香御堂こうみどうとはいったい何なんだ、という疑問が頭に思い浮かんだからだ。

 考えてみれば神様に不可能はないはず。

 なのに大神おおかみはやってほしいなら香御堂こうみどうの主人に相談しろと言い、また廉然漣れんぜんれんに対する香御堂こうみどうの主人の態度は、道祖土さいどが言う神使しんしに対するものとは到底思えなかった。昼食中のやり取りはあちらが宿の主人だからと思ってみていたが、廉然漣れんぜんれんの素性を知った今となってみればなんだか納得がいかない。

 お茶をすすり話に一段落置いている道祖土さいどを見つめながら辻堂つじどうはぼつりと呟いた。

廉然漣れんぜんれん神使しんしで、大神おおかみは神様。なのにさっきから聞いていればまるでそれよりも香御堂こうみどうのあの女主人の方が上に居る様な扱いだと思うんだが。人間にしか見えないあの人も廉然漣れんぜんれんと同じく何かしらの変身をしているのか?」

 辻堂つじどうの言葉に廉然漣れんぜんれん道祖土さいどは顔を見合わせる。

「意外だな、辻堂がそんなことに気付くなんて」

「お、俺だってそこまで馬鹿じゃねぇよ」

「そうみたいだね。っていうか、廉然漣れんぜんれん『様』と大神おおかみ『様』だからね。そこは気をつけて」

 わかったと頷きながらも、道祖土さいどにまで、まるで筋肉バカだと言われているようで、辻堂つじどうは少しふくれっ面を見せる。

 道祖土さいどはふてくされる辻堂つじどうに「ごめんね」と少し吹き出しそうになりながら謝って廉然漣れんぜんれんを見た。

 道祖土さいどの視線に廉然漣れんぜんれんが少々考えた後、顎を少しくいっと引き上げるようにして了承の合図を出すと、それを見て取った道祖土さいどが話し始める。

香御堂こうみどう主人榊さかきみことさんは神降かみおろしの神子みこ神憑かみがかりなんだよ。ただし普通の神子みこと違うのはその神降かみおろしが最高位、またはそれ同等の力の神を自身の体に降ろすことができて、降ろしたのちも自身の意識を保っていられるっていう事。それに付け加え、この世に宿っている神仏やそれ以外の特殊な力、それら全てを無に帰す神殺かみごろしが出来る」

「それは、凄いことなのか?」

「凄いどころではないね。考えてみてよ、神様を殺すことができるんだよ? 凄い以上でしょ?」

「そ、そうか。そう言われると凄いな。でも人なんだろう?」

「そうだね、廉然漣れんぜんれん様のような神使しんしではないし、神様でもないよ」

百目鬼どめきや俺達と変わらない同じ人間であるのにどうしてそんな凄いことができてしまうんだ?」

「生物的には『人』でも『人間』という枠には当てはまらないのがさかきさんなんだよ。少し難しいんだけど、さかきさんは確かに人間の男女の間の性行為によって命を授かった。でも、母親の腹の中での成長の途中で神仏に選ばれ、人であるのに神仏と変わらない存在としてこの世界に誕生したんだ。人間として生を受けたから廉然漣れんぜんれん様とは違う、けれど廉然漣れんぜんれん様よりずっとこれ以上ないほどに凄い『人』なんだよ。実質、さかきさんの力って人が宿していい力でもないし反則技な力だよ、本当に」

「母親の腹の中で選ばれた……。そんなすごい人が生まれるって言うことは宿に見えてあそこは由緒正しい神社仏閣なのか?」

 道祖土さいどの話を聞いていたが、話の大半はよくわからず、でも分かる部分だけを理解していた辻堂つじどうが感心しながら言えば、廉然漣れんぜんれんが頭を横に振りながら話に加わった。


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