第42話語る事件

「急に働き手を失った堂本家、長男の孝一も就職は決まっていたが、来年の事で当面はバイトで家計を助ける為聡子は渋谷のスナックに勤めました。

だがスナックの仕事は彼女には合わなかったのか?それは判りませんが、もう少し収入の良い風俗の道に足を踏み入れたのです。

この時家計を助ける為、マンションでの一人暮らしを引き払って実家に戻りました。

その結果大村茂樹との仲も疎遠に成ったと思われます。

大村茂樹は、私の推測ですが水商売に行った時点で、現在の妻瑠衣に乗り換えたのだと思います。

両親が比較的堅い家の様ですので、去って行ったと思われます。

水商売から風俗(品川ゴールド)に入った時、自分から去って行った男の彼女の名前を使っているのを見ても、憎しみが滲み出ていると思います。

この風俗でかつみと名乗り、運悪く加山即ち桂木常務に出会ってしまったのです。

元々頭の良い女性が好きだった桂木は、かつみ即ち堂本聡子を気に要っていた。

でも聡子は僅か半年で風俗を辞めています。

理由は父の癌の進行が止り、仕事に復帰できたのです。

ここで不思議な事に父の仕事先の前田機械で、従来とは異なる楽な職場に配属に成り、その後は管理職に成っています。

これは多分桂木常務が裏から手を廻して、昇進させたと考えられます。

何度も呼ばれている間に、聡子は身の上話をしてしまったのだと考えられます。

半年程で風俗を辞めて、就職活動を始めた聡子は運悪くか?桂木が勧めたのかも知れませんが、東南物産を受験したのです。

この頃柳井工業の植野晴之と知り合ったと思われます。

多分聡子は東南物産に就職するまで、加山が桂木常務だとは知らなかったと思われます。

その後は父親の仕事、兄の仕事、自分の過去、柳井工業の彼氏の仕事も桂木常務に握られていたと思います。

事実柳井工業の植野は彼女が東南物産に入社の時に、中国の支店に飛ばされています。

その後は秘書兼愛人として、桂木常務に仕えていたのでしょう?

年に数回帰って来る植野晴之との愛を確かめながら、その様な時桂木常務は熱海、初島カジノ構想に着手したのだと思われます。

秘書として聡子は優秀だったと考えられます。

片時も離さずに、連れて各地に同行していますから、そして泊まる時はかつみの名前を使って宿泊していましたので、警察は掴めない訳です」

「加山かつみ!盲点だったな」黙って聞いていた横溝捜査一課長が喋った。

「だが何故?この様な事件が起ったのだ」

再び話し始める美優。

「先日自供した柏崎由希子を利用して、政界の大物代議士錦織議員を手の内に入れて、さあこれからと云う時に、ボイスレコーダー盗聴事件が勃発して、足立伸子に強請られてしまいました。

再三に渡る強請は、足立伸子では無く堂本聡子が仕掛けたと思われます」

「えーーーー、堂本聡子が?何故?」

「それがこの事件を複雑にした原因です」と言うと説明を始める。

「それは復讐を実行したのです、彼女は足立伸子には何も恨みは無かったと考えられますが、足立伸子を利用して、桂木常務を強請ったのは間違い無く聡子と植野だと思います。

足立伸子は百万と引き替えにボイスレコーダーを桂木常務に渡しましたが、その取引をしたのが堂本聡子だと思われます。聡子は植野に言われて、ボイスレコーダーのコピーを作成して、内容を分散して後に毎朝新聞、警察、週刊誌に送りつけています。これ程の大スキャンダルを持っていても、お金に換える意志が全く無いのは、二人が復讐の為だけに行動した事が窺えます」

「それ程の恨みとは一体何だったのかね?」怪訝な顔で尋ねる横溝捜査一課長。

「ここで婦人科医の二人が登場します。桂木常務は愛人兼秘書の堂本聡子に、惚れていたと思われます。

その為恋人の植野晴之が邪魔な存在でしたが、年に一回程度日本に戻って来る植野と聡子の恋は燃え上がり、妊娠したと考えられます。聡子は妊娠を機に秘書兼愛人を辞めたいと桂木常務に申し出たと考えられます。桂木常務は聡子以外の秘書共過去に関係を持って、籠谷次長が山戸医師の元に連れて行き堕胎をさせていたと考えられます。桂木常務は恋人が居る聡子に対し相当な嫉妬心を持っていた様です。

その為、聡子を山戸医師の病院では無く、設備の整った病院に送り込んだのです」

「何の為に?植野の子供を中絶する為なら、山戸医師で充分だろう?」

「それは恐ろしい計画だったのです。その任を任された籠谷次長、元課長は功績で大阪本社の次長に昇進したと考えられます。聡子が宿した植野の子供を始末するだけでは我慢出来ずに、桂木は堕胎と同時に聡子が二度と妊娠出来ない様に卵管を切除させたのです」

「えーー、惨い!だが本人は直ぐに判るだろう?お腹に傷が出来るのだろう?」

「先日、釜江婦人科病院の医療記録の中に、一人名前の無い患者の中絶手術と同時に、膣式卵管結紮術で行っていますので、傷が残らない方法です。この手術をされたのが堂本聡子だと考えられます」

「私にも娘が居るが,この様な事をされたら、殺すぞ!」怒りと目頭を押さえる横溝捜査一課長。

「鬼の様な所行ですね、桂木常務も聡子を愛していたのでしょうが?方法が間違っていますね!でも聡子は何も知らなかったと考えられます。傷も残っていませんから、子供が堕胎された事実のみを実感していたと思われます。その後のカジノ構想の為に、桂木常務と行動を共にして、初島にも行って民宿に泊まっていますからね!だが、私が柳井工業で調べたら、或る日植野晴之が辞表を叩き付けて退職しているのです。それは上海支店にもう一年勤務を言い渡された日ですと、証言が取れました。再び桂木常務の差し金で、人事が決まったのだと思います。多分、日本に戻った植野は自分の人事に対して、何処からか聞いたのだと思います。それで関係会社の東南物産に目星を付けて、色々な処に聞いて偶然恐ろしい事実を知ってしまったのではないかと考えられます」

「私なら耐えられない!桂木常務と聡子の関係は知らないのだろう?」

「帰国して初めて知ったと考えられますね!」美優の話は続いた。


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