ゲーム実況者

 城内は落ち着きを見せつつあるが、今度は先程の騒ぎを起こした人物が城内に免れたということもあり、別の騒ぎを起こしていた。


 ひと目でも見ようと兵士たちは青年を探すが、部屋の前で仁王立ちが如く立ちふさがるメイドに睨まれて退散を余儀なくされる。まずは2人で話したい。主からの命令でいま彼女は、扉を守る守護神と化している。


「いやぁ驚いたよ。うちのところの王様から話だけは聞いていたんだけどよ、いざ実際に会うまでなかなか信じられないじゃん。でもこうして実際に会っても、なかなか実感わかないもんだねぇ」


 物珍しそうに室内をぐるぐる回る冴橋明。

 調度品に顔を近づけては離し、また見て回る。


「そう言えばオレ、何度かアンタの配信見たことあるんだよね」


「あっ、ありがとうございます」


 人見知りというわけではなかったが、緊張していた。彼が彼女の配信を見たことがあるように、雪那も冴橋の配信を見たことは何度もあった。それだけではない。ゲームメーカーの公式生放送にも何度も出演しているのを見ている。


 冴橋明はゲーム実況者である。明るいキャラとテンションの高い実況放送を売りにしている実況者。


「しっかし、異世界ねぇ。どこのラノベだって話だよな」


 数年前から活動を始め、最近は人気の根強いサンドボックスのゲームの実況動画を上げ続けている。


「最初はさ、オレ自身結構寝ぼけていたんだよね。あれ? オレこんなところに来ていたっけ? 今日はここにイベントに呼ばれていたんだっけねって。おかしな話だろ? 見たこともないような街へそれで迷い込んで、あれよあれよという間にいつの間にかその国の王様と会っていたんだぜ」


「あっ、それ、私も一緒です」


 背中を向けてまだ見回していた冴橋が、雪那へと振り向いたと思ったら距離を詰めた。


「へぇ、そうなんだ。アンタもなんだ。ってことはなにか? ここの王様もうちのところの王様と同じように、オレたちの配信とかを見ていたってことか」


「……らしいです」


 さすがに公式生放送に呼ばれている実況者に会うのは緊張するし、それと同様に目のあたりにするこのテンションにどうしても押されてしまう。


「わっかんねぇなぁ。ここは確かに異世界でそれなのにオレたちの世界の生放送を見ている。ウンエイってのは運営のことなのか?」


 後頭部をかきながらまたウロウロ歩き始める。


 配信で見た通りの人物だった。2枚目だけどどこか子供っぽい。良く言えば子供心を忘れていない。こういうところが人気の秘訣なのかもしれないと、こんな状況ながら勉強をさせてもらった雪那だった。


「運営だとするとなんだ? あのサイトの運営がこれに関わっているってことか? つか、だとすると運営って何者だよ。オレたちを異世界に連れてこさせてよ」


 しゃべりっぱなしの冴橋。口を挟み辛い思いをしている雪那は、ふと聞きたいことを思い出して聞こうとして、しかしドアをノックする音に阻まれる。


「お話中、申し訳ございません冴橋様」


 話を止められたのは雪那だけではない。声がヒートアップしていた明も、口と体の動きを止める。


「ん? どうしたエルクさん」


 ドアの向こうから声をかけてきたのが、明と出会った時に一緒にいたメイドさんだと知る。


「はい。ただいま使者の方がお見えになりまして、国王様が謁見したいとのことです」


「謁見ってことは、オレと会ってくれるってことか」


「そのようです」


「おー、マジか。それはいいねぇ」


 手のひらを重ねあわせて


「ってことはすぐに行かないと失礼だよな。じゃあ行こうぜ雪那さんよ」


 手を差し出される。


「でも呼ばれているのって冴橋さんだけじゃ?」


「いえ、雪那さまも一緒にとのことです」


 ドアの向こうから言葉を挟まれる。


「お二人で、とのことです」


「ってわけだからさ。はよ行こうぜ」


 差し出されたままの手を握るべきなのか。考えている時間はない。

 少し恥ずかしそうに俯いて、雪那は冴橋の手を掴んだ。

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