第22話 女子って怖い!
まずはパニック発作で息も絶え絶えの木場先輩を外野に置き、羽根園部長とオレが内野に入った。
敵コートには半数の二十四人が内野にいる。
「こりゃ全員倒すのは骨ですね」
オレのつぶやきに、部長は自信満々に答えた。
「大丈夫だ。敵のコートをよく見てみろ。相手の数が多いって事は的が多いってことだ」
「そうですかねえ」
「そうに決まってるさ。こんだけ人がいりゃ、目をつぶって投げても当たるんじゃないのか。まあ見てろよ!」
そう言うと、部長は華麗なフォームでフリスビーを振りかぶった。
なるほど、卓球は絶望的にへたくそな羽根園部長だけど、他のスポーツまで苦手とは限らないんだ。
こりゃあ、期待できるぞ。
「よっしゃあ、食らえっ、牙狼雷神波!」
部長が渾身の力を込めて投げたフリスビーは、彼の叫びとは裏腹にヘロヘロと相手コートに飛んでいき、そのまま難なくキャッチされてしまった。
「!?」
そして次の瞬間、相手選手の投げ返したフリスビーが部長の頭に直撃する。
「いやぁ、悪い悪い、三階堂、あとはよろしく頼んだぞ」
三人対四十八人の対決は、あっという間に一人対四十八人に変わった。
「部長……アンタって人は、ホントにできない子だったんですねえ……」
しかし勝負が進むと、部長が言ったとおり敵人数の多さはたいしたハンデにはならないことがわかった。
ドッチボールと違って、フリスビーのスピードはさほど速くない。
女子の投げたものをキャッチするのはさほど難しくなかった。
さらに、こちらが投げたフリスビーは密集して動きの取れない女子部員たちに面白いくらいに命中する。
あっというまに、十人を外野に送りやった。
「ようし、三階堂、いいぞ!」
女子卓球部員たちの表情にも焦りの色が見え始めていた。
絶対的に有利だと思っていた状況を覆されて動揺しないはずがない。
そして競技がなんであろうと、試合中に動揺すればそれは負けにつながる。
「みんな、しっかりして!」
そう周りの部員たちを叱咤しながら、足元に転がるフリスビーを拾ったのは部長の佐々木さんだ。
しかし彼女自身もドップリと悪いムードにはまっているらしく、さっきから動作の一つ一つがなんともぎこちない。
「もう! あと一人なのに、どうして当たらないのよ!?」
半泣きでフリスビーを投げようとするが、案の定、足をひねってすっ転んでしまった。
「痛ぁ」
オレは空中にフワリと浮かんだ投げ損ねのフリスビーを掴むと、佐々木部長めがけて振りかぶる。
転んだままの彼女は身動きがとれず、悲鳴とともに顔を覆った。
「ちょっと待って、ヤダ、やめて」
さっきまで凛としてた先輩女子が見せるか弱い姿に、思わず顔が綻ぶ。
「ハハハ、大丈夫ですよ。このディスク柔らかいんで痛くないです」
「ウソウソ、ヤダ、怖いよぉ」
オレは腕の振りを止め、それから、うずくまる彼女の足元を狙ってフリスビーを下手からふんわり放り投げた。
「しょうがないなあ。武士の情けってヤツですよ」
「そう、アリガト」
次の瞬間――佐々木部長は一転、素早い身のこなしでフリスビーをキャッチすると、オレの足元めがけて投げ返してきた。
「えっ?」
足に当たったフリスビーが地面を転々と転がる。
「男子卓球部、アウト!」
式部先生の嬉々とした声が響く。
「だ、騙したなぁ」
怖がったのも転んだのも、全部佐々木部長の演技だったのか。
(女、怖ぇええ!)
呆然と立ちすくむオレに、彼女はウィンクしてみせる。
「ゴメンねぇ。ウチの顧問あんなひとだから、負けたらどんな目に合わされるかわかんないでしょ。部長としては部員を守らないわけにはいかないから」
(ひいなといい、佐々木部長といい、女子ってのはなんでこんなに演技が上手なんだ? チクショー、やっぱり女なんかに心を許すんじゃなかった!)
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