第41話 ちーちゃんの相談

 エヴァレットと別れるしかないのか……。

 私もそれが良いのではないかと思っていたけれど、実際に言われるとやっぱり拒否してしまい、すぐに賛同する事はできなかった。


「礼華お姉ちゃんだけじゃないわよ。私だってすぐにメルヴィナを消せないもの」


 私は紅凛がいなくなった所で席を移動し、ちーちゃんの前に座っている。

 この椅子はついさっきまで紅凛が座っていたので、まだ温もりが残っていて、お尻から紅凛の温かさが伝わってくる。

 何だろう。ちょっと興奮してくる。


「礼華お姉ちゃん大丈夫? 顔赤いよ?」


 だ、大丈夫、大丈夫。

 えーっと。それで何だっけ? そう、そう。恋愛の相談だったわね。

 エヴァレットと別れるとしてもまだ少し先の話だ。この事を考えて寂しくなる前にちーちゃんの相談に乗ってしまおう。

 いくら兄妹とは言え、恋愛となるとなかなか相談できないものね。私も経験が多い訳じゃないけれど、少しでもちーちゃんの力になれるように頑張ろう。


「やっと話を聞いて貰えるわね。えーっと。私、凛兄の事が好きなの」


 うん。それは傍から居ていてもよく分かる。なんだかんだ言っても仲の良い兄妹何だなって。

 それで? ちーちゃんの好きな人って誰なの? 同級生の子?


「礼華お姉ちゃん聞いていた?」


 ん? 私はちゃんと聞いているわよ。紅凛の事は好きだけど、他に好きな人がいるのよね?


「私、凛兄以外誰の名前も言ってないよ」


 ちょ、ちょっと待って。紅凛は好きだけどそれ以外に誰か好きな人が居るんじゃなくて、紅凛の事が好きなの?


「う……、うん」


 ちーちゃんは顔を赤らめて俯いてしまった。

 うわー。これは聞いちゃいけない事を聞いてしまったような気がする。普通の恋愛話なら大歓迎なのだけど、この話はやばいような気がする。


「礼華お姉ちゃん相談に乗って! こんな話誰にもできないの!」


 それはそうでしょう。こんな事を同級生に相談しても相手にしてくれないか変な人と思われるだけだし。

 それにしてもいくら仲良くなったからって言って良く私に話す気になったわね。ちーちゃんの勇気に感心するわ。


「だってこんな事、凛兄や、お母さんには言えないし、友達に言っても馬鹿にされそうなんだもん」


 紅凛やお母さんに言わないのは正解だと思う。こんな事言ったら家庭がどうなるか私にも分からない。

 それよりも好きになったのが実の兄だなんてなんてアドバイスすればいいのかなぁ。


「あっ、礼華お姉ちゃん安心して。私、礼華お姉ちゃんの事を邪魔する気はないから」


 そ、そうなんだ。嬉しいような嬉しくないような複雑な気分。でも、私が紅凛と付き合う事になったらちーちゃんは付き合えないけど大丈夫なのでしょうか。

 そもそも兄と付き合うって言うのもおかしな気がするけど。


「凛兄が好きなのはそうだけど付き合うとかは考えてないんだよね。だから礼華お姉ちゃんは私の事気にせず付き合っても良いよ」


 気にせずと言われても紅凛の気持ちもあるから私の一存ではどうしようもないんだよね。


「ただ、凛兄を挟んだ反対側には私がいるのを許してほしいんだ。礼華お姉ちゃんが正妻で私が側室って感じかな」


 一体いつの時代の話をしているんでしょう。

 しかも、隣にいるのを許すも許さないも兄妹何だからちーちゃんが結婚したりしない限り隣に居るような気がする。


「じゃあ、礼華お姉ちゃんはOKって事? 流石礼華お姉ちゃん。話が分かるなぁ」


 いや、私はOKを出したつもりはないんだけど……ってちーちゃんはもう、私の話なんて聞かずに自分の世界に入り込んでいる。

 困ったなぁ。でも、ちーちゃんはどうして紅凛の事を好きになったんでしょう。


「礼華お姉ちゃんなら分かると思うけど、凛兄ってたまに格好良い所あるじゃない? 普段は馬鹿なのに私が虐められていると助けてくれたりするんだよね」


 何となく言わんとしてることは分かる気がする。普段とのギャップが結構激しいのよね。


「そうなの。流石、礼華お姉ちゃんは良く見てるなぁ。そんな事が続いたらいつの間にか好きになっちゃってたんだよね」


 てへへと言って笑みを浮かべるちーちゃんだけど、これってただの兄妹愛って感じじゃないのかしら? それを恋愛と勘違いしているような気が私はする。

 それならちーちゃんがもう少し大きくなれば兄ではなく、他の男性が好きになる事もあるかもしれない。

 それまでの辛抱と思えばさっきの条件は飲んでも問題ないように思えてくる。


「やったぁ! これで完全に礼華お姉ちゃんは私の味方ね。それじゃあ、礼華お姉ちゃんがどうやれば凛兄を落とせるか考えましょうか」


 えっ! そんなことしなくて良いよ。もう告白はしたし、今は返事を待っている状態だから。


「甘いわよ。礼華お姉ちゃん。凛兄のダチョウ並みの脳みそでそんな前のこと覚えている訳ないじゃない!」


 ちーちゃんて本当に紅凛の事が好きなんでしょうか。予想以上に酷い言われ方だなぁ。


「凛兄の事なら一番よく知ってるって自負があるからね」


 一緒に住んでいる訳だから凄く納得してしまう。

 でも、私から催促するのもなぁ。何かがっついているみたいではしたないし。


「ダメよ。礼華お姉ちゃん! そんな事を言っている間に違う女性と付き合う事になったらどうするの?」


 むっ。確かにそうかもしれない。私以外の女性が紅凛の事を好きになるなんて有り得ないと思っていたけど、ちーちゃんの例もあるからなぁ。


「そうよ。ちゃんと付き合えるまでは油断しちゃ駄目よ。折角三人でイチャイチャできる許しが出たんだもの。私も全力で応援するから!」


 えっ! 三人でイチャイチャ? そこは二人にして貰えないかな?


「もう、礼華お姉ちゃんったら。そんなに私とイチャイチャしたいの? それならまた泊まりに来た時にお風呂に一緒に入ってあげるよ」


 なんで私がちーちゃんとイチャイチャするの? そこは私と紅凛じゃないの?


「ダメよ。礼華お姉ちゃんが凛兄とイチャイチャするならそこには私も居るわ」


 この子はもしかして私と紅凛の両方を手に入れようとしているんじゃないでしょうか。


「勿論そうよ。凛兄は男として、礼華お姉ちゃんは女として私は二人と上手くやっていくわ。大丈夫、私両方いけるから」


 何が大丈夫かは理解したくない。本当にこの子は大丈夫なんでしょうか。


「そうとなったらこんな所で暢気に話している暇なんてないわ。私が凛兄が絶対に付き合いたくなるような作戦考えるから!」


 ちーちゃんは立ち上がり、喫茶店を出て行こうとしたけど、ピタリと止まった。


「そうだ。礼華お姉ちゃん、メッセージアプリのID教えてよ。良いのが思いついたら連絡するから」


 いやな予感がするけど、ちーちゃんなら仕方がないか。

 私はスマホを取り出してちーちゃんとIDの交換をする。


「うわぁ。礼華お姉ちゃんの魔女って綺麗な人なんだね。ちょっと格好良いかも」


 そうか。ちーちゃんはエヴァレットを見た事なかったのか。

 綺麗な人と言われてちょっと照れているエヴァレットが可愛い。


『魔女業界一可愛い私のこと忘れないでよね』


 いきなりフォルテュナちゃんからメッセージが入ってきた。もしかして近くで見ているのかと思い、周りを見渡しても紅凛の姿はない。

 フォルテュナちゃんは一体どこで話を聞いているんだろう。


「ありがとう。良い案が浮かんだらメッセージするね!」


 それだけ言い残すとちーちゃんは喫茶店を出て行った。

 軽く恋愛話でも聞いてキュンキュンしようと思ったのだけど、凄く疲れた。


「変わった兄妹」


 全く、エヴァレットの言う通りだ。紅凛はもとより、一緒にお風呂に入った時からちーちゃんも少しおかしいなって思ったけど、相当の変わり者だった。

 紅凛と付き合うとこの二人を相手にするのかと思うと私の選択は間違っているんじゃないかとさえ思えてくる。

 予想以上の疲労になかなか席を立つ気も起きなかったのだけど、私も何とか立ち上がり、喫茶店を後にした。

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