第28話 ロジャーの家族
暫くして皆で母屋へと向かった。
「皆、話題の二人を連れて来たよ~」
「おぉ~、待っておったぞ、おぉ~・・・」
ロジャーの父と兄と兄の息子はエマを見て口をアングリと開けて固まってしまった。
「良く来て下さいました、お父さん、お父さん、御免なさいね。
男三人はエマの美貌に言葉も無い様よ」
「お母さん、しようが無いですよ、私もエマを初めて見た時は言葉が出ませんでしたから」
「全く男共は美人に弱いのよね、まぁ、エマなら無理も無いわね」
「よろしく、お願いします、ロジャーとは会ったばかりですのに家に来てしまいました。
お邪魔で無ければ良いのですが」
「おやおや、エマ、貴方の言い方はキョウコと同じね、貴方、日本語が話せるのじゃ無いの」
「はい、話せます、彼は日本人で彼とは日本語で話しています。
彼は英語が余り得意ではありませんので」
彼は無言でお辞儀をした。
「流石は日本人ね、礼儀正しいわね。
でも・・・あぁ、御免なさいね、話は中でしましょう」
リビングに入ると大きなソファーが五角形に並び13人全員が座っても余裕が有った。
「ロジャー、貴方の家族の紹介は済んだんでしょうね」
「お祖母ちゃん、お兄ちゃんはね、エマの顔を見て驚いてご挨拶がまだなのよ」
「おやおや、男は小さくても男なのね、ロジャー、皆を紹介してね。
彼の為にキョウコが通訳してね」
「はい」
「まず、皆に二人を紹介しよう、彼女がエマ」
「エマニュエル・カレンです、よろしく」
「彼は・・・あれ、えっと・・・」
「彼はセイジ・ウチダ、日本人です」
エマが彼の名前を紹介すると彼がソファーから立ち上がりお辞儀した。
「では、私の両親を紹介します、父のデビッド・ウイリアム、64才だったっけ」
「歳を言う事は無いだろう」
ロジャーの父が文句を言って右手を軽く上げた。
「まぁ、まぁ、母のティナです、年齢は言いません」
ティナが軽く会釈をした。
「兄のフランクです、今の牧場主です」
「ハイ」
「兄の妻のフローラです」
「ハ~イ」
「妹のスザンナです、20才だ」
「エマも同じ位じゃ無いの」
「はい、私も20才です」
「フランクとフローラの息子のビル、15才だったな」
ビルは首をコクリと動かしたが視線はエマに釘付けだった。
「フランクとフローラの娘のスーザン、14才だったっけ」
「我が家の娘のミドリは11才で息子のタクミは13才だ、以上だ」
「はい、はい、エマは大学生でしょ、何処の大学なの」
同じ歳のスザンナが聞いた。
「MITです、Massachusetts Institute of Technologyです」
「20だから二年生、三年生???、専攻は何ですか、私は生物学です」
「私は大学院の二年生です、専門は古代物の年代測定です」
「院生なの、凄い、飛び級なのねぇ~、凄いわ」
「古代物の年代測定とはまた珍しいな」
ロジャーの父のデビッドが言った。
「はい」
スーサンが手を上げて発言を求めた。
「まるで学校だなぁ~、はい、スーザン」
「エマ、噂ではエマが彼にプロポーズしたらしいけど嘘でしょう」
「いいえ、私から彼に声を掛けて会ったその日に私がプロポーズしました」
「えぇ~、噂は本当なのね、どうして、正直、彼は美男子では無いわ」
「人の価値は見た目ではありません、私は最初、彼の頭脳が好きになりました。
今は彼の外見も大好きです」
「そうなんだ~、でも~~、エマなら誰でも選べると思うけどな~」
「ありがとう、でもね、スーザン、私はその中から彼を選びました」
「彼の頭脳はどう他の人と違うの???」
「スーザン、貴方もアインシュタインの法則を聞いた事があるでしょう」
「はい」
「光がこの世で一番早いと言う事を基本にした理論です。
原子爆弾もこの理論から作られました。
ブラック・ホールもこの理論で発見されています、時間旅行も可能だそうです。
ワーム・ホールもこの理論からです、御存じですか」
「はい、私は夜、星空を見る事が好きなので、でも、お爺さんの影響が大きいでしょうね。
だから、宇宙と物理が大好きです、同年齢の人達の中では詳しい方だと思います」
「そうですか、では、この理論で不思議、又は疑問に思う事はありませんでしたか」
「う~ん、別にありませんでした」
「では、スーザンに質問です、燃料が無限で毎秒、毎秒、1Gで飛び続けるとどうなるでしょうか」
「えぇ~、考えた事も無いです・・・う~ん」
宇宙、物理の好きな家族なのか、皆が考え込んでしまった。
