第32話 神前の家
神前がお風呂に行っている間に僕は泊れる準備をしておく。
腕は痛いけど僕が使ったままのベッドをそのまま神前に使ってもらう事はできないので、綺麗にだけはしておく。
とは言え、シーツを替えるぐらいなので、準備はすぐに終わってしまった。
神前がまだお風呂から上がって来ないので、この間にエヴァレットに教団の男の事を聞いておく。僕たちが着く前の男の様子から何かヒントみたいな物がないかと思ったからだ。
「何もない」
いや、何もないって事はないだろう。何か男が教主と話していたとか、どこに拠点を構えているとかそう言う情報って待っている間に出てこなかったのか?
エヴァレットは暫く黙って何かを考えていると、
「生姜焼き食べたいって言ってた」
どうでも良い情報だ。僕が知りたいのは男が何を食べたいとかの情報ではない。他に……他に何かないのか?
再びエヴァレットはその時の事を思い出そうとすると、何か閃いたようだ。
「フタミって言ってた」
ん? それはあの男の名前なのか? 教祖の名前なのかどっちだ?
「男の方」
見た目も日本人ぽかったし、名前の感じからするとあの男は日本人なんだろう。
ハリン教自体は海外で立ち上がった宗教みたいだから日本支部の男なんだろうか。
生姜焼きよりは良い情報だったけど。もうちょっと今度戦った時のヒントになりそうな物はないのだろうか。
「倉庫にいるって」
倉庫? どこの倉庫だ? もしかして旗持さんと会った時の倉庫かとも思ったけど、エヴァレットは詳しい場所までは分からないようだ。
「魔女は消すなって」
ん? そんな事も言っていたのか?
神前から聞いた話では教祖は魔女を消すために行動しているって言ってたんだけど、行動方針が違うようだな。
もしかして魔女の有用性を理解して自分たちも魔女を手に入れる方に方向転換したんじゃないだろうか。
「教祖の所に持って行くまでは消すなって事じゃない?」
あぁ、そう言う可能性もあるのか。教祖がどんなものか確認して責任をもって消すって感じか。
段々良い感じの情報になって来たぞ。次行こう。次。
「終わり」
終わり? いやいや、まだあるでしょエヴァレットさん。そんな勿体ぶらなくても良いんですよ。
「これだけ」
どうやら本当にこれだけらしい。エヴァレットからの話で分かったのは男の名前と倉庫に居るって事だけか。生姜焼きの事は頭から外しておこう。
となるとやっぱり気になるのは倉庫って所だ。あの公園の近くだと倉庫何てそんなに多くないから探せばすぐに見つかるかもしれない。
「あぁ-!!」
僕が考え事をしているとフォルテュナが急に騒ぎ出した。一体何だって言うんだ。充電中なんだから大人しくしていろよ。
仕方なく僕はスマホの画面を付けると、フォルテュナが四つん這いになって項垂れていた。
お、おい。どうしたんだ?
「コーリン……。私の……、私の楽しみが……」
楽しみ? スマホの中で何かやっていたのか? それだったら事前に言っておいてくれよ。
「次に何を買ってもらうか楽しみにして見ていた服が見えなくなっている」
そうなんだ。それは残念だったな。
「何よ!! その興味のなさそうな態度は!」
だって服なんて買う予定もなかったから見れても見れなくても関係ないんだもん。
「キィー! こんな事なら黙って買っておけばよかった」
ふざけるな! ただでさえ金欠だっていうのに。服なんて買う余裕がある訳ないだろ! 買うんだったら自分でバイトでもして買ってくれ!
「ちょっと。こんな夜中に何騒いでいるの?」
神前がお風呂から上がって戻ってきた。結構長く入っていたな。女性はなんで長くお風呂に入れるか不思議だ。
「これぐらいの時間は普通よ。それで? 何があったの?」
どうやらアプリの服が見えなくなっているらしい。そんなの開戦の調子が悪いとかですぐに治ると思うのに。
「それって私たちがサーバーを壊したからじゃない?」
あっ、そうか。サーバーを壊したからデータを引っ張って来れなくなったのか。
じゃあ、もう服が見れる事はないな。
「うわーん。私の唯一の楽しみがぁ……」
はぁ。仕方がない。フォルテュナには何か暇が潰せるような物を考えてやるか。
「本当? 私ねぇ。猫が欲しい。モフモフの可愛い猫が良いわ」
却下! そんなもんプログラム作らないと駄目じゃないか。僕に作れる訳がない。
「何よ! それぐらいのプログラム作れば良いじゃない! 私だってルルーニャを作れたんだから」
それなら今回の猫だって自分で作れば良いじゃないか。わざわざ僕に頼むなよ。
「フォルテュナちゃんも今日は諦めなさい。もう遅い時間だし寝ましょ」
神前の説得にフォルテュナはやっとか大人しくなった。本当に我儘な魔女だな。
暗くなった所で寝ようとしてみたが、腕に湿布を張りまくられた僕は腕から出てくる熱でまたも一睡もできなかった。
なぜか神前がいると僕は夜に眠れないようだ。
次の日、朝食を摂り終えると母さんに神前を送って行くように言われた。
「大丈夫よ。早い時間だし、一人で帰れるわよ」
「駄目よ。親御さんにちゃんと送って行くって言ってあるから。それに凛ちゃん、これを持って行って」
母さんから渡されたのは紙袋に入った箱だった。お菓子とかでも入っているのだろうか。
「二日も大事なお嬢さんを預かってしまったんだもの。これを持ってちゃんと挨拶してきなさい」
「いえ、私がお世話になったんだから、こんなもの貰うなんてできません。心遣いだけ頂いておきますから」
「駄目よ。これは大人の世界のやらなければいけない事だから。礼華ちゃんが気にする事じゃないわ」
何か、おば様たちが食事のお金をどちらが払うかでもめているように見える。
「誰がおば様ですって?」
「礼華ちゃんがおば様なんて失礼よ」
神前がこちらを睨んでくるが、ちょっと待て。なぜ母さんは自分の事だと思ってないんだ?
「凛ちゃんがお母さんに悪口言う訳ないじゃない。食事と言う人質を取られているのに」
確かにその通りだ。母さんを怒らせると僕は餓死してしまう。これからは発言に気を付けよう。
結局、神前の方が折れ、僕は紙袋を手に神前を送って行く事になった。
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