第16話 叶えたい夢は君と
今日は、早朝に近くの神社の除草と清掃がこの日の作業内容で、そのあとは自由時間がたっぷりあった。
朝の空気は、やっぱり新鮮で気持ちがいい。
大きく深呼吸をすると、草刈りの道具を手に持った。
振り分けられた場所に行き。せっせと作業をこなす。
途中でさりげなく、沙也ちゃんの方を見てみると、みんなと楽しそうに作業して笑ってた。
朝の空気と同じ位さわやかできらきらと輝くその笑顔を見て、俺も思わず口元が緩んでしまう。
(元気を取り戻してくれたようでよかった……)
すぐに作業に戻り、周りの人たちともあれこれ会話をして楽しんだ。
色々あって思い悩むこともあるけれど、せっかく参加した田舎留学の時間を、もっと楽しまなくてはと改めて思った。
きっと沙也ちゃんも、同じ気持ちに違いない。
「ねぇ、せっかくだからさ、今日の自由時間、四人でこの前大貴たちが行ったカフェに行かない?」
作業が終る頃に、ちょうど四人が集まったの見計らって祐太がそう提案する。
「ああ、いいよ」
「うん。いいけど、祐太さん達が行ったお土産屋さんにも行ってみたいな」
今日はどことなく、吹っ切れたような沙也ちゃん笑顔がまぶしい。
昨日のことは何もなかったかのように、いつも通りに接する。
「じゃぁ、先にお土産屋に行って、その後カフェに行こう!」
「わー嬉しい~行こー! 行こー! 自家製アイスのパフェ楽しみ~」
いつも元気な瑞樹ちゃんが、嬉しそうに小さくぴょんぴょんと跳び跳ねた。
すんなり、決まった予定にみんなで頷きあい、使っていた道具を急いで片づけ作業を終わらせた。
一度、ホテルに戻り服を着替えて、みんなでロビーに集まり出かけた。
最初に行ったお土産屋は、かなり賑わっていて少し驚いた。
想像していたよりも、結構大きな店構えで駐車場も広く、次々と車が出入りをしている。
「すごい、こんな場所にこんな大きなお店があるなんて思ってなかった」
「俺もこの前来た時驚いたよ。スタッフの人に聞いたら、1年くらい前にできたばっかりなんだって」
「へ~そうなんだ」
「町おこしの一環で作られた施設らしいよ。安くて新鮮で美味しい農産物が売ってるから口コミやネットで話題になって、結構人気のスポットになってるんだって言ってた」
ホテルの周りは比較的静かだったので、この賑やかさは想像していなかった。
駐車場に止まっている車は、県外ナンバーの車もたくさん見られる。
店内には直売コーナーがあって農産物がたくさん並べたあるようだ。
中だけではなく外にもたくさんの花や苗なども並べてあり、やってくるお客があれこれ吟味しながら選んでいる。
お店の奥に進むと、農産物だけでなくたくさんのお土産品も売っていた。
色んなものが並んでいて、見ているだけで面白い。
雑貨品の片隅に、昨日ハンドマッサージで使ったアロマオイルも並んでいた。
(一人じゃマッサージできないけど、アロマディフューザーを買えば使えそう……)
この香りがすごく気に入っていたので、俺はそれを二瓶ほど買って帰ることにした。
会計を終わらせて、店内を見渡すと、祐太と瑞樹ちゃんが寄り添ってお土産品を見ていた。
(二人で、楽しそうにやってるな。邪魔しないようにしなくっちゃ)
次々とやってくるお客で、店内はかなり混雑していたので、俺は先に外に出て待っていようと思った。
ふと見ると沙也ちゃんも、すでに買い物を済ませていて、その様子からしてちょっと時間を持て余しているようにも見えた。
声をかけようと思って、込み合う人達の間をすり抜け、沙也ちゃんの方にそばにちかづいて行った。
沙也ちゃんは、祐太と瑞樹ちゃんの姿を見てこっそり微笑んでいる。
俺も、その沙也ちゃんを見て顔が緩んでしまった。
「あの二人、仲いいよね」
俺が後ろから近づいたことに気付いてなかったようで、沙也ちゃんの肩がピクンと跳ねあがる。
驚かせてしまったようでちょっと悪かったなと思いながらも、そのしぐさが可愛くて、思わずクスっと笑ってしまった。
「うん。二人とも楽しそう」
楽しそうな祐太たち方を見て、沙也ちゃんもなんだか嬉しそうだった。
「ねえ、沙也ちゃん?」
「は、はい」
沙也ちゃんは緊張したおももちで、ゆっくりこっちを振り返る。
「お買い物終わったなら、先に外に出ない?」
「あ、あぁそうだね」
昨日のことがあって、ちょっと意識してしまっているのか、沙也ちゃんの返事はどことなくぎこちない。
(仕方ないよな……俺だって……)
昨日のこと思い出すだけで、顔が熱くなってしまいそうだ。
気持ちが高ぶりそうなのを抑え、できるだけ平静を装い、沙也ちゃんを誘導しながら混雑するお店から出ることにした。
混み合う中からやっと脱出して駐車場に出ると、空気がスーッと軽くなったような感じがした。
ふーっと、思わず大きく息をつき、あたりを見渡してみる。
(どこか座れる場所はないかな)
ベンチ数か所に設置してあるのを見つけたが、結構どれも人が座って休憩している。
駐車場の脇の歩道を少し歩きながら、もう一度探してみると、お店から少し離れた所のベンチが空いていたので、そこに二人で座ることにした。
と、ここまでは、よかったのだけど、また変に意識してしまい沙也ちゃんと何を話そうかちょっと迷ってしまう。
「瑞樹ちゃんと、祐太さんいい雰囲気だね。もうほとんどカップルって感じ」
沙也ちゃんの方から、話を振ってくれたのでちょっとほっとした。
「祐太はああ見えて、結構奥手なんだよ」
「え? 本当に?」
「うん。ホントホント」
「えー意外。あんなに話やすいし……ルックスもいいからモテるでしょ?」
「確かに、モテるんだと思う。男女問わず、すぐ友達になれるしね。でもそれとこれとは、また話が違うというか……」
明るくて、人懐っこくて、いつも元気な祐太だけど、その内側は実はすごく繊細だったりする。
「あいつはあんな感じで、話しやすいし、すぐに誰とでも仲良くなるんだけど、実は本当の意味でなかなか心は開かないタイプなんだよね」
「へー祐太さんのことなら、何でも知っているのね」
「いや、どんなに仲良くても、全てを知っているわけじゃない」
そう、俺にも本心を見せてくれないことがたまにあって、親友としては、ちょっと寂しさを感じることがある。
悩んでるとか、辛いとか、悲しいとか、そういう弱い部分を隠そうとするタイプなのだ。
「……俺の知らない祐太だっている」
そう言いながら、首を傾げ小さく笑った。
──と、その時
「わぁ。すげーっ」
心そそられるかっこいいキャンピングカーが、ちょうど俺たちの前に駐車された。
実は以前からキャンピングカーにすごく興味があって、特集されてる雑誌をみつけたら必ず買って読んでいた。
「いいなぁ……」
「キャンピングカーが欲しいの?」
「んー憧れてる。今すぐじゃないけどね。俺もいつか……。あんな風にキャンピングカーに乗って、色んなところ旅をするのが夢なんだ」
「素敵な夢……叶うといいね。」
沙也ちゃんは、俺の顔見ながらニコッと微笑んだ。
「いつかね……」
(いつか……、沙也ちゃんと一緒に……)
そんな思いが込み上げてくる。
でも、それは、叶わない夢なのだろか……。
「きっと、叶うよ。その夢」
沙也ちゃんは俺が今何を考えていたかも知らずに、夢の後押しをしてくれる。
その純真なエールに、俺はただ小さく頷いた。
「あ……」
沙也ちゃんは、急に何かに気づいたかのように声を上げる。
「ん……?」
「いや、なんでもないよ」
その時、沙也ちゃんが何に気づいたのか、俺にはわからないままだった。
キャンピングカーから初老のご夫婦が降りてきて、お店の方に向かって歩いて行く。その姿をぼんやり眺めていた。
そっと、寄り添いながら歩いて行くご夫婦がなんとも微笑ましい。
きっと、ご主人の方が仕事を退職されたあと、奥さんと一緒にこうやって出かけてゆっくりと時を過ごしているのだろう。
二人の後姿に、穏やかな夫婦愛を感じる。
「仲がよさそうなご夫婦だね。俺もあんな風に……」
そう言いながら、無意識に沙也ちゃんの方に視線が向いてしまう。
何か考え事をしていたのだろうか、うつむき加減だった沙也ちゃんが俺の視線に気づきゆっくり顔をあげた。
一瞬お互いの視線が、真っ直ぐに繋がる。
すぐに沙也ちゃんが驚いたような表情になった。
「……!」
俺も慌てて視線を外してしまう。
「……実現できるのは定年後かなぁ」
そんな、夢の話の続きをしてごまかしても、沙也ちゃんの一つ一つのしぐさに、心をどんどん奪われていくようだった。
それから、なんとくなく会話が途切れてしまい、しばらく行きかう人や車の出入りをボーっと眺めていた。
沙也ちゃんもさっきから、静かになってしまって、ちょっと心配になる。
(疲れちゃったのかな?)
横目でチラッと、沙也ちゃんを見てみたら下を向いたまま、じっとしている。
その時、お店の入口から、お土産の袋を持って出てくる祐太たちの姿が見えた。
「あ、祐太たちも出てきた」
祐太たちを、呼ぼうと思って手を挙げた瞬間、その腕を何故か沙也ちゃんにぐいっと掴まれてしまった。
「待って大貴さん」
「えっ?」
突然だったので、何が起きたのかわからず俺は沙也ちゃんの顔を見たまま固まってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます