第21話美優の勘

「この厚木のラブホには足立伸子は仕事に行ったのか?」

「はい、同僚の急病で退職する一ヶ月程前に入っていました」

「そうか!決まりだな!このカップルに間違い無い!ボイスレコーダーを忘れたのはどちらかだ!」横溝捜査一課長は、二人の足立伸子殺害時のアリバイを調べる様に指示をした。

翌日柏崎由希子の事務所に向かう一平達、相手の男は由希子の答え次第で聞き取る事にする横溝捜査一課長。

元人民党幹事長を勤めた経験も有る実力者、錦織雄次郎衆議院議員で神奈川県の選出だ。

以前は若手のエースと呼ばれた時期も有り、年齢は五十代後半だ。

「まさか、この二人に関係が有ったとは驚きだったな」横溝捜査一課長が呆れた様に言った。

佐山が「この二人が強請られていたのでしょうか?」と言う。

「少なくとも不倫だから、世間に出れば大きなスキャンダルに成る」

「柏崎は独身ですが、錦織は妻も子供もいるし、一時は将来の総裁候補とまで言われた人物だから、痛いだろう?」

「でもそれで殺しますかね?」

「少なくとも足立伸子と木南信治の二人を殺害した可能性が有りますよ」

「益々判らないのは桂木常務殺しだな!理由が判らない」

二人は頭を抱えて、柏崎由希子の聞き込みの結果を待つ事にした。


その頃美優は新幹線で新横浜に行き、そこから横浜線に乗り換えて菊名に向かう。

東急に乗って、乗り換えが多いけれど、武蔵小杉は品川に行くなら便利だと調べて来た。

かつみと呼ばれた女性は、本当は別の自宅が在るが、何かの事情でこの場所に住んでいたのでは?と思いながら外の景色に目を移す。

横浜駅に行くのも十分程度なのね、電車の路線図を見て急に横浜の大学を調べ始める美優。

桂木常務が好きだった女性が頭の良い女性だと云う事、この武蔵小杉から学校に行きながらバイトをするなら?と考える美優。

「偏差値の高い大学は二つ、この武蔵小杉なら国立の方ね」独り言を呟く美優。

しばらくして、武蔵小杉駅を降りると、目的の場所までタクシーで向かうがワンメーターの範囲で充分歩ける距離だと思った。

「綺麗な高級マンションだわ」独り言を言いながら時計を見ると、約束の時間まで少し余裕が有るので、近所を見て歩く事にした。

マンションの裏側に入ると、三階建ての古いマンションが道を隔てて建っている。

見上げると丁度

メゾンむらさき

のバルコニーが見える。

裏通りに入ると、極端に異なるマンション(ハイツ茜)と小さな看板が出ている。

中から一人の女性が出て来たので「このマンションはワンルームですか?」そう尋ねると「はい、学生さんが多いですね、妹さんの住居をお探しですか?」と尋ねられた美優。

微笑みながら肯き「ここに横浜の国立に通われている方いらっしゃいますか?」尋ねる。

「わー頭が良いのですね、妹さん!今このマンションから通っている人は居ませんけれど、近いですよ!」

「昔は居たの?」

「私は知りませんね、でも昔は何人か居たと思いますよ」

「あのマンション素敵ですね」メゾンむらさきを指さす。

「高級マンションですから、当然ですよ!億ションでしょう?私には夢の世界です」

そう言って笑う学生。

美優の頭の中に、かつみと言った女性もあのマンションを見て、羨ましいと思って書いたのかも知れないと思いながら、約束の時間にマンションの玄関に向かう。

セキュリティが万全で、入り口で部屋番号を押すと「美優さんですか、待っていましたのよ」向こうから聞える声は騒がしい。

近所の人が集って居るのね、聞く手間が省けるわと思いながら入って行く。

大理石の玄関、エレベーターの感じも高級感が漂う。

築十一年なのか、エレベーターの品番が十一年前の年号に成っていた。

かつみがこのマンションを見た時は、築五年程度なのか?光輝いていただろうと思って、三階に着くと「わー、週刊誌の紹介通りの美人さんだわ」

「素敵!」

「このマンションでは事件は起ってないわよ!」四、五人の奥さんが口々に話すので、判らない状態。

マスコミの威力は恐ろしい、一年程前の記事でもこの反響に驚く。

「どの事件?静岡なら商社マンの殺人?」

「いいえ、もう一つ有ったわね!ホテルの掃除の叔母さんの方?」

「最近では、木南とか云う遊び人が海に投げ捨てられていたわよ!」

「どの事件?」

五人が適当に喋るので美優が「はい、その事件総ての犯人を捜しています。そして重要参考人の女性がこの部屋に住んでいる事に成っているのです」

「えーー宮本さん、誰か入れたの?御主人と子供さん以外に住んでいたの?」

「何年前!」

「多分五年前位だと思いますよ!」

宮本がコーヒーを入れて、美優に勧めながら「五年前位に他人が家に入った?電気屋さんがテレビ運んで来たわ」

「違います、何日かこの家に来ていた人はいませんでしたか?須藤瑠衣さんって学生さん?」

「さあー女性は来ないわ、この人達以外に、特に若い女性は来ませんよ!先日も御主人に須藤とか瑠衣とか聞かれましたけれど、心当たり有りませんね」

「この裏手に古いマンションが在って、そこには学生さんが下宿されていますが、その学生さんは来ませんか?」

「私達と学生は殆ど交流が有りませんよ!ねえ、みなさんも同じですよね!」

「少し待って、宮本さんの家に少しの間、学生の家庭教師の子来ていなかった?息子さんが高校入学の時よ!」一人の女性が急に思い出した様に言った。

「でも捜しているのは女性の方ですよね」

「はい、そうですが、その学生さんは何処の大学でしたか?」

「入試の追い込みに来て貰ったのよ!確か、横浜の国立大学の学生だったけれど、卒業して田舎に帰らなければ成らないと言って、半年も来なかったと思うわ!」

「その男の子の名前判りますか?」

「調べれば判るかも知れませんが、確か関西の出身だったと思いますね!でも須藤では無かったですよ」

「その男の子一度見た事有る!夏だったかな、この前のマンションの女子大生と仲良く歩いていたわ」

一人の女性が思い出した様に言った。

「それは、本当ですか?」美優の瞳が光って、何かを掴んだ気がしたのだ。


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