第11話  対召喚獣戦!!

「フフフ、いい度胸だ。召還獣木場よ、卓球台をセットせよ!」


 羽根園部長の号令で、木場先輩は勉強を取りやめ部室の隅にあった卓球台を広げ始めた。

 この部室は他に物がないせいもあって、卓球台を部屋の真ん中に置いてなんとか試合ができるくらいの広さがある。


「あ、でも、オレ、ラケット持って来てないです」

「フン、部室にあるのを使え。一通り種類はそろってるからな。それにこれからもラケットなんか持ってこなくていいぞ。何せオマエの敗北は決まっているんだ。つまり、今後の卓球部の活動はバンド一筋。金輪際ラケットを握ることなんかないからな」


 オレのことを初心者か何かとでも思っているのか、部長は余裕たっぷりだった。


(今にみてろよ)


 適当なラケットを借りて、一、二度素振りをする。

 久しぶりに握るラケットはラバーも硬くグリップもボロボロになっているのに、不思議なくらい手に馴染んだ。

 十ヵ月のブランクがあっというまにどこかへ行ってしまったようだった。


(ラケットを握るのは、中三の夏の大会以来か)


 ふと最後の試合の記憶がよみがえって、息が詰まりそうになる。

 中学生活の集大成のつもりで望んだ夏の大会で、オレは一回戦から有名な高橋英樹と対戦した。

 有名な高橋英樹といっても、けっして桃太郎侍ではない。

 そこまで有名なほうじゃなくて、中学生のうちからオリンピック候補生に選ばれている卓球界でそこそこ有名な高橋英樹だ。

 もちろん勝てるとは思っていなかったけど、それはもうみるも無残なほどの惨敗を喫した。


(落ち着けよ、オレ。今度の相手は高橋英樹じゃない。ちんちくりんの女装っ娘だ)


 オレは深呼吸をして心を落ち着かせた。


(大丈夫。きっと余裕で勝てるはずさ。それよりむしろ、どのくらいで勝つか考えなきゃな。ぐうの音も出ないくらいコテンパンにやっつける? しかし、それだとこの部長のことだからへそを曲げて約束なんか知らないとか言いかねない。一応メンツを考えて4、5点取らせてやるか。で、『部長もなかなかやりますねえ』くらい言っておいたほうが無難かも……)


 ところが卓球台をセットし終わると、羽根園部長は卓球台の真ん中に立った。


「じゃあ、俺審判な」

「えっ? オレと部長で試合するんじゃないですか?」

「フン、一年坊主相手に部長の俺が出ることもないだろ。木場が相手するよ」


 部長に言われて、木場さんはヤレヤレといわんばかりに肩をすくめた。

 どうやらこの人は、本当に時給500円で部長に雇われているらしい。

 まあ部長よりはリーチがあるし運動神経も良さそうだけど、卓球っていうのは卓球自体の経験と技量がなければどうしようもない競技なんだ。

 オレの勝利は揺らぎようがなかった。


「いいんですか、負けてから自分が負けたんじゃないなんて言わないでくださいよ」

「わかってるって。万が一木場が負けたら、俺の負けでいいよ」


 その一言で方針は決まった。


(よし、こうなったら、コテンパンコースだ)


「じゃあ、試合開始な!」


 そして、二十分後。


 一セット目 11対0

 二セット目 11対1

 三セット目 11対2


「いやー、三階堂、オマエって実はすごいヤツだったんだな」


 あまりにも一方的な試合結果に、羽根園部長は目を丸くして驚いた。



「木場が高校生相手にポイントとられたのって、いつ以来だ?」

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