第7話 チユキのスキルと人となり

 神像騒ぎが終わり、再び元の会食室に戻る。


「さて、マサオミさんのスキルは攻撃にある程度使えそうですし、チユキさんが冒険者へのチャレンジをスタートしても良いかもしれませんね」


「うん! あたしもなんか行けそうな気がしてきた!!」


「待て待て待て! 俺には話が見えてないぞ。

 俺のスキルのことはやっと少し分かったが、チユキのスキルはどうなんだ?

 俺みたいな謎のスキルがあるって話だろ?」

 

「うん? ああ、あたしのスキルかー。戦闘には使えなさそうなんだけどね、じゃあ少し紹介しよっか」


 チユキはそう言って、腰元の袋から濃緑の草と水の満たされた瓶を取り出した。


「こっちは〔薬草〕、すり潰して傷口に塗って癒せる。

 こっちは〔聖水〕、まぁ教会の人たちが清めた水だね。

 私はこれを合わせることができる」


「合わせるって、錬金か調合みたいなもんか?」


「あたしもまだ何となくしか説明できないんだけどね。

 『錬金』はスキルと道具を介して、ものを組み合わせて作る。

 『調合』はあたしらの知るように化学反応させつつ、ものを精製する。

 あたしのスキルは、その必要になる順序をスキップしちゃうの。

 ものの備える性質と性質を組み合わせる。それを一体化させるときに必要な現象を無視して、効能の組み合わさったものが出来上がるという結果だけを生み出せる」


 分かるような分からないような説明に首をひねる。俺の反応に「やっぱ分かんないかー、うーん。トワルデさんの分析風に言ってみたけど、あたしもよく分かってないんだよなー。もう見せた方が早いよねー」とチユキは呟いて、両手を合わせてアイテムを重ねた。


「『ミックス』!」


 チユキが唱えると、〔薬草〕が〔聖水〕の瓶に巻きつき、宙に浮かんで回転し始める。回転はどんどん加速してものが目に見えない速度になる。そして回転がゆっくりになると、そこにはオレンジの液体に満たされた瓶が精製されていた。


「これは〔ライフポーション〕。飲むか、あるいは振り掛ければ傷を癒せる。

 こんな感じで、あたしは材料を揃えれば便利なものをお手軽に作れるみたい」

 

「それは……すごいな。簡単にお金儲けできるんじゃないか」


「んー、でもいくつか制約はあるみたいなんだよね。

 【ミックス】で作ったものは真夜中0時になれば元のものに戻っちゃう。だからいつ使うか分からない誰かには売れない。

 【ミックス】で作ったものをさらに【ミックス】の素材にはできない。【ミックス】製の〔ライフポーション〕を〔ハイ・ライフポーション〕の素にはできない。だから、倍々ゲームとかわらしべ長者は難しいかな。

 あとは【ミックス】は回数制限がある。1日につきレベル÷10の回数くらいみたいだから、数で稼ぐのもちょっと難しいかな。

 まぁそれを差し引いても便利なスキルなんだけどね」


「なるほどなぁ。何でもできるわけではないのかぁ。

 まぁ戦闘向きじゃなくて、生産か補助向きっていうのは分かった。

 にしても、何でそんなスキルを授けられたんだ? 俺は単にカードゲームが好きだから【カード使い】にさせられたようだが、チユキは何かミックスなことでもしてたのか」


「うーん、そこはあの光のことだから適当な感じだよ。

 あたしはミックスジュースが人気の喫茶店に勤めてた。そこに着目されて、こんなスキルを割り振られたみたい」


「勤めてた……って、まだ17歳の高校生じゃなかったか」


「まぁね。ちょっと片親でお金も足りなくてね。あたしも稼いでたってわけなんだよね。そんな中であたしは事故死しちゃったけど、お父さん何とかやれてるかな……」


 チユキはため息をつきながら、あらぬ方向へ遠く目をやった。

 初対面から今のやり取りまで、チユキにあった違和感の正体が分かった気がする。

 最初から今まで、チユキは学生にしては随分としっかりしていた。俺に対しても死に掛けて目を覚ます前からあらかじめ『鑑定』をして、即座に謝るという対応をきちんと考えていた。

 今のスキルの説明だって、もっと浮き足立ったものでも良いはずなのに、実用面に焦点を合わせて、食い扶持に直結できるかをしっかり考察している。

 磨耗した社会人の俺ほどではないが、思いつきで行動しがちな学生とは一線を画している。必要な場面では意識で感情を制御して、現実の把握に割り当てられているのだ。チユキに対してなぜだか会社に入りたての後輩くらいの気分で接してしまった理由が、そのバックグラウンドを垣間見て分かったような気がした。

 最初から俺とチユキがパーティを組む前提で考えられていたようだが、その発想に抵抗を感じなかったのも、チユキが年相応以上にしっかりしているからだった。

 異世界からの稀人まれびと同士で他に知り合いもいない。トワルデさんも街の有力者で多忙だろうし、アテにするのは頼りすぎというものだろう。となると、互いの生活基盤が出来上がるまでは、チユキと組んで何らかの生計を成り立たせるのは合理的な考えと今ならしっくり来る。

 しかし、パーティを組んだバトルのバランスの話をしていたし、冒険者になる前提の話をしていた気もする。戦闘経験のない俺たちがいきなり冒険者になるというのも、突飛な発想にしか思える。


「しかし、冒険者っていうが、他の選択肢は難しいのか。俺たちの世界は殺し合いとは無縁の生活だったんだ。平和ボケした俺たちが急に戦闘で常勝できるものかどうか……」


 トワルデさんに問いかけると、顎に手をやり、申し訳なさそうに目を細めた。


「ええ、ですが、それでも冒険者になるのが最も効率的に日々の糧を得る手段だと思うのです。

 この街は冒険者中心で成り立っています。生計の立て方は大別して2種類、冒険者になるか、その冒険者相手に商売をするか、です。しかし、異世界から来て身元が不確かとなると、商売のお手伝いをするにも信用を得られないのですよね。

 そこで一度冒険者になれば、冒険者のライセンスを得ることができます。これは全国共通のもので、何か信用を損なうようなことをすれば、たちまちに経歴に傷が残るわけです。ライセンスに誓って働くのであれば、商売のお手伝いも可能となることでしょう。

 なので、冒険者として仮登録して、正式なライセンスを得る段階まで冒険者として実績を積み上げることをオススメします。大丈夫ですよ、あなた方ならば、きっと程なくしてライセンスを得られるはずですから」


 やはり、まずは冒険者になるしか選択肢はないのか。戦闘経験&人生経験豊富な、トワルデさんから具体的展望についてご教授を願うこととしよう。

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