私、診療心理士の資格もってます

 もらった名刺を眺めること3日。思いったたらすぐ行動の俺には珍しく怯えていることが自分でもよく分かる。でもその『怯え』の正体を知りたくて電話をかけてみた。最初は要領の得ない話が続き『渡辺立華』さんなる人から名刺をもらったことを告げるとあっさりと予約の日にち時間が決まり、○月○日○時に代々木の大型ビルに来るよう告げられた。


 そんな事務的な電話の後、当日まで何度も悩んだ。なに話すの? なに聞けばいいの? てかまじかよと、これ片道1時間はかかるぞとげんなりもした。


 でも約束の日はやってくるのが当たり前で。まだ冬の冷たい風が吹く中コートを着て一歩目を踏み出した。

 電車を乗り継ぐこと2回。さしてトラブルもなく代々木までやってきた。指定されたビルは駅から徒歩5分という、随分賃料の高そうな立地で、エントランスホールまである超豪華さ。俺、なんか騙されてるの? って思うぐらいだった。


 ビビりながらエレベーターに乗り、7階へ。受付の方に予約をしていることを告げて、名前を出すと

「お時間になりましたら担当の者がお呼びしますので待合室でお待ちください」

とそっけない対応。まぁ相手の対応に文句をつけるほど相手に興味もないので、備え付けのソファーに腰掛けた。すっげぇふわふわで更にびっくり。

 でも1番驚いたのは


 明らかに10代前半の美少女がいたことで

 これが俺の人生の伏線になっていることに気がついたのは1年後、おおよそあり得ない場所での再開の時だった。


 あんまりジロジロ見るのは失礼だと思いながら周りをぐるぐる見渡した。真っ白い壁に、よくわからん絵が3枚描けられてる。俺、絵の良さとかわからないんだよな。

 と頭を空っぽにしていたこと3分。意外と早く白衣の女性が迎えにやってきて、予約中と書かれていた部屋の扉を開いてなかに通された。

 

 部屋にはあの女性が白衣で待っていてくれていて、ノーパソをすごい速度で叩いてた。

「あとだけ1分待っててね」とかわいらしいウインクをくれて

 改めて

「渡辺立華(わたなべりっか)と申します」

「私は桜井春樹と申します。よろしくお伝えください」

「桜井春樹さんね。来てくださってありがとうございます」

「いえいえこちら、このような場を用意していただきありがとうございます」

 ふたりして頭を下げる。

「緊張感は出さなくていいからね。素のままのあなたを知りたいの」

コクっと首を立てにした。

とりあえず飲み物はほしいわねコーヒー、紅茶、玄米茶、緑茶とあるけど何にする?」

「じゃあ遠慮なく紅茶でお願いします」


 待つこと数分。

 コンコンと扉を叩く音がして

「こぼしちゃって……。待たせてごめんなさい」

 苦笑している。

「火傷とかは大丈夫ですか? 女の人に火傷の痕は……」

「大丈夫よ」

と言って見せてくれたのは、ほんのり赤い細いきれいな人差し指だった。



軽い雑談をしながら再度辺りを見渡たす。


 この部屋はおそらくカウンセリングするための部屋なのだろう。窓はなく防音性の高そうな分厚い壁で囲まれている。

 これ……女の人ってこわくないのかな?

「これ……女の人ってこわくないのかな?」

 心の中の声がそのままたれ流しにしてしまった。

「そうね……、男性には男性のカウンセラー、女性には女性のカウンセラーが担当するのが普通ね」

でもね、と続けて

「私はまだ経験浅いけど、口から『死にたい』って言ってる人ほど自殺しない傾向があるなぁって思ってる。

死にたいって死にたいって大騒ぎする人って時間が解決するか単に自分をみてほしいっていう欲求、いわゆる承認欲求か、生活保護でももらって、『世界から置いていかれる』」


 どれも無残よ。きっと死ぬときに後悔するんでしょうね


 そして私はそんな人間の人生に全く興味はない。


 それは酷く冷たく、でも俺の心のなかに浸透していき重たく自分の心をを締め付ける。

「じゃあなんで俺のことを助けたんですか?」

 心臓がきしみをあげている。開放してほしい。

「死にたいということを強く主張して線路に飛び込んだ。でもあなたは泣いていた。でも少しだけ嬉しそうだった」

 その嬉しさの裏側が見たくなった……ていう理由じゃダメ?


 だから……助けてあげたくなった。

 

 その言葉ときっかけに俺の瞳は……のおかげで潤んでしまった。誰にも見せるつもりじゃなかった息苦しさを語りたくなった。

 

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