第33話 地球での出来事(後半)

 CIAの工作員ブライアンは、とある街のオフィスにて電話をかけていた。ゲムギリオというロシアの組織と停戦協定を結ぶためだ。


「まさか、お互いこんな風に接触する日が来るとは思わなかったな」

「ああ、リュウタに感謝しなければ」

「リュウタ。あの日本の少年。何の因果か、宇宙人との交渉役に抜擢された」

「あんた達、何を知ってる」

「フフフ。冗談だろう?」

「宇宙人のことを教えて欲しい。なんだっていい。リュウタに聞いたんだ。あんた達が我が国よりも卓越して空の事情に詳しいことをな……」

「君が知ったところでどうなる? チャールズロペスの二の舞になるだけだぞ?」

「なんだって?」


 相手は思いのほか柔和に対応した。このまま話がまとまりかけたか、ブライアンがそう思ったときだった。


「ブライアン、ところで君達は少年を乗せた宇宙ステーションの設計図を持っているという話だったな?」

「あ……ああ、そうだ」

「それはこれのことか?」


 ブライアンのデスクのノートパソコンに一通のEメールが届く。件名は《ロボットハウス設計図》だった。まさか。ブライアンはメールに添付されている画像ファイルを見る。


「そんなっ……!」


 そこには、ブライアンがエイムズの研究センターから押収したものとまったく同じ設計図が添付されていたのだ。受話器の先からくすくすと含み笑いが聞こえてくる。


「ふふ、どうやらあたりのようだな」

「なぜ? あんたたちがこれを?」

「これであなた方と協力するメリットはなくなった。残念だが今までの話はなかったことにしてもらおう」


 そういって、相手は一方的に通話を切ってしまった。怒りに打ち震えるブライアン。


「くそっ!」ドンっ、と。デスクを殴りつけた。「あともう一歩ってところで……」


 ブライアンは顔を持ち上げる。そして、オフィスの窓から空を見上げた。


「すまない……リュウタ。やっぱり我々は、もう君のことを……」



 * * *



 その日、満月の夜だった。

 松本隆太の父親はビデオ電話で宇宙に出発する隆太にメッセージを送った後、彼の田舎の墓場に向かって車を走らせた。到着する頃には既に真夜中になってた。松本隆太の祖父にあたる、松本幸太郎の墓だ。父親は墓石にカップ酒を供えると、そばに寄り添うようにうずくまって空を眺めた。辺りは蛍が飛び交う幻想的な空間が広がっている。


「なぁ親父、リュウタが宇宙に行ったよ。これも何かの思し召しなのかもな」

「結局隆太には言えずじまいになっちまったけど。あの日、俺は確かに宇宙人からの電報を受け取った。当時は何を悪ふざけをって思ったけど、今になって思うんだ。親父のいってたこと、何も間違ってなかったんだってさ」

「皮肉なもんで、その資格は俺を飛び越えて隆太に渡った、これも何かの縁なのかな?」

「もし親父のいってたことが本当なら、宇宙人はきっと親父のことを、いや隆太のことを知ってる。でもそれってあの子のためになることなのかな? 宇宙人に隆太が親父の死んだことを伝えたところで、それってどう思うのかな?」



 * * *



 松本隆太が渡米してから数日後のこと。彼の通う高校では小さな騒ぎになっていた。


「なぁ隆太宇宙にいったんだろ?」

「どうして連絡とかしてこないんだろ?」

「馬鹿だな、仕事の最中に俺達に連絡なんてできないだろ、普通?」

「……」

「それにしても、一穂には何か言ってきてもいいのにね?」

「あはは、きっと忙しいんだよ」


 一穂はぎゅっと、スマホを握り締める。


「ふぅん。もっとニュースとかになって大騒ぎになると思ってたのにな」

「あーあ、つまんねぇ」

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