第29話 わかってたこと 後編

 一番大きなジェットコースターに乗った後、坂本さん・木村さんセレクトで、バイキングやフリーフォール、回転ブランコといった激しめのアトラクションを回った。


 各アトラクションの列に並んで待ち時間ずっと四人で談笑し、アトラクションで絶叫する。


 そんな繰り返しで、俺の気分も少しずつ上がってきた。


 四人の会話でも最初は聞きに徹していたが、今は自分から入っていけるし周りを見れるようになった。


 せっかく遊園地に来たのに、全く楽しめなかったーなんてことになったら悲しすぎるし、楽しいって思えるようになってきたのは本当に良かった。



 ……けど、流石にちょっと疲れたな。

 高速バスの移動から今まで、ずっと立ちっぱなしの動きっぱなしだ。


 少し休みたいけど、皆がまだいけるなら俺のせいで止めるのも申し訳ないし……。


 はあ。

 せっかく気分が上がってきたところで、体力が尽きかけるとは。

 やっぱり勿体無いなあ。



 足取りが重くなり、後ろからようやっとついて行っている状態だ。

 朝一から楽しめてたらこうはならなかったのに……。


 そんな風に俺が楽しさよりも疲れに体を支配されそうになっていると、坂本さんが俺にチャンスを与えてくれた。


「ふう。ちょっと疲れました……」


「えー! まだまだ乗りましょうよ! 高木さんもいけますよね?!」


「もちろん! 木村さんについてくよ」


「お二人は元気ですね……」


 坂本さんとは対照的にまだまだ元気そうな修斗と木村さん。

 まだ余裕があるとは、化け物か。


 それに引き換え、坂本さんは女神様か。

 いい機会をありがとうございます。


 俺はここぞとばかりに声を張り上げる。


「じゃあさ、ここで二手に分かれない? 高木と木村さんは他のアトラクション回ってきなよ。俺は坂本さんとお土産とか見てくるからさ」


「!! 先輩、それがいいですよ! そうしましょう!」


 木村さんは、俺と坂本さんをくっつけたいんだから、この話には乗ってくるだろう。

 修斗も……大丈夫だ。乗ってくるはず。


 なぜなら、顔に書いてあるからだ。

 ”木村さんと二人きりになりたい”って。


 さっきから高木と目が合わなくなり、木村さんに話しかける回数が増えてきたのもその証拠。


 まあ、付き合ってるんだから当たり前だろう。


 二人で存分に遊んできてくれ。

 俺は坂本さんと一休みさせてもらうから。



 高木と坂本さんも俺の案に賛同し、二人ずつの二組に分かれた。


 高木組が次のアトラクションに向かったところで、坂本さんが「あの、朝倉さんは良かったんですか? 私、一人で休憩でも良かったです」と聞いてくれる。


「大丈夫。というより……実は、俺も休みたかったんだ。ずっと遊んでて、疲れたよね」


 坂本さんは「そうだったんですか。良かった」と言いフフフを口元に手を当てて笑う。


「それに、高木も木村さんと二人っきりになりたそうにしてたし」


「……そうでした?」


高木あいつの顔を見るとわかるんだよね。何を考えてるか。……何となくだけどさ」


「すごいです。そんないい友達、私にはいないな」


「そんな。いいものでもないよ。こう言う時は便利だけど、言いたくないことまで悟られると不便だし」


「……それも含めて、いい友人ですよ」


「……そうかな」


 坂本さんは少し遠くを見ながら軽く笑ってくれた。

 羨ましがってくれてるんだろうか?



 修斗とは中学一年の頃同じクラスになって以来の友人だ。


 中学一年の時、席が隣になって一気に仲良くなった。

 中学二年の時、俺が宿題をしたノートを忘れてきたことを修斗に言い当てられた。写させてもらって助かった。

 中学三年の時、好きな人を当てられた。あれは大変だったな。しばらくからかわれたっけ。


 ……確かに、今思うといい思い出だな。

 他にもエピソードはたくさんあるし。


 これからも友人でいてくれるといいな。




「あれ、高木さん。どうしたんでしょう?」


「えっ?」



 感傷に浸っていると、坂本さんが異変を捉えたようで。


 坂本さんの視線の先から修斗がこっちに歩いてくる。

 木村さんはいない。一人で戻ってきたのか?


 大股で接近してきた高木は、俺に考える暇も与えず一気に後ろに回り込んできた。


「ごめん、ちょっと孝太こいつ借りるね」


 坂本さんはあっけにとられながら「あ、はい」と返事をするが、それを聞く前に修斗に背中をぐいと押されて坂本さんから引き離される。


「おい……。おいってば! 何のつもりだよ」


「……よし、ここならいいか」



 周りに人がいないことを確認してから、高木の俺を押す手が離れる。


「修斗、お前木村さんはいいのかよ」


親友こっちが先だ」


 高木は俺の方に向き直ると「お前に聞きたいことがある」と言い放つ。


「お前、昨日何があった?」


 ……何?

 急に、何かと思えば……。


「何でそんなこと聞くんだよ?」


「今日のお前、なんか変だから」


 ……顔を見ればわかるのはお互い様ってわけか。


「まあ、いつも通りじゃないかもな……。でも、何でピンポイントで昨日なんだよ?」


「金曜はお前普通だったから。何かあるとしたら昨日だろ。まあ、金曜の夜かもしれないけど」


 やるな。

 修斗の割に頭を働かせてるじゃないか。


「んで、昨日何があったんだよ?」


「昨日って……。何もなかったよ。昨日は夏織ちゃんと買い物に行って、そんだけだ」


「……本当か?」


「ああ、本当に







 ——何もなかった?



 口に出して、やっと気がついた。



 のがおかしいんだ。

 昨日あるはずのものがなかったんだ。


 ——なんだ……? 何が足りなかった……?


 いつもはあって、昨日はなかったもの。


 いつもは……そう。

 夜夏織ちゃんとご飯を食べながら、その日何をしたかとか明日の話を軽くして……っ。



 ——これか!


 やっとわかった。




 ”昨日の夜、夏織ちゃんと遊園地の話を全くしなかった”




 いつもなら、女の子と遊ぶことをからかってきたり、素直に楽しんできてねと言ったりするだろう。


 ……そうか。

 夏織ちゃんが何も言わないのが、おかしいんだ。



 あまりに小さな違いだけど、これで確信した。



 ——夏織ちゃん、俺に言いたいけど言えないことがあったんだ。



 だから昨日、日曜翌日の話をしなかったんだ。



 それが今日ずっと喉に詰まっている違和感の正体だ。



 くそっ。

 何で昨日気がつかなかったんだ……。


 自分に腹がたつ。



 俺の詮索と葛藤が顔に出ていたのだろうか、修斗が「おい孝太、大丈夫か?」と声をかけてくれる。


「ありがと、修斗。お前のおかげでわかったんだ」


「……何が?」


「俺は——」


 そう。


 俺がどんなに楽しいことをしていても、夏織ちゃんが悲しんでるってわかると全然楽しくない。


 一方的にだけど夏織ちゃんのこと、気にしちゃってる。


 これまで、たくさん夏織ちゃんに助けてもらって、たくさん一緒に笑って。

 素敵な時間も経験も与えてくれた。


 こんな人、これまでで初めてなんだ。


 やっぱり、ただの弟なんかじゃいられないよ。


 わかってたことじゃないか。


「——やっぱり夏織ちゃんが好きなんだ!」

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