24 事件解明①

 旅館の従業員と宿泊者たち全員、それに私たち刑事は二階の宴会場に集まった。

 係長が第一声を上げるために進み出た。

「えー、今から、この、男湯露天風呂で起きた殺人事件の犯人を逮捕する!」

「いや、係長、そこまでのことでは……」

「なんだ、香崎、怯むな、行けー!」

「はあ、はい……」

 係長は私のために言ってくれたのだが、私にはすごいプレッシャーがかかるだけだった。

「ではこれから、今回の殺人事件の謎が解けたので、皆さんの前で説明します」

「わあ、さすがだわ。さすがは刑事さんですね。で、犯人は誰? 誰なのかしら?」

 森田一子が興味津々に尋ねてきた。またプレッシャーがかかった。

「えー、順を追って説明しますので」

 全員が着席して、全員が私を見ていた。ものすごく緊張した。

「私がお話することは、私の想像がかなり入っています。しかし、そうとしか考えられないような証拠がありますので、おそらくそうだと考えられることをお話します。それでは、私の推理にお付き合いください」

 係長も少し緊張気味に見えたが、京子はイケイケな感じだった。

「殺害された、熊田しか雄さんと吉村けんさんは、『現実に存在した恐怖の動画』という映画を見ていました。吉村さんがレンタル屋からDVDを借りていました」

「あー、係長がどうでもいいって言ってた件ねー」

 京子の発言に、係長はゴホンと咳払いした。

「二人はその映画を見てから、幽玄荘に来ました」

「なぜ、お二人はこの旅館に?」

 主人が尋ねた。

「熊田さんは、吉村さんを殺害しようと企んでいたからです」

 女将と森田一子が驚いた。

「熊田さんと吉村さんは、オレオレ詐欺の常習犯でした」

「おう、二人は殺されても仕方のない人間だ」

 係長が割って入ってきた。

「えー、それはともかく、熊田と吉村、この二人は県内の高齢者から一億円以上をだまし取った悪人であることは間違いないでしょう。私たち警察の聞き込みによると、二人は従属関係にありました。熊田が主導的な役割を担い、吉村が受け子をしていたようです。吉村は詐欺を働くことを辞めたいと、熊田に伝えました。熊田はそれを拒否しました。そうすると、吉村は、辞められないのなら詐欺のことを警察に話すと、熊田に言いました。それから、熊田は吉村に殺意を抱くようになりました。そして、熊田は、吉村を殺すために、この幽玄荘にやって来ました」

 全員がため息をついた。

「少し話を戻します。先ほど言った『現実に存在した恐怖の動画』について、説明させてもらいます。ホラー映画研究会の方々はご存知でしょうが、この映画は昨年スマッシュヒットしたホラー映画です。内容は、あるカップルが古びた旅館でビデオテープを見つけます。ビデオテープには、老婆がこちらに向かってゆっくりと歩いて来る映像が記録されていました。その老婆は動画の最後で急にこちらに近づいて来て顔を上げて叫び声を上げます。カップルはその恐怖の動画を見ます。その後、男性のほうが亡くなって、女性のほうは助かります。その恐怖の動画を見た者は死ぬといううわさが広まって、都市伝説になっていきます。助かった女性は映像クリエイターで、呪われたビデオテープを編集していました。彼女は老婆が顔を上げて叫ぶシーンをカットした映像を作成していました、見てから日付が変わる前に。そのおかげで、老婆の呪いを受けずに助かったのです」

「おう、香崎、なんか似たようなドラマとかよくあるんじゃないか」

「ですよねー、係長、ありがちなストーリーですねー」

「そうですね、まあ、私もよくある感じの映画だと思いますね」

「それで? その映画がどう関係あるんだ?」

 料理長の木村がぶっきらぼうに訊いてきた。

「熊田は、この映画の設定を利用して、吉村を殺そうと考えたんです」

「えーーーーっ、マジで!」

 京子が驚いた。

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