第4話
そして、各学級で自己紹介が終わると、今度は新入生の学力をはかるための、「勇者適性テスト」の筆記試験が始まりました。
各座席にマークシート形式の問題用紙と解答用紙が配られ、ユウコは自信満々にテストを解こうとして、筆箱を持ってくるのを忘れた事に気付き、担任に叱られました。
そして改めて問題用紙に目を通すと、ユウコはある事に気が付きました。
何が書いてあるのか、まったく意味が分かりません。
(………………………………………………………………………………………)
それもそのはず、ユウコは勇者になる為の勉強を、一切してこなかったのです。
(ふおおおおおおおおおおっ!?)
魔法学や薬草学、鑑定学や外国語学、魔法生物学など、様々な科目がありましたが、どれも質問の意味さえ分かりません。
ユウコの全身から、再び汗が噴き出しました。
(何この問題!?試験って、『こくご』や『さんすう』じゃなかったのっ!?こんなの、解ける訳ないよ!)
ユウコは、心の中で悲鳴を上げました。
しかし、『こくご』や『さんすう』は、小学生の問題です。
というか、そもそもユウコの通信簿は、『保健体育』以外”1”でした。
(や…ヤバイ…!”勇アカ”って、あんまり成績が悪いと退学になるって聞いたよ?どうしよう…私、勇者になれないかもしれない…)
ユウコの心が、再びくじけそうになります。
しかしユウコは、腰に差したオモチャの剣をギュッと握り締めると、自らを奮い立たせました。
(いや、諦めちゃ駄目だ!諦めたら、そこで試験終了なんだよっ!)
ユウコは気合を入れ直し、汗でふにゃふにゃになった問題用紙に、再び目を通します。
(ふおおおおおおおおおおおっ!)
しかし何度読み返してみたところで、分からない物は分かりません。
試験というものは、普段の積み重ねが大事なもので、諦めなければどうにかなるという類のものではなかったのです。
(ふぐぐぐぐぐぐぐぐ…)
その時ユウコに、天啓(てんけい)が下りました。
(そうだ…!この試験はマークシート形式!問題の意味が分からなくても、正解の〇を塗り潰す事さえ出来れば、点を取ることは出来るんだよ…!)
”答えが分からなくても点が取れる”…それは、未だかつて誰も思いつく事の出来なかった、まさに奇跡のアイディアでした。
ユウコは試験の問題用紙を、視界に入らない様に机の中にしまうと、汗でびっちゃびちゃになった解答用紙を机の真ん中に持ってきました。
(うん…!適当にマークをしても、正解する確率は低いかもしれない…。でも、低いだけで、”0”という訳では無いんだ…!)
ユウコの心に、勇気が湧いてきます。
(今まで私が見て来た”物語の中の勇者”は、いつだって不可能を可能にして来てたから!)
ユウコはペンを握りしめました。
(そうだよ!これは勇者に成る為の試験なんだから!このテストで適当な解答をして、満点を取る位の軌跡も起こせないで、”世界を救う”なんて軌跡は、起こせっこないんだよっ!)
ユウコの瞳に、”物語の中の勇者”と同じ、不屈の光が宿ります。
(ふおお、見える…見えるよ!試験の答えが見えて来たよ!)
ユウコがマークシートの解答欄をジッと見つめていると、不思議と正解の欄が、「こっちだよ~!」と言っている様に見えてくるのでした。
(やっぱり…やっぱり私は、勇者になるべき人間だったんだ…!)
自信を確信に変えて、ユウコは猛然とマークシートを塗り潰し始めました。
──そしてユウコは、「勇者適性テスト」の筆記試験で、全教科0点という”勇アカ”史上初の快挙を成し遂げたのでした。
ある教師は、全問不正解のマークシートを見て、「軌跡を見た」と、発言したとか、しなかったとか…。
(ちなみに、星野ユウコ(お嬢様の方)は、全教科100点満点でした)
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