喜びと悲しみ

 それから、あるひとりの女がムスタファーに言いました。「喜びと悲しみについて何かお話しください」

 ムスタファーは答えました。

「あなた方の喜びは、かえってあなた方の悲しみです。

あなた方がそこから笑いという水を飲むひとつの井戸は、しばしば熱い涙で満たされているものです。

 それ以外の状態になりうるでしょうか。

 悲しみという猛獣が、あなた方の身体にきばを突き立てれば突き立てるほど、あなた方の心の奥深くで喜びが倍増するのです。

 というのも、あなた方のお酒を入れているさかずき、それはあなた方の手に渡る前に窯で焼かれた杯と同じものではありませんか。

 あなた方の魂の安らぎを増やしてくれるリュートだって、これもまたナイフや斧でられた木材と同じものではありませんか。

 嬉しい時は、ご自身の心の奥深くでつらつらお考えなさい。前にあなた方を悲しませたものは、今やあなた方を喜ばせていることが分かるでしょう。

 もしもあなた方が失意の軍勢に取り囲まれたならば、もう一度ご自身の心の奥深くに目線を向けてよくよくお考えなさい。この地上での喜びのきわみだとあなた方が信じ込んでいたもののために、いまあなた方が泣く羽目になっていることがと理解されるでしょう。

 皆さんのうちのある人々は『喜びは悲しみに勝る』と言い、また他の人々はそれに反対し、『いやいや、むしろ悲しみの方が喜びよりも勝るものだ』と言っているように私には思われます。

 私は皆さんに本当のところを言いましょう。『喜びも悲しみも、分け隔てることのできない双子なのです。やって来るのも一緒、去っていくのも一緒。もし両者のうちのどちらかが独りであなた方の食卓のところに座ったならば、その時相方のほうは自分たちのベッドのところで横になっている、と悟ることでしょう。』

 ええそうです、皆さんはまさに、まるで天秤のふたつの皿のように、喜びと悲しみのふたつの間にぶら下がっているのです。皆さんはそのふたつの間をいつまでも動き続けています。あなた方ご自身が芯から空にならない限り、その動きは止まることがありません。人生の宝物庫ほうもつこの番人がやってきて、自分が所有している金と銀の重さを量ろうとしてあなた方を持ち上げたならば、喜びが載っている皿の方が上がり悲しみが載っている皿の方が下がる、ということはなく、どちらも釣り合うのです」

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