応援ボイス

 一連の流れを離れた高台から眺めていた雪那。兵士たちがドラゴンからゴーレムから逃げ惑う様子を、ほうけた表情で見つめていた。


「すごいなぁ、冴橋さんは」


 言葉を口にして、ふと隣から視線を感じる。そちらの方向を向くと、メイドさんが自慢げな表情を浮かべて雪那のことを見ていた。


「ですよね」


 声も実に嬉しそうだった。


「あのお人は本当にすごいんです。

 最初は驚きました。異世界から起こしになられたというだけでも驚いたのですが、なにもないところからあんな風にブロックを生み出してなにを創ったと思います? 自分の住む家を作ってしまったんですよ」


 実に嬉しそうに話すメイドを見て、あれ? もしかしてこの人。と一つの仮説が頭に浮かんだ。


「最初は私もすごく戸惑いました。いえ、戸惑ったのは明さんも同じことだと思います。偶然私たちの国へとやってきて、それから少しして私がおつきのメイドとしてつくことになりまして、最初になにをしてくださったと思います?

 手の中に白い花を生み出してもったいなくも私にくださったのです」


 仮説がさらに組み上がっていく。


「前へ前へとお進みになられる明さんには驚かれる毎日ではありますが、私はあのお方と一緒にいられる今が楽しいのです」


 言葉に出して聞いてみたい気持ちもあったが、やめておいた。


「そっか……やっぱりすごいな冴橋さんは」


 そうつぶやいて再び視線を戦場へと向けた瞬間。


「明さん!」


 隣でメイドの悲痛な叫び声。


 剣を杖代わりになんとか立っていた冴橋の体がぐらりと揺れ出す。それでも一度はなんとか立ち直った。片手で剣の柄を掴んで、膝立ちから直立へと戻って、そこまでだった。剣から手が離れて前のめりに倒れてしまう。


 しかも起き上がる気配はない。


「そんな! 明さん!」


 メイドの悲痛な声。冴橋の元へと駆けつけるため、この高台から最短で降りられる場所を探しだす。登ってきた道は冴橋のいる方角とは逆の方角。そこを降りていたのではどうしても時間がかかってしまう。目の前はちょっとした崖。ここを降りていくのは相当勇気がいる。それでも。


「いま行きます!」


 覚悟を決めるまでは一瞬。ロングスカートを膝のあたりまで手でめくり上げて、崖の前でしゃがみ込んでそこで


「待ってください」


 背後から止められる。


「止めないでください! 明さんが!」


 声をかけてきた雪那へと振り返る彼女の目には涙。雪菜から見て視線の奥。倒れたことに気づかれた明のもとに兵士たちが近づいていく。


 用心深く近づいていることもあり、彼の元へと辿り着くのにはまだ時間がかかる。それでも、近づかれて気を失っていることがバレてしまえばどうなることか。


「私は行きます!」


 目の前の崖を降りるルートなんてわからない。それでもかまわず崖に足をかけようとして。


『落ち着いてください』


 なぜだろうか。


 今すぐにでもこの崖を降りたい気持ちが溢れていたのに、背後からかけられた声を聞いた途端、焦る気持ちが薄まっていく。


 立ち上がってめくっていたスカートを戻して、最後に振り返る。そこには深呼吸を繰り返す雪那の姿。入れ替わるように崖の端に立って大きく息を吸う。


『がんばって! 冴橋さん!』




 目を開ける。自分が気を失っていたことを自覚する。


「あぶね!」


 頭を振りながら立ち上がる。


「なんだこれ。なんか……気分がいいな」


 兵士たちが接近してきている。兵士たちは散開しつつ冴橋を取り囲もうとしていたのだろう。いきなり立ち上がったことで驚きを隠せない様子。


「あ~、そっか。やっぱり倒れたか」


 頭に手をやると少しだけ痛みが生じた。頭から倒れたのだろうと、理解できた。


「一度に使いすぎるとこうなるのはわかっていたんだけど、けどわかんないなぁ。

 倒れるほどだったのになんだこの気分の良さは」


 大きく背伸びをする冴橋。その後も準備体操よろしく体のあちこちのストレッチを繰り返す。


「よし!」


 倒れたと思ったらいきなり立ち上がった。それを脳内で処理するのに兵士たちは時間をかけすぎていた。


 一人が勇気を出して冴橋へと距離を詰めようとしたころには、冴橋を中心にゴーレムが3体完成しようとしていた。


「だからよ、逃げちゃえって」


 かわいそうなものを見るような目で、ゴーレムの一体の背中をなでた。

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