第8話
さて、アマビエがいないことに気づいた人魚がおりました。
ホシウラです。
ホシウラは気づくとすぐに岩場へと向かいました。
岩場にはアマビエと、忘れもしませんあの人の子がいます。しかも人の子は泣いているように見えました。
もしかしたら、とホシウラは思いました。
人の子は何か願いを叶えてくれとアマビエを口説いているのではないか。もしかしたらもう何度も願いを口にして、アマビエも叶えようという気に鳴っているのではなかろうか。
長い人魚と人の関わりの中では、そういう事も起きていないではありません。実際に命をかけて人の命を救った人魚もいるのです。結果的に人魚の肉が薬だなどと誤解されて、他の人魚が迷惑を被ったのですが。
ホシウラにとってアマビエは、人魚の希望という事をのぞけば、あまりに頼りない相手でした。
いつもにこにこと大人しいですが、これという強い意思を見せるような事もなく、なんの主張もしません。
アマビエにしてみれば、人並みに動けない上に、あまりに大切にされている事が引け目になり、しかも大した不満もないので大人しくしているより他にないというだけなのですが、そんな事はホシウラにはわかりませんでした。
あの頼りないアマビエの事だ。人に泣きつかれたらその願いを叶えるために、命を投げ出してしまうのではないか。
実際にはアマビエは、肉を人へ差し出して、人魚の願いを叶えようとしていたのですが。
一本の尾の人魚でも、ちいさな願いは叶えられる。
ホシウラは考えました。
では、二本の尾の自分が、アマビエが人の願いを叶えないように願えばどうなるだろう。
馬鹿げた考えかもしれません。
人であれ、人魚であれ、たった一つしか命がない事に代わりはないのです。
けれどもホシウラは、そして人魚というものは、自分の命を引き換えてのたった一つの願いの事を、あまりに大事に考えていました。その願いと引き換える命よりも大事にする事に、すっかり慣れていたのです。
ホシウラは願いました。
たった一つの自分の命にかけて。
アマビエが、人魚のための願いを叶えますように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます