第21話 意地悪10(デートの誘い)

「じゃあ、バイバイです、先輩」


 あざと可愛く手を振る雨宮。いつも通りうるさい雨宮はそう言い残すと、昼休みの時間が終わったので帰っていった。

 はぁ、やっと終わったか。もう毎日あいつの相手をして疲れた。安眠までは遠いな…。ん?今後を憂い、ため息をつこうとすると、床に何か落ちているのを発見した。


 なんだこれ?落ちている物が気になり持ち上げてみると、それは雨宮の生徒手帳だった。あいつ、なんでこんな大事なやつ落としてんだよ。仕方ない、放課後返してやるか……。


 またあいつに会うことに憂鬱になりながら、拾った雨宮の生徒手帳を仕舞おうとする。その時、ちらっと見えた雨宮の生徒手帳の中に重要な情報を発見してしまった。


 あいつ、誕生日2週間後の日曜日じゃねえか。くくく、これは使えるな。もしかしたら雨宮に嫌われる決定打になるかも知れん。誕生日に出かければ、丸一日一緒に過ごすのだ。そうすればどれだけの意地悪を行えるだろうか!


 閃いた素晴らしい計画に思わず笑みがこぼれる。さっきまでの憂鬱な気分は一気に晴れ、放課後雨宮に生徒手帳を渡しにいくのを、俺は心待ちにするのだった。


 放課後、雨宮に連絡を取り、校門前に集合する。少し待つと雨宮が駆け足でこっちにやって来た。それで俺はここを集合場所にしたことを後悔した。


 雨宮はこんな奴ではあるが腐っても美少女。周りからの注目が凄い。俺に対して睨みつけてくるような視線もちらほらある。もの凄い居心地が悪い。だが雨宮はそんな視線達に臆することなく堂々としている。おー、と一瞬感心してしまった。


「それで、先輩。呼び出してどうしたんですか?まさか告白ですか〜?まあこんな可愛い私に声をかけられ続けたら、惚れちゃうのはわかりますけど〜?」


 ニヤニヤしながらこっちを見てくる雨宮。お前、一言目からそれかよ。本当、人をイラつかせる天才か?


「違えよ。お前、俺の教室に生徒手帳落としていっただろ。ほら」


「ですよねー、分かってました…ってええ!?私の生徒手帳ですか!?」


 なぜか死んだ目をしたあと、もの凄い慌て出す雨宮。


「そうだよ、こうやってわざわざ渡してやろうと思ったのに…。お前そんなにからかってくると渡さねえぞ」


「え!?それは困ります!からかったのは謝りますから返して下さいーー!!」


 雨宮は急いで俺の手から生徒手帳を取り返す。パラパラと中身を確認し、こちらを向く。


「せ、先輩、中見てないですよね…?」


 少しだけ頰を赤らめながら上目遣いでこっちを伺ってくる。


「ああ、見てない」


 もちろん、ちらっとは見えてしまったが、誕生日の作戦がバレる可能性があるためそんなことは言わない。


「そ、そうですか」


 見られてないことにホッと安心したのか、表情に落ち着きが戻る。


「生徒手帳拾ってくださってありがとうございました。それじゃあ、バイバイです。先輩」


「待てよ。お前今日放課後空いてるって言ってただろ。1つ付き合ってほしい場所あるんだよ。」


 用事が済んだと思ったのかすぐに帰ろうとするので、引き止める。これも誕生日の作戦のためだ。


「へ?それってこれから行こうってことですよね?」


 俺から誘われるのが予想外だったのか、腑抜けた感じに聞いてくる。


「ああ、無理なら大丈夫だ」


「い、いえ!行きます!絶対行きます!」


 必死な表情で承諾してくる雨宮。


「お、おう。それなら良かった。実は妹の誕生日が近くてな。そのプレゼント選びを手伝って欲しいんだ」


 もちろん妹の誕生日が近いなど嘘だ。雨宮にプレゼントするに決まっている。このプレゼントも雨宮への意地悪になるのだ。


「なるほど〜、精一杯プレゼント選び頑張りますね!」


 くくく、何も知らないでそんなことを言いおって。あとで困るのはお前だぞ。


「ああ、じゃあ、行くぞ」


 こうして俺と雨宮は目的の場所へと向かって行った。


♦︎♦︎♦︎


「〜♪」


 目的地まで歩いている途中、隣から鼻歌が聞こえてくる。


「鼻歌なんかして、随分機嫌が良さそうだな、雨宮」


「え!?私今鼻歌してました!?」


 どうやら無自覚だったらしい。


「ああ、とても楽しそうな感じだったぞ」


「えへへ、やっぱり放課後まで先輩と一緒にいられるから嬉しくて…」


 はにかみながらそう零す雨宮。ほんと可愛いな。絶対狙ってやがる。そんなことで俺がほだされると思うなよ?だいたい、そんなに喜んでいられるのも今のうちだぞ。


 くくく、誕生日に絶望するがいい。数多の意地悪をお前に仕掛けてやるからな!


 改めて決意をしているとどうやら目的地に着いたようだ。


「アクセサリーショップ??」


「まあ、そんなところだ。早く入るぞ」


 中に入ると、所狭しと様々なアクセサリーが陳列されている。


「わあ!どれも可愛いですね、先輩!」


「ああ、そうだな。こっちのストラップ系のでどれがいいと思う?」


「ん〜、そうですね〜」


 やはり雨宮も女の子という生き物。こういうアクセサリーは大好きならしい。目を輝かせて色々と見て回っている。無邪気に見て回る姿は、普段のうざい言動からは想像もつかないほど愛らしい。表情、動きなど全身から楽しんでいるのが伝わってくる。


 その喜び様は彼女の魅力を一層引き立て、今も店内の男達全員の視線を釘付けにしている。ほんと、黙っていれば完璧な美少女なんだがな。そんなことをふと思った。


 それにしてもじっくりと1つ1つ観察して選んでくれているようだ。くくく、なかなか真剣に悩んでいるではないか。せいぜい悩むがいい。お前が気に入ったものを選べばそれだけ後で苦しむのはお前自身なのだ!

 それから随分と悩んでいたが、やっと決めたらしい。


「先輩!これなんてどうですか?」


 そう言って持ってきたのは赤主体ではあるが所々に金色があり、キラキラと目を惹くストラップだった。しかも少し大きめだ。

 

 完璧だ!これぞ、俺が求めていたもの。もしや、俺の作戦がバレているのか?と思い、雨宮を盗み見るが能天気にニコニコしているので、恐らく気づいていない。くくく、本当に誕生日の意地悪が楽しみだ。


「ああ、これでいい。ありがとう」


「…!?」


 おっと危ない。あまりにも誕生日の作戦が楽しみすぎて思わず笑みが溢れてしまった。気を引き締めなければ。


「どうした?顔が赤いぞ?」


 真顔に戻すと、俺の目の前で雨宮が苦しそうに胸の前で手を組んで、顔を赤くして固まっていた。


「な、なんでもないです…」


 意識を取り戻したのか、それだけ言うと俺から体ごと逆を向いてしまった。

 変な奴だな。雨宮の態度を不思議に思いつつ、俺は会計に向かった。


 会計を終え、お店を出る。


「じゃ、じゃあ、バイバイです、先輩」


「ああ、じゃあな」


 別れる間際の今こそ、用意していた意地悪を実行する時だ!


「あ、そうだ、雨宮」


 振り返ると雨宮はまだ手を振ってこっちを見ていた。


「はい?何ですか?先輩?」


 コテンと首かしげて聞いてくる。


「来週の日曜日、空いているか?」


「来週の日曜日ですか?空いてますよ?」


「そうか、じゃあその日一日、一緒に遊ぶぞ。悪いな、この後用事あるから詳しくは後で連絡する。じゃあな」


 有無を言わせないよう別れを告げた後、すぐにその場から立ち去る。


「え?え!?ええーーーー!?!?」


 背後で雨宮のそんな大きな声が聞こえてきた。くくく、俺に教えていないはずの誕生日がバレていたのだ。これほど怖いことはないだろう。きっと今頃ビビっているに違いない。


 さらに、大事な休日、しかも誕生日を俺と過ごすので、他の誰からも祝ってもらえないのだ。ショックで大きな声を上げるのも無理はない。


 まったく、鮮やかで完璧な作戦だ。俺は振り返ることなくすぐさま立ち去ってしまったので、俺の背後で顔を真っ赤にして口をパクパクさせている雨宮に気付くことはなかった。

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