第48話 帰還、そして。

「ふぎゃ。」


レオくんは僕の展開した魔法陣の外側に、数時間前のように不時着した。転送できたはいいものの、レオくんはそのまま動かなかったので、もしかして死んでしまったんじゃないかと心配になった。


「レオくん。おーい、レオくーん」


ライオンの耳が動く。


「何ですか。聞こえていますよ。ちぇっ。うまく着地しようと思ったんだけどなあ」


「それは僕の真似かい?」


「えへへ、バレちゃったか」


レオくんは残念そうにそう言うと、やおら立ち上がってみせた。


「大丈夫?レオくん、怪我はない?あ、犬歯が欠けてる。これは明日にでも歯医者に行かなくちゃいけないわね」


カナコがそう声をかける。


「歯医者って何ですか」


「歯の治療をする、こわーいところ」


レオくんは歯医者を知らないらしく、カナコが言ったその言葉にいらない想像を膨らませているようだ。大人になっても怖いと言う人もいるらしいが、僕はちっとも怖くはない。


「個人差があるのさ。ライオンくんは、ホラー映画とか、怖いものは好きかい?」


そう言ったのはハナエだ。


「怖いものは、怖いです。黒い蠍とかを見ると尻尾が震えます」


レオくんはそう正直に答える。その時、ちょうど時計の針が二十時を指し、柱時計がボーンボーンと時刻を告げた。


「夜も遅くなった。どうかね、泊まってゆくこともできるが」


ロンメル爺やはそう言ったが、ハナエは首を横に振った。


「いや、タクシーを待たせておりますので、このまま帰ります。カナコ、ライオンくん、行こうか」


ハナエはそのまま戸口の方へ歩いてゆき、外へと出てしまう。僕は何か言葉をかけたくなったが、なんて言葉をかければ良いか分からずに、そのまま黙ってしまった。


「じゃあね。ロンメルさん、それに日登くんも」


カナコはそう言って、館を後にしようとする。

それに続くようにして、レオくんもこの館を去ろうとしていた。僕はいつでも魔法陣で呼び出せることも忘れてしまって、


「また、会えるよね」


とそうレオくんに伝えていた。


レオくんは笑顔になって、


「うん。また会おうね」


と返してくれた。


三人が乗ったタクシーはまだこの街では珍しいもののようで、そのエンジン音の嘶きを僕は、目の前からタクシーがいなくなっても、いつまでも聴いていたくて、そのままの姿勢で耳を澄ましていた。


—第二部 了—

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