何でも屋の男を訪れた、ある青年の告白です。古風でこなれた文章で表現される狂気の物語に戦慄しました。あえて全ての情報が開示されないので、背景に広がる世界を想像して薄ら寒い気持ちになります。最後まで引き込まれて一気に読ませていただきました。
なんだろう、この読後感は。読み始めてすぐに思ったのは「狂気!」でした。進むほどにその狂気がぐにゃりと歪んで渦巻いて、ぐるぐると蟻地獄の深い底へ引きずり込もうと画策するかのような……。あなたも深淵を覗いてみませんか?……深淵もあなたを見ているかも。淀みなき御心をお持ちの方は、覗かぬほうがよろしいでしょう。
おもしろかったです。これまで読んだ作品の中に比べると、読み手に狂気と畏れを伝わるように表現が工夫されていて、ひとかわむけた感じがしました。底なし沼のような狂った悪夢にまりこんだ末の結末なのですからこれでよかったのでしょう。