双子テレポート
目の前にふたつの電話ボックスがある。
「いや、違うよ姉さん」とは一卵性双生児の妹。「これはテレポートボックスだよ」
「何それ」
「これはね、人間でもテレポーテーションが出来る装置だよ」
姉はしげしげと電話……ボックスを見つめた。扉を開けて、中を覗いてみたが、ボタンが幾つかあるくらいで他にめぼしいものはない。人がひとり入れるくらいの空間しかなく、殺風景である。
「で、どうやる訳?」
「やり方は3Dプリンターと同じ。まずは構成物質を解析して、元になった物を──つまりはまあ人間なんだけど──分解するんだね。それから物質情報をもうひとつのボックスに送信。もう一方のボックスにて、受信した情報を元に人間を再構築する訳。すると──人は一瞬にしてテレポート出来るのね」
「ふうん……」姉は三秒ほど考えてから、聞いた。「違うボックスで分解と構築するんだよね。だったら、同じ物質ではないの?」
「純粋に同じものを使う訳じゃないよ。例えるなら、新陳代謝によって一皮剥けたりして、ほんの少しだけ違う面はあるけど、全体としては同じ人間である、っていう」
「テセウスの舟みたいな感じ?」
「うーん」妹は顎に手を当て、考えながら、「同じ設計図で、異なる部品を使って作り直す、という意味で同じかもね」
成る程ね、と姉は頷いた。
「じゃあ例えばさ、このボックスそれぞれに私と貴女が入るでしょう。それで同時にテレポートしたら、私たちの場所は入れ替わる」
「そうね」
「でも、私の身体は貴女の物質から作られているかもしれず、貴女の方もまた、私の身体から再構築されているかもしれない。だとすると、それは同じ部品を利用して設計図を交換していることになる。だとすると、私たちの新しい身体は、二人の混合物みたいなことにならない?」
「なるかもねえ。ならないかもねえ。だってそもそも、物質の解析と送信、情報の受信と再構築の、並列処理は出来ないようになってるから。机上の空論だよ、姉さん。でも、もし出来たとしたら、私たちの設計図と部品を交換したところで、何の問題があるの? 私たちの肉体にアイデンティティを持つ時代は、もう終わったんだから」
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