さかみち
中学時代からの友人Aが免許を取ったので地元の人間が免許を取ったら必ず行く鶏料理の店にドライブへ行こうと誘ってくれた。
僕は二つ返事で快諾し、昼少し前に落ち合いAの運転する車に乗り込んだ。
とりとめのない話をしながら車は快調に進んでいく。
ふと道路の端にひっそりと供えられた造花とペットボトルの飲料が視界に入る。
色褪せた造花に真新しい造花…。
ここは県内でも有名な死亡事故が多い峠で、下り坂ならスピードの出しすぎということも考えられるが、緩い上り坂で反対車線脇のガードレールをぶち破る事故が後を絶たないのだ。
下り側のガードレールの下はすぐ崖になって歩道がないので上り側の歩道横の法面に供えてあるのだろう。
僕は横を通り過ぎるときにこの話をしようかと思ったが、運転に集中しているAに聞かせる話題でもないかとそのままやり過ごした。
無事目的の鶏料理の店に到着し鶏料理を堪能するうちにこのまま帰るのはもったいない、ここまで来たのならついでに美人湯で有名な温泉施設に行こうとその場のノリで温泉行きを決めた。
のんびりと湯につかり、ふたりで腰に手を当ててフルーツ牛乳を飲み干すころには陽もだいぶ傾いてまもなく山の端に入ろうとしていた。
陽も落ちて危ないから峠を迂回し国道経由で帰ろうと僕は提案したが、Aは安全運転で帰るから大丈夫、もしあおられても端によけてやり過ごすからと言って譲らないので一抹の不安を抱きながらもAの車に乗り込み帰ることにした。
幸い、前後を走る車もなく、他愛のない話をしながらのんびりと帰る車の中で不意にAがあの話を始めた。
ちょうどこのあたりだったよな。ほら、あそこに花が手向けてある。
ヘッドライトに照らされて造花とペットボトルの飲料が光の中に飛び込んできた。
こんな何もないところでどんどん事故が起きるって…なぁ。
「俺だよ。」
緊張感のない声でAがそう話す声にかぶるように抑揚のない声が2人の間で聞こえた。
途端、Aの口から短い悲鳴が飛び出し、車が反対車線のガードレールに向かって勢いよく突っ込んで行った…。
くる 短編小説集 真田真実 @ms1055
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