1ー1
白髪の女性がゆっくりと目を開いた。
仰向けに寝ていた彼女は、深紅の瞳で天井のランタンを見つめ、かすかに揺れる動きを察していた。
必要最低限の見るからに古びたの家具が並ぶ室内に朝日が差し込む。
ひび割れた窓ガラスに修繕された様子はなく、澄んだ朝日は屈折のせいか歪んでいる。
女性は寝具から降り、すっと立ち上がると隣の寝具を見る。
そして少し考え後部屋を見回すと、部屋の窓を開け放った。
3階建ての宿から見えるのは、朝日に反射して輝く海面と渡り鳥たち。
堤防に打ち付ける波の音が聞こえてくる港町の朝。
吹き付ける潮風が彼女の前髪を揺らす。
そんな当たり前のような景色と日常を無表情で眺めていた。
「おはよう!マリ!今日も元気かい!?」
そんな静けさを打ち消すように、いきなり満面の笑みで男が現れた。
しかもあろうことか、逆さまの状態で彼女の表情の覗き込んでいる。
両足を屋根の淵に引っ掛け、器用にバランスを取りながらマリの反応を待った。
「いやぁ、マリに気づかれないように起きるのは大変だったよ。それよりもマリより早く起きれるかも自信なかったんだ。」
「……」
「だったら寝なきゃいいんだと!思ってさ一晩中驚かすタイミング狙ってたんだよ!すごいでしょ!」
してやった感全開でしゃべり続ける男。
しかし、そんな男の登場から微動だにしないマリからの返事はない。
笑顔でしゃべるつづけた男だったが、あまりの無反応に表情は真顔へとゆっくり変わり目を開く。
そして、互いの視線が合ったまま沈黙が流れた。
「…………」
「…………」
そして、マリが眉一つ動かさずに端的に返事をした
「おはよう20」
「うん!おはよう! ってえ !?それだけなの!?」
20と呼ばれた男はあまりのリアクションのなさに驚いた。
そしてマリは何事もなかったかのように振り返ると、寝ていたベットのシーツを整え始める。
「もお、マリって本当無表情だよね」
冷たいマリの反応に不満げな表情を浮かべる20と呼ばれた男。
器用に体を回転させながら部屋に入ると誇りまみれの椅子に腰かけた。
とっておきの驚かせだったのだろうか、不発に終わった悔しさを交えるように視線を送る。
そんな20を気にも留めず、マリはシーツを整え終えると掛けてある皺だらけのシャツに腕を通す。
「そうかしら」
まるで何もなかったのような返事に20は諦めるように薄汚れた天井を仰いだ。
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