第45話 思い出した 後編

「よっ! こんないい天気の下で、しけたツラしてるのは、どこのどいつだー?」


 俺の虚無感に割って入ってきた、俺の気分とは不釣合いの冗談めいた明るい声。


「こんないい天気の下で、自分は所詮口だけだったとわかって喪失感に包まれている俺は、朝倉孝太ですよ」


 自分の気分相応に、抑揚ゼロで返す。


「うん、知ってた」


「んだよそれ、茶化すなよ。今そう言う気分じゃないんだ」


 俺が持たれている木の裏から、高木がひょいと出て来た。


「……いつからいたんだ?」


「お前が大事そうに封筒を開けてる途中からかな」


「ほとんど全部か」


 けど、見られてたことへの怒りも恥ずかしさも、今は感じない。

 自分への失望でいっぱいだから。


 俺が高木から目を切り大きなため息をつくと、修斗もフンと鼻から息を吐き俺に訪ねてくる。


「なあ。一体どうしたんだよ? さっきの手紙が関係してるんだろ?」


「……まあ」


「話してみろよ。力になれるかもしれねえしさ。もちろん、からかいもしない」


 修斗に目をやると、真面目に笑みを作ってこっちを見ていた。


 ……こいつはずっとそうだ。

 俺が困ってる時は、真摯に助けてくれようとする。




 そういえばこいつに助けてもらったことは多々あるなと思い、俺はここ数日の出来事から今日の昼休みまでのことを修斗に話した。




「いい手紙じゃねえか。お前、本当に夏織さんのこと好きだったんだな。よくわかる」


「けど、ずっと忘れてたからな。むしろマイナスだろ」


 話をしただけで、気分が優れるわけもなく。

 俺のテンションは相変わらず低い。


 すると、高木は俺の前に回り込んで、俺の目を真っ直ぐ見ながら俺に問いかけてくる。


「お前は無責任だったって言うけどさ。お前が忘れたことに本当に怒ってたのか? 夏織さんは。声とかが?」


「……いや。多分違う」


「その手紙渡されるとき、夏織ちゃんは悲しそうな顔してたか?」


「……多分してない」



「だろ? ならもう”多分”って言うのやめろよ。夏織さんはそんなこときは気にしてねえよ、”絶対”。

 十年も前のことだ、忘れることだってあるって。

 だからさ。今のお前がしなきゃいけないこと、他にあるんじゃないのか? 昔の自分を一人で勝手に卑下すること以外にさ」


 俺はしばらくその言葉に打ちひしがれた。


「……熱いな」


 でも、心に刺さったよ。


「だろ? それが取り柄だからな」



 確かに修斗の言う通り。


 夏織ちゃんの様子を考えると、とても怒ってたようには見えなかった。

 むしろ”いい物”って言って渡してくれたくらいだ、この手紙も大事にしてくれていたんだろう。


 ……そりゃあそうか。

 怒ってたとしたら、そんな手紙を十年もとっておくことはしないだろう。


 世の中には、いつか突き返すために復讐の炎を燃やし続ける、なんて人もいるだろうけど。

 夏織ちゃんがそうじゃないことは自明だ。



 ……でも。

 そうとわかると、また別の疑問が湧いてくる。


「じゃあ、なんで俺に見せてくれたんだろう?」


 俺の疑問に、高木も顎に指を添えながら考える。


「そりゃあ、お前……。なんでだろうな? 単純に、昔のお前の文章とか文字を見せてからかいたかったのか……」


「それか。昔のことを思い出した俺が、、とか」


 修斗は俺の意見に同感と言わんとばかりにこっちをバッと見る。

 俺も、なんとなく言いながらの意見にしっくり感を得る。


「「それか!」」


 目を合わせながら、声も合う。


「”私は待ってたけど、孝太君はどう思うの?” ってことじゃねえか?」


「ああ、俺もそんな気がする」



 勝手な予想だけど、やっぱりしっくりくる。



「じゃあ、その答えを夏織さんに伝えてやるんだな」


「ああ」



 ……よかった。

 夏織ちゃん、俺に失望とかはしてないんだ。


 手紙を読んだ後の自己嫌悪の原因が杞憂だったことがわかり、ひどくざわついていた心に平静が戻った。


 まあ、そもそも俺一人で勝手に落ち込んでただけなんだけど。



 やっぱり、こいつに相談してよかったな。



『キーンコーンカーンコーン』



「うわもう予鈴か! 長いこと立ち話しちゃったな」


「悪いな。つき合わせちゃって」


「いいって。顔突っ込んだのは俺だし」


「あれ。修斗、昼飯は食べたんだっけ?」


「まだ。購買から教室戻ったらお前がいなかったからこっち来たから」


「ちゃんと食べないと、部活でバテるぞ」


「んだよー。飯より友達を心配して来たってのに、ずいぶんだなー」



 予鈴をBGMに、俺と修斗は教室へ戻っていった。


 俺の中から虚無感は消えて、活力が巡り出していた。

 

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