が目的だからだろうか? 持久戦でなるべく被害を出さないようにとでも指令が出ているのかもしれない。もしくは別の目的か……まあその辺は捕虜でも捕まえれば解決する、後で良いな考えるのは。


 とりあえず俺のやることは後衛への奇襲で、敵を混乱させることだ。本来なら数人を倒して引いてまた攻撃を繰り返すところだが、エクスカリバー、いやクリスタル・カリバーとでも言っておくか。こいつがあれば僧侶が回復をかけ続け特攻していたようなあの時の戦法が使えるかもしれない。状況次第だな。


 敵の一番右側の魔法使いらしき集団にばれないように近づく。だが、その瞬間、俺の足元に潜ませていたのだろう陣が発動し、強い光と大きな音が森をこだまする。


 まずいな、敵が奇襲を想定していることはこっちとしては想定外だ。敵の対応は早かった。エルフ側にも人数を残し、三割ほどの人員で陣形を組み直し、一瞬で迎撃体制を整えていた。見える範囲では近接戦闘が六人、後衛が一四人。さすがに死ぬ気がする。


 こちらも防御態勢を取り構えたが、もはや遅かった。後衛にいた呪術師の呪術で体の自由が奪われた後、近くにいた剣士が俺の体を斜めに切り伏せた。おびただしい量の血が吹き出してるなと他人事にように思っていると、気づけば地面に倒れていた。


 さすがにこの状況はまずいな、いくら敵を切ろうにも切る相手が近づいてこない。さらに俺を拘束するために呪文を詠唱しているのが見える。さーてどうしたものか、右手はギリギリ動く。動くが敵は来ない。刺せる相手がいないので回復はできない。回復できるエルフは近くにはいない、たとえ助けに来てくれたとしても陣があるのでバレて捕まえられる。八方塞がりだな。


 死線をくぐり抜けすぎたせいか思考だけははっきりとしていた。この状況で何ができるだろう。いっそエルフに脅されていたと言って投降するか? いやそれはだせえなあ、死んだほうがましだ。だが死にたくはないな。さて……今俺にあるのはクリスタル・カリバーのみ。でギリギリ動く右手。で腹は敵に切られ血が吹き出しているので失血死寸前と。どうすれば……いや……これなら……これならいける可能性がある。剣の性能を検証してないのでまあ運任せだが、まあしないよりはましだろう。


 右手の剣で自分の左腕を狂ったようにひたすら刺す。あらかた刺し終えた所で左腕に軽く刀身を当てると、まるでバターのように肘から先の左腕が両断され、地面に落ちていった。


「な、なんだお前……何をしてるんだ……」


 敵の剣士が俺の様子に唖然としていた。まあ頭が狂ったようにしか思えないな傍から見たら。地面に倒れながら、右手で腹を触ると傷口は塞がっていた。左腕は切り落ちたまま再生はしないが傷口は塞がっている、血は出ていない。右手、右足、左足に力を込める。よし、動く。半信半疑だったが、自分の左腕と犠牲に全身を回復することは出来たようだ。さてと……切れ味も今ので上がったし、回復は敵を切ればできる。行くか。


 瞬時に立ち上がり、目の前で唖然としていた男の右足を横から切る。右足で止めるつもりが両足を両断してしまった。まあ僧侶はいるし死にはしないだろう。それにしても切れ味が高すぎる、性能がおかしい。左腕を見ると赤い蒸気が上がっており、回復中と言った所か。さーて、次はと……。


「うわあああああああああ」


 切り伏せた剣士の横にいた男が叫びだしたのを皮切りに、傍観していた他の剣士と後衛の魔法使い、呪術師、僧侶が一斉に迎撃体制にうつる。味方に当たらないようにしたピンポイントの魔法の矢が俺を貫いていく。そしてトドメと言わんばかりに剣士が俺を殺そうと五人で取り囲み一斉に俺の体めがけて剣を突き刺した。おびただしい量の血が剣を伝い流れ出していく。俺はその光景を他人事のように見た後、剣を突き刺しながら震えている剣士五人を順番に切り伏せた。


「お前……人外か……? なぜ生きてるんだ」


 呪術師らしき男が俺に対し畏怖の目を送ってくる。体全身が回復のためか赤い蒸気に包まれており、流れ出した自分の血が体中に付着しており、傍からこの状況を見たら悪魔か何かかと思うだろう。


「まあ仕事柄死にかけるのは慣れていてな。じゃお前もちょっと眠っててくれ」


「……っ! 魔法使い! 防御陣だ! 防御陣を展開しろ! 並の人間とは思うな! 相手は何か特殊な能力を持っている人間だ、魔族と戦っていると思え!」


 魔法使い数人が多重詠唱の防御陣を展開する。今までのエクスカリバーならばあの防御陣を突破することはできなかった。今ならば行けるか?


 半円の防御陣に向け、俺は駆け出した。右手のクリスタルカリバーを強く握りしめ、突き刺すように防御陣に向け攻撃する。


「この防御陣は聖剣クラスの剣でも防ぐことが可能だ!! そんなもの、聞くわけが……な…………なんだそれは……こんなことが……」


 剣の切っ先が防御陣に触れた瞬間、ガラスが割れるかのように一瞬で粉々に砕け散っていった。あまりにも想定外だったのか、術者14人が全員、その場で立ち尽くしている。


「ごめんな、殺しはしないからしばらく眠っていてくれ」


「なっ…………た、隊長! たいちょーー


 クリスタルカリバーの柄で術者全員のみぞおちを強打し、昏睡させた。もしかしたら切れ味だけじゃなく、剣自体の攻撃力が上がってるのかもしれない。何ていうものを装備してるんだ俺は……。あいつらがグラン・クリスタルとやらを奪おうとする理由が分かる気がする。このクリスタルを軍事転用できれば兵器の性能が著しく上昇するに違いない。まあその奪おうとしたもののせいでやられるとは、何ともまあ悲しい話だ。


 村の入口を見るとエルフ族の前衛の一人がやられかけているのが見えた。あっちももう時間がない、急がなければ。



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