巨人との攻防

 きっと引かせる策はある。

 だけど、のんびりと考えているなんて贅沢をこいつは許してはくれなかった。


「ふん。小癪な策を考えているな? だが、如何なる策も真に力ある者には無意味と知れ!!」

「わっ! ちょっと!!」


 説得の方法を考えている暇もなく、一つ目巨人は金棒を振り下ろした。

 仕方なく俺は金棒を殴りつける。

 瞬間、これまでと同様に、金棒は粉砕される。俺の手は衝撃も何もなく、重量自体感じなかった。


「な、なにぃ!?」


 一つ目巨人は一つしかない目を見開き戦いた。

 こいつ、後ろから俺の戦いを見てなかったのか?

 取るに足らないと思っていたのかも知れない。

 そもそも、仲間のモンスターを吹き飛ばして道を開くような奴だ。

 弱者なんてどうでもいい存在と思っているんじゃないだろうか。


「お、おのれ。雑魚の分際で」


 やっぱりか。

 人間を無条件で格下と思ってる。

 殺すこと自体、虫を潰すくらいのどうでもいい存在なんだろう。

 なんだか、腹の底から怒りが込み上げてきた。


「わしの金棒の方が壊れるとは。何かのスキル持ちか?」

「スキル?」


 技能って意味じゃないよな? あれか、異能バトル漫画でよくある特殊能力ってやつか?

 なるほどな。武器を受け止めるんじゃなくて壊れるなんておかしいと思ったんだ。

 でもエリーザは何も言っていなかったぞ。

 彼女も把握していない能力なのか?

 だとしたら何だこの力は?


「解ったら引け。お前じゃ俺には勝てないぞ」


 こいつは本当に腹が立つ。

 だけど、俺が殺すのはやっぱり気持ちがいいものじゃない。

 自分が嫌だからそれを誰かに押し付ける。なんて小さい人間なんだろう。

 それでも、普通に会話のできる相手だ。俺には簡単に割り切れない。

 ここで引いてくれれば。


「・・・舐められたものだな。多くのスキル持ちを殺してきたわしに、大上段からものを言うとは」

「殺して・・・」

「無論! 貴様らは忌々しくもスキルを使い、わしに歯向かいよる。が、所詮は弱者の足掻き。わしの力の前に無残な最期を遂げたわ。貴様もそうなる」

「・・・そうか」


 甘いことをこれ以上言っていられない。

 切り替えるしかない。

 よし、こう考えよう。

 こいつを凶悪な犯罪者に見立てて、軍隊でも歯が立たず、止めれるのは特殊な兵器を持った俺だけ。

 そんな設定でこいつを見るんだ。

 ここでこいつを止めないと殺人は際限なく続く。

 海外なら十分射殺されるべき状況だ。

 俺がやるしかない。

 俺が止めるしかないんだ!


「お前は俺が止める!」

「ほざけ、スキル持ちが貴様だけだと思うな!」

「なん!?」


 なんと、いつの間にか、壊したはずの金棒を、何故か一つ目巨人は再び握っていた。


「な! なんで!?」


 今度は剣で斬ってみる。

 やっぱり俺からの攻撃だと例のスキルは発動しないみたいで、カーンという金属音がして、剣と金棒は激しくぶつかり合った。


「ぬう!」


 俺の怪力に驚き、あっちは金棒を手放してしまったが、俺は剣をまだ握っている。

 これで、王手だ。

 返す剣で一つ目巨人を狙うと、


「どうした。それで終わりか!!」

「な、どうして!?」


 金棒が再びそこにあった。

 さっきと同じだ。なんで!?


「何故わしが一つ目であるか解るか。それは鉄火場でひたすらに剣を撃ち続けていた先祖のなごり。火花飛び散る鉄火場では片目を失うことは珍しくはない。炉を片目で見続けるからな。そして生まれたのがわしのスキル『鋼生成』だ」

「鋼の生成!」


 ということは、こいつは鋼製の武具であれば、無から即座に生成できるって訳か。なんだそれは。


「そらそら、どんどん行くぞ」

「くっそう!」


 次々に生成される金棒を俺は片っ端から壊していく。

 だけど、あっちも生成が止まらない。

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