「その問題と彼に何か関係があるのかね」
ロジャーの父のデビッドがエマに尋ねた。
「はい、この問題は彼が私に尋ねたものです、私も悩みました。
私がギブ・アップすると彼が自分の理論を語ってくれました。
私のいろいろなもやもやが消えました。
ブラック・ホールの境界面、タイム・トラベル・パラドックス、まだまだ私は可笑しい、変だと思っている事がありました。
それが彼の理論で全て消えました、長年のもやもやが消えたのです。
惚れるのは当然でしょ」
「彼の理論と言ったかね」
「はい、彼の理論です、文献でもネットでも聞いた事も見た事もありません」
「その理論を聞く事は出来ないだろうな」
エマが暫く無言になった。
「いいえ、お教えします、簡単です、この世で光が一番早い訳では無い、只それだけです」
「はぁ~、アインシュタインの理論を否定するのかね」
「いいえ、否定はしていません、E=MCの二乗ですが、Cを光の速度と捉える人もいますが、宇宙定数と言う人もいます、彼の理論は宇宙定数の考えに近いだけです」
「光よりも早いものは何かね」
「現在の科学では測定不能、観測不能ですが、名前は付いています」
「う~ん、何かあったかな・・・」
「お父さん、昔の文献でエーテルでしたっけそんな名前のがありませんでしたか」
「おぉ~、あったな、だが確か、否定されていなかったかな、認められなかったはずだ」
「じゃあ、外には、あぁ、ダークマターですね、違いますか」
皆がエマを見詰めた。
「そうです、彼はデーク・マターとダーク・エネルギー、それが光よりも早いと考えています、そして、昔、おっしゃる通り否定されたものエーテルがダーク・マターだと考えています」
「成程、今の科学では計測出来ないのか」
「それで彼の疑問は何だったのかね」
「彼には時間旅行が出来るとは思えなかった様です」
「今は可能とされているはずだがな」
「彼は物質は崩壊する原子、分子よりも小さい粒子に崩壊、分裂すると考えています。
それが物質崩壊です、ですから永久に変化しないと言われる金も変化すると考えています。
只、分裂に時間が掛かるだけの様です」
「それで、実証はできたのかね」
「年代測定は私の専門ですので研究所に帰って検証します」
「うむ、全てが初めて聞く理論だなぁ~、彼が一人で考えたのかね」
「そうです、彼一人の考えです、私は彼をアメリカに連れて帰るつもりです」
彼が彼女の方を見た、彼女は「駄目なの」問い掛ける表情だったが、彼は頷いた。
「待て、二人は先程から心で会話している様に感じるのだが・・・」
「お父さんもそう思いますか、私もそう感じたので聞くとそうだとの返事でしたが冗談だと思いました、でも本当の様に思い始めました」
「絶対に心で話しているね」
ここで初めてフランクの息子のジムが話した。
「ジムはずっとエマを見ていたからな、解ったのか」
「当然です、彼女が返事に間を開けるのは彼の返事を聞いているんだと思うな」
全員の目が彼女を見詰めた。
「エマ、そうなの、貴方たちは心で会話しているの、テレパシーなの」
皆を代表するかの様にロジャーの母・ティナが尋ねた。
「テレパシーとはどの様な物かは解りません。
が、彼の言う事は声が聞こえ無くても解ります」
「うぉ~、テレパシーは存在する、可能なのか」
「凄い、私もそんな人が現れたら外見も年齢も関係ないわ」
スザンナが感慨深げに言い彼をじっと見詰めた。
「スザンナ、駄目よ、彼は私の者だから~」
「本気よ、二人はまだ結婚して無いでしょ」
「駄目、貴方は接近禁止よ」
「私も」
「私も~、私の方が、私達の方が若いわ、奥さんにして下さい」
「まぁ~、貴方も貴方も貴方も無理ね、だって日本語が出来ないでしょう」
「私は出来ます」
ロジャーの娘のミドリが日本語に替えた。
「お願いです、私と結婚して下さい」
「まぁ~」
「あらあら」
「困った娘だな」
「ミドリは何と言ったのだね、キョウコ、ロジャー」
ロジャーの父のデビッドが聞いた。
「父さん、ミドリはプロポーズしました」
「何~・・・はぁ~、確かに変わった男だがな、顔が良い訳でも無し背も低いのになぁ~」
「貴方、男の魅力は顔、形だけでは無いわよ、女もでしょ、貴方は私を顔で選んだの???」
「まぁあな」
「第一、彼は人妻の私から見ても魅力的ですもの、ね~、キョウコ」
「はい、お母さん、とても魅力的です、男の人がエマに弱いのと同じです」
「本当に、彼が女を虜にし、彼女が男を虜にする、皆が追い掛けるはずだわね」
