第22話 にかいせきはありますか
「どういう……」
バーの中。マスターも、カウンターに座った客も、皆ぴくりとも動かない。ツタが絡まり、止まっている。
「寝てますねぇ」
「生きてるのか?」
「息はしてますよ、よく見てください」
よく見ても、息をしてるかどうかはわからない。血色が悪いわけではないし、きつねの言う通り寝ていると判断するのもなくはないのか……?
「澱んだ臭いとか、しないでしょ」
俺は鼻をすんすんした。
「森の匂いがする」
「まあ樹海ですからね、呑まれちゃったんでしょう」
「呑まれたら困るだろ」
「まあ、困るかもしれませんね」
「起こさないと」
「あのねぇ、そんな簡単に起きると思います? 眠りっていうのは呪いですよ。しかもこれ、樹海の力でしょ。よそからやってきた僕たちがちょっと何かしたところで解ける類いの呪じゃない」
「そうなのか……」
俺は視線を下げる。
「放置するしかないのか」
「うーん」
きつねは手を頬に当てた。
「世界が無になってきてるってことでしょうねぇ」
「どういうことだ?」
「今までルールを守っていたものが、ヒトや獣の管理から外れてきてるんじゃないですかねぇ」
「ええ、難しいな……暴走してるってことか?」
「まあ、そう、ですかね」
「歯切れが悪いな」
「だって暴走って言葉強すぎでしょ」
「同じだろ」
「言葉は繊細なんですよ。扱い方には気をつけないとぉ」
ふぁ、ときつねがあくびをする。
「どうした、ひょっとして面白くないのか」
「そうですねぇ……お酒が飲めると思ったのに飲めないからぁ……とりあえず座りません?」
「座るって、どこに」
「テーブル席あるでしょ。これですよ」
入ってすぐのところにあるテーブル席。
よいしょ、ときつねが手前側に座った。そのまま俺の手を引っ張り隣に座らせる。
強引だな。
「あ、僕はドリンクいいんで」
「聞いてねえよ……そもそもドリンクなんてないだろみんな寝てるんだし」
「はぁ……わかりませんよ、あるかもしれないでしょ」
そのとき俺の耳にチキチキ、という音が入った。そういえばこの音、バーに入ったときから微妙にしていたことに気付く。
「怪音がするんだが」
「どうせメカでしょ、そういう音ですよ」
奥の方にあった階段から、白い機械が降りてきた。
楕円形、一つ目、四本の足。
「こいつ、村の!?」
「叫ばないでくださいよぉ、別個体です」
「いや、だって……」
機械はチキチキと移動してきて、俺の前にグラスを一つ置いた。
「これは……」
「ミルクでしょ」
「きつねの分は?」
「僕、いいって言いましたから」
「え」
「さっきねぇ、ふぁ」
くあ、とあくび。
「たぬきくんはそれ飲んでてくださいよ。僕はちょっと、寝ます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます