第45話 緊急事態
「っ! おい!?」
突然の
「ぐ、あっ……!!」
その直後、錆川の手の甲には傷が広がり血が流れ始めた。
「くそっ、やめろ錆川! それ以上やったらお前は!」
「それ以上やったら……死んでしまうと? ええ、いいじゃないですか。最初からお伝えしている通り、私の目的はそれで達成されるのですから……」
「くっ!」
「おおっと、そこまでだ
「それでいいわけがないだろうが……!」
「いいや、それでいいんだよ。錆川が全てを抱え込んで死ぬ。みんながそれを望んでいるんだ」
「姉さんがそんなことを望むかよ!」
だけどどんなに喚いたところで錆川を止める方法は思いつかない。仮に学園の生徒たちが錆川に怪我を『肩代わり』させることにリスクを感じたとしても、岸本が『肩代わり』させれば直に限界を迎える。
くそ、ここまで来て打つ手なしなのか?
「錆川さん!」
その時、教室に高い声が響いた同時に見知った顔の女子が入ってきて、錆川に駆け寄っていく。
「アキ!?」
「
「わかった! 行くよ錆川さん!」
「え、ちょ、ちょっと……」
「待てよ。誰だか知らねえが何のつもりだよ?」
「
「ああ?」
「よくわからないけど、錆川さんはこっちで預かるから。みんな、行くよ!」
教室の外にはアキの他に数人の女子がいた。よく見ると先日見学に行った手芸部の面々だ。既に体力が尽きかけているであろう錆川は抵抗せずにアキたちに連れていかれた。
「……ちっ、あいつら外部入学組か。錆川の『体質』については知らねえんだろうな」
「そういうことですわ。先ほどメッセージを送った際に、葉山さんたち手芸部の皆さんに『岸本くんから錆川さんを守ってくれ』とも送らせていただきました」
そうか、岸本と錆川を物理的に引き離してしまえば傷を『肩代わり』させられない。錆川をこちらで押さえてしまえば岸本の企みは封じられる。
「まったく、どいつもこいつもなんであんな不気味な女に肩入れするかね。あんなわけわかんねえ『体質』を持ったヤツなんざ気持ち悪くて仕方ねえのによ」
「その『体質』を都合よく利用していたのはお前らだろうが」
思わず反論したが、自分のセリフに違和感を抱いた。
そうだ、そもそも岸本も錆川の『体質』を都合よく利用していた。自分の怪我を錆川に『肩代わり』させられると思っているから、
それなら岸本にとって、錆川が死ぬのはむしろ不都合なはずだ。
しかしコイツは錆川があらゆる苦痛を背負い込んで死ぬことを望んでいる。姉さんを死に追い込んだのが錆川だと思っているなら復讐が理由なのかもしれないが、錆川も自分の死を望んでいる。本人が望んでいることをしても復讐にはならないだろう。
もしかして、岸本が錆川の死を望む理由は姉さんの一件とは別に存在するんじゃないだろうか。
「まあいいさ、いくら蜜蝋でも四六時中錆川をガードできねえだろ。ここは一旦退いてやるよ」
余裕の言葉を吐いて岸本は教室を出て行った。
「助かったよ
「ええ、とりえあずは葉山さんに連絡を……」
しかし蜜蝋さんは手に持っていたスマートフォンを床に落とし、その場に蹲った。
「お、おい!?」
「も、申し訳ありません……ううっ……!」
痛みを堪える声で思い出した。蜜蝋さんはさっき自分の怪我を一部分戻されたんだ。まだ足にはいくつものアザが残っている。口には出していなかったがずっと痛みを堪えていたんだろう。
「まずは保健室に行こう。アキに連絡するのはその後だ」
「はい……」
※※※
養護教諭に『階段から落ちた』と言って蜜蝋さんを保健室で休ませた後、俺はアキに連絡を入れた。
「アキか、錆川はどうしてる?」
『手芸部の部室で休んでもらってるよ。でも事情は説明したくないみたい』
「実は蜜蝋さんが体調不良になってな、今は保健室で休んでるから俺だけそっちに行く」
『え!? じゃあ私は保健室行くよ! 錆川さんは他の子に見ててもらうから!』
「わかった」
とりあえずは手芸部室に錆川を迎えに行くか。蜜蝋さんの言葉が上手く利いてるなら、岸本は近づけないはずだ。
通話を終えて携帯電話の画面を見ると、留守番電話のメッセージが入っていた。
「発信者は……
そういえば青田は
メッセージを再生すると、通話口から聞こえてきたのは慌てたような青田の声だった。
『佐久間、これ聞いたら錆川さんにも伝えてくれ!』
そしてその後のセリフは間違いなく緊急事態を示していた。
『倉敷先輩が……死んじまう!』
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