「母さんもそう思うだろう、私もそう思いました」
ロジャーが母・ティナに言った。
女たちが彼の側に寄って来たのでエマは「シィ、シィ」と追っ払った。
だが女性たちは意に介さず彼の回りに群がった。
「減るもんじゃ無し良いじゃ無いの」
スザンナが言い放った。
「そうそう、エマは男性に人気なんだから、お爺ちゃんとお父さんと叔父さん達を任せるから、彼の事は私達に任せなさい」
「面白いわねぇ~」
「何が~、キョウコお姉さん」
スザンナが不思議そうに尋ねた。
「だって、エマの様な飛んでも無い美人でも心配になるのだなぁ~と思うとね」
「そうね、面白いわね、エマなら自信を持っても良いのにねぇ~」
ティナが賛同した。
「だって~、彼は特別だから~」
エマがふくれっ面で言い訳した。
「まぁ、解らないでも無いわね、私ももう少し若かったら彼に手を出したかもね。
それに他人が見たら完璧な美人でも本人は何かしらのコンプレックスがあると言うものね」
キョウコがエマの心の中を推測した言葉を言った。
「私に取ってエマは完璧な女性です、私の大切な女性です。
私を大切にしてくれる女性です」
彼・セイジがエマについての自分の気持ちを英語で語った。
また、彼の声を聞いた女性たちが「ブルッ」と震え、エマに至っては両足を固く閉じ目が潤んでいた。
「私は貴方の言葉、優しさを優しさで返す女性に・・・人になります。
忘れ無い様にします」
「お願いします」
「はい」
突然、二人だけの世界になった。
「・・・」
「・・・」
「あぁ~あ、二人だけの世界になっちゃったわ。
皆の言葉と態度が二人の気持ちを固めたわね」
「その様ね」
「女の世界は良く解らん」
キョウコとティナの解釈に一番年上のデビッドが心の中を露呈した。
「本当だな、二人は心で話をしている様だ」
「何を話しているのかなぁ」
「まさか、相対性理論は無いでしょうねぇ~」
「いいや、この二人なら、あり得るかもね」
「いいなぁ~、私もこんな相手が欲しいなぁ~」
「あぁ、御免なさい、二人の世界になってしまいました」
エマの謝罪の言葉に彼もお辞儀をして詫びた。
「何を話していたのか、聞かせてもらえるかな」
「はい、彼が私の家族に会ってくれます、日本に帰らずに此処からアメリカへ行きます」
「本当に、そんな会話をしたのかね」
「はい、アメリカに行きます」
一番年上のデビッドの問いに彼がはっきりと答えた。
「彼はそれ程、英語が出来ないとは思えないがな」
「はい、この二、三日で上達した様です」
「君が教えたのかね」
「いいえ、違います、が、言う事は出来ません」
「言えない・・・知らない・・・」
「言えないです」
「そうか、言えない・・・か」
「さぁ、さぁ、話よりも食事にしましょう」
ティナが先頭に立って皆がテラスに出た。
其処にはバーベキューの用意がされていて、ロジャーが肉を台所へ取りに向かった。
ロジャーの父のデビッドと兄のフランクがバーベキュー用の火加減を調節しに行った。
「さぁ、座って、座って、バーベキューは男の役目よ」
「貴方たち、何をやっているの」
彼の両側にロジャーの妹のスザンナとフランクの娘のスーザンが座った。
他の者たちが呆れて見詰め、エマも諦めて彼の向かいに座った。
エマの両側にエマを守る様にティナとキョウコが座り、他の席に残りの者たちが座った。
ロジャーが牛肉を持ってテラスに現れ、デビットとフランクに渡した。
「今、ちらっと見えた牛肉は和牛では無いのですか」
「おや、エマ、良く解りましたね」
「私たちの為に買って来てくれたのですか」
「いいえ、準備はしましたが、買ってはいませんよ」
「えぇ、じぁあ、ひょっとして、こちらで飼育なさっているのですか」
「そうだよ、エマ、ロジャーとキョウコの勧めで始めたんだ、大正解だったな」
「そうなのよ、今では注文が殺到しているのよ、エマ」
「どうして和牛の飼育が出来るの」
「私とロジャーが日本にいる時に黒毛和牛の飼育を五年間やって全部教えて貰ったのよ」
「えぇ~、日本の何処で???」
「鹿児島よ、日本国内で流通している黒毛和牛の20%位は鹿児島産らしいの」
「鹿児島なのですか、松坂、近江では無いのですね、でも、良く飼育方法を教えてくれましたね」
「えぇ、私も日本人は凄いと思います。
頼み込んだら条件付きで教えてくれると言われました」
「条件て何でしたか」
「最低三年間、勤める事でした」
「最低三年間・・・それで何年勤めたと言いましたか」
