ドーンヴィル、それぞれの初冬9

 珍しくアマンダの家に招待をされたと思ったらドレスの自慢をしたかっただけらしい。ウォーラム家は代々ドーンヴィルの町長を輩出している家系である。この町がまだ荒野だったころからこの地に根付き土地を耕してきた。現在は所有する土地の地代などで生計を賄っている家である。


「お父様にお願いをしてダガスランドのドレス店に行って採寸をしてきたのよ。だってカイゼル家に招待をされているでしょう。グランストンなんかのお店じゃあ、ねえ」


 よほど嬉しいのか始終声を弾ませっぱなしである。この町からダガスランドまで赴くには馬車と列車を乗り継いで、一日仕事だ。彼女はダガスランドのホテルで一泊してきた。年頃の少女たちはダガスランドの華やかさにうっとりしている。そのこともアマンダをより饒舌にさせる。


「せっかくだからってマグアレア通りのカフェに行ったのよ。とっても素敵だったわ。ドレス店でもたくさんの布地を見せてもらったの。初めての夜会でしょう。せっかくだから明るい色のドレスが欲しくって」


 ふふん、と胸を反らせてアマンダの自慢はその後も続いていく。取り巻きたちはそれぞれ「いいなあ」「ダガスランド羨ましいわ」「ドレス早く出来上がるといいわね」と追従する。お土産にと、テーブルのうえにはクッキーが供されていて、みんなダガスランドの味に頬を緩めっぱなしだ。クローディも甘いものの誘惑に抗いきれずについ摘まんでしまったのだけれど。


「わたしとクローディじゃあ格が違うんだから。ちょっとアレット様に優しくされたからってつけあがるんじゃないわよ」


 それが言いたかったらしい。自分の知らないところでアレットがクローディと親しく話をしていたことがよほど癇に障ったらしい。だから見つかりたくなかったのに。お姫様はこの町の女ボスの複雑かつ単純な思考回路なんて想像もつかないらしい。まあ、当たり前なのだろうけど。


「なにそれ」

「初耳だわ」

 アマンダの幼少時からの幼馴染兼取り巻きがクローディとアマンダの顔を交互に見やる。

「この子ったら、いつもの絵でアレット様の気を引こうとしているのよ」

 アマンダが馬鹿にした声を出す。クローディは心の中で無視、無視、無視と唱える。


「ちょっと人と違うことをすれば気にかけてもらえるだなんて考えて。ほんっとう嫌な子ね!」


 その後もアマンダはネチネチと人のことをあげつらう。そんなにもクローディのことが気に食わないのなら呼ばなければいいのに。自慢だけはしたいのだから面倒なことこの上ない性格をしている。


「アマンダ、カイゼル家の舞踏会のパートナーは結局どなたにするの?」


 さすがにうんざりしたのか取り巻きその一が話題を変えた。アマンダは一転悩まし気に「それが今一番の問題なのよ」と体をくねらせた。アマンダの年はクローディのひとつ上だ。パートナー選びが将来の夫選びに直結をするのか、アマンダは候補者についてそれぞれいい点と悪い点を挙げていく。みんな土地持ちの家の息子やらそれなりの職に就いている男ばかりのようである。


 話題が変わったことにホッとしつつクローディも先日のグランストン訪問時のことを思い出す。最後にエミリが訪れたのは昔からの知り合いだという夫人の家で、彼女はその夫人にクローディを紹介した。要するに誰かいい男性がいたら紹介してほしいと伝えたのだ。クローディは出されたコーヒーの苦さも感じることが出来なくなった。自分の知らないところでどんどん将来が決められていく。列車の線路のように、まっすぐに進む先が出来上がっていくのだ。いい人ってどういう人よ、とあとで聞くといい人はいい人よ、と全く答えになっていない言葉が返ってきた。


「そういえばクローディ、あなたも今度我が家の舞踏会に招待されたのだったわね。どういうお相手を連れてくるのか楽しみだわ」


 アマンダのドレス自慢の会の最後の言葉はそうやって締めくくられて、クローディは何か言い