第2話:戦うか死か


宙暦5505年、惑星デュナス。

「お前たちがパーティメンバーか、よろしくな!」

パワードスーツを着た金髪の有角族デミデーモンの青年が元気よく手を差し出す。それに茶髪の人間の少女が応じる。

「よろしく。あたしはテオ、あんたは?」

「俺はアックスだ!よろしくな、テオ」アックスとテオが固く握手を交わす横で、同じくパワードスーツ姿のサティは鬱蒼うっそうと茂る木を見上げていた。記憶がある限りルートリードとSF本部艦にしか行ったことのなかったサティにとって、緑豊かなこの星はとても新鮮なものだった。

幼い子供のように辺りを見回してはしゃぐサティを少し遠くからウェンティが軽くいさめるような目で見る。

「なあ、お前たちの名前はなんだ?」

はしゃいでいるサティの前にアックスがふらりと現れる。サティが振り向くと、彼はにいと笑みを浮かべて見せる。

「サティです。こちらはウェンティ」

少し遠くにいたウェンティを指してサティが答える。

「ウェンティ、です」

すっとウェンティが頭を下げる。礼儀正しい奴なんだねあんたは、とテオが横から入り込んでくる。

数分ほど話した後、四人はとりあえず森を抜けようと歩き始めた。

「なぁ、そういえばみんなのパートナーウェポンはなんなんだ?俺は斧なんだけど」

アックスが自分の右手を戦斧に変化させて言う。

パートナーウェポンとはスターファイターになる者なら皆が持っている、自身と文字通り融合して一心同体となる武器のことである。

「あたしは槍!リーチも長いし、便利なんだよ」

テオも自身の右手を槍に変化させてみせる。

「私は大剣。サティは銃」

後衛を務めつつウェンティが答える。それを聞いたアックスが安心したように笑ってみせる。

「いい感じに種類が分かれたな!昔の人たちの中には前衛しかいなくて失敗したパーティもあるって聞いたことがあったからさ、ちょっと安心したよ」

ウェンティと俺が前衛だな、と言うと茂みをかき分けさらに先に進んでいく。

がさり。

「ん?ねえ、今の音何?上から聞こえたんだけど」

がさり。

今度は四人とも弾かれたように上を見上げる。

真上の木から、真っ黒な何かが落ちてきた。

落ちてきたそれは巨大なクモのような形を取り、四人を威嚇する。他の木からも次々と同じ黒い何かが落下してくる。真っ黒で半分溶けたような、気味の悪い生き物。

「もしかして、あれがダークマター……ですか」

両手の銃を構えてサティが言う。その言葉にアックスとテオが慄く。

「あんなでかいダークマターはこの星にはいないはずだぞ!?」

四人は逃げた。クモたちに背を向けて走りつつアックスが叫ぶ。教科書にはデュナスにいるダークマターは大きくても体長三十センチぐらいだと書いてあった。あれはどのぐらい大きい?少なく見積もっても三メートルはある。

全速力で走っていた四人は足を止めた。目の前には天然の崖が広がっている。これ以上先には進めない。四人は仕方なく各々の武器を構えた。本来ならきちんとしたスターファイターが相手をするような、そんなダークマターに四人が敵うはずがない。

常識的に考えればすぐにわかることだが、残念なことに四人の頭の中から常識なんてものはすでに吹き飛んでいた。

テオが構えた槍を突き出す。鋭い一撃は一番前にいたクモの急所に違わず直撃し、そのクモは溶けるようにしてその場に崩れて消えた。

「やった、一体討伐し……」

初めての実戦での高揚感からか、テオは思わずサティたちの方を振り向いた。

振り向いたはずの首が、後ろからクモの長い手にへし折られた。

「て……テオ…………?」

構えていた斧を思わず下げたアックスが呟く。奇妙に曲がったテオの体が、無造作に放り投げられた。

クモたちが咆哮をあげた。

「ダメ、通信機が作動しない。クモたちが妨害電波、出してる」

本部艦のベルンハルトに繋げようとしている通信機の画面を見せてウェンティが言う。

助けは求められない。

サティは静かに覚悟を決めた。このクモたちを、倒さなければいけない、と。

「アックス、戦意を喪失しないでください。死にますよ」

両手の銃をクモに向けつつサティが言う。その声にアックスが力無く斧を構える。

「今は、生き残ることだけ、考えて。緊急事態、通信も繋がらない」

ウェンティも大剣を構える。

まずウェンティがクモに斬りかかる。素早く、正確に急所を突いて斬りさばいていく。そんなウェンティの横を抜けてきたクモたちをアックスが斧を振るってなぎ倒す。それでも仕留めきれなかったクモは、サティが全て殲滅せんめつする。

順調に距離を取りつつクモを倒していくうち、クモたちの向こうに何かが見えた。

クモたちよりも大きな影。

ウェンティの振った大剣が最後の一匹のクモを倒す。

「……っ、下がってください!」

サティが叫ぶ。その声に二人が顔を上げ……

その目が、奥に潜んでいたさらに巨大なダークマターの姿を捉えた。

「なんだよあの大きさ、第2艦隊が出動するレベルじゃねーかよ!」

第2艦隊はSFの中で二番目に強い艦隊、つまり学校を卒業しようとしている自分たちとは比べ物にならないぐらいに強い。その、第2艦隊が出動するレベルのダークマター。

自分達の手に負える気がしない。しかし、後ろは崖。逃げることはできない。

戦う、しかないのか。

サティは木を使って飛び上がり、そのダークマターの上に飛び乗った。ダークマターの上から銃を撃つ。それに気づき振り落とそうと体を揺らしたそれを下からウェンティとアックスが斬る。

急所、ダークマターを形作っているコアがどこにあるのかわからない。それを壊さなければ。

サティは射撃を続けながら考えた。

体の中心にはないみたいだ。じゃあどこに?

「サティ、頭を狙って」

ウェンティの声に、サティが一瞬手を止めた。その瞬間。

ダークマターが勢いよく飛び上がり旋回し、サティは振り落とされて数メートル下の地面に叩きつけられた。

「サティ!大丈夫か?」

アックスが思わずサティの方へ駆け寄る。背を向けちゃダメ、とウェンティが叫ぶも間に合わず、ダークマターの脚がアックスを思い切り叩き飛ばす。十メートルほど横に飛ばされたアックスが岩場に頭をぶつけてその場に崩れ落ちる。

一人で攻撃をせき止めていたウェンティも、三人に分散された攻撃の手が一度に集まってきたのに耐えきれず、思わず一度後ろに下がる。

どうしようもない、どうしたらいい?

一瞬後、ウェンティも振り上げられた脚に叩き飛ばされ、茂みの中に叩きつけられる。

倒れ込んだウェンティを狙って、クモが脚を上げる。そしてその脚がウェンティを潰さんと振り下ろされ、

途中で吹き飛ばされた。ウェンティが思わず振り向くと、そこには膝をつきつつも銃を構えるサティの姿があった。サティはそのままなんとか立ち上がると銃を上げ、狙いを定めた。頭を狙わなくては。

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