「五年間、二人で一緒に勤めました」
「五年間もですか、三年で良かったのに、どうして五年も・・・」
「給料が良かったのもありますが、黒毛和牛を育てるのは難しい、非常に難しいのです」
「それにしても五年間とは長いですね」
「いいえ、飛んでも有りません、私たちはもっと居たかったのです。
あのままあの牧場で暮らしても良いとさえ思っていました」
「そうなんです、私たちが二人を呼んだのです」
キョウコの後をティナが引き継いで話した。
「ロジャーから連絡が有った時に、この牧場の将来が危ないと話たら二人が来てくれて、今では大繁盛なのよ、キョウコ、ありがとう」
「いいえ、お母さん」
「ロジャーとキョウコさんは和牛を此処で育てる様になったのですね」
「はい」
「ですが、私の記憶では和牛のそれも黒毛和牛となると日本の規制が厳しいのではないのですか?」
「はい、その通りです、飼育牛の輸出はいまでは禁止されています。
輸出しているのは解体された肉だけです」
「では、どうやって和牛を手に入れたの?」
エマが質問し、ロジャーに替わってキョウコが話出した。
「私達が務めていた牧場主が規制前にオーストライアへの輸出を手伝っていたそうで、この国の牧場に連絡してくれて入手しました」
「あぁ、その手がありましたか、確か、オーストラリアのブランド名は英文字でWagyuでしたね」
「エマさん、お詳しいですね」
「私の父が何とか日本に行かずに和牛を食べたいとアメリカに牧場を作って黒毛和牛の飼育を始めたのです」
「日本の規制の前に輸出した国はオーストラリアとアメリカだけです。
アメリカにもいます」
「ええ知っています、ですがアメリカ人は日本人の様に優しく無くて飼育方法を教えてくれない様です、日本に行って長い年月苦労して得た知識・技能ですから無理も無いですが・・・それでも黒毛和牛を売ってはくれました」
「アメリカだけではありませんよ、オーストラリアでも同様です」
「貴方はどうですか? 誰かに教えて欲しいと願われたら教えますか?」
「そうですね・・・条件付きで教えます。
最低3年間住み込みで一緒に仕事をする事、後はその人の人柄しだいですね。
勿論3年後その人が独立するならば和牛を提供します」
「先程も言いました様に私の父はアメリカに牧場を持っています。
父は黒毛和牛に惚れ込み牧場を作り人を雇い和牛をアメリカの牧場から譲り受け育てています。ですが父が満足出来る品質に育っていません。
その牧場の飼育人が飼育方法を教えて貰おうとこの地に来ています。
その人に教えて頂けないでしょうか」
「父上が牧場を持っているのですね・・・和牛のですか・・・
飼育員がオーストラリアに来ているのですね」
「はい、教えて頂けますか」
「先程、申しました条件に合えば・・・OKです、良いよね、キョウコ?」
「貴方が良ければOKよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ここまでの会話は英語だったのでエマがセイジに通訳した。
「良かったね、エマ」
「貴方ありがとう、ロジャー、飼育員の彼に連絡して彼が良ければ此方に向かわせて良いですか?」
「キョウコ、どうかな? 良いよね」
「えぇ、構わないわ」
「今、直ぐに彼に連絡しても宜しいですか? 明日からでも宜しいですか?」
「良いですよ、お母さん! 良いですよね」
「良いわよ」
エマの問いにキョウコが即答し、ティナも即答した。
「ありがとうございます、失礼して連絡してきます」
エマは牧場飼育員のディック・コステロに連絡する為に外に出た。
「電話しに外に出るなんてエマは日本人の様ね」
ティナが誰とも無しに感慨深く言った。
皆がエマの帰りを無言で待ち暫くしてエマが部屋に戻って来た。
「牧場主、ディック・コステロと言いますが三日後に此方に伺うと言っていました。
宜しくお願いします」
「早速、三日後ですか、素早いですね」
「何処も誰からも色好い返事を貰えず相当に苦労している様で、とても喜んでいました」
「成程ね」
エマの報告にフランクが答えた。
「話はそれ位にして、さぁ食べましょう」
タィナのこの言葉に皆が話題の黒毛和牛に手を付け始め食べながらの会話となった。
話題は主にエマと彼についてで他にエマが彼に教えて貰ったいろいろな彼の説だった。
<つづく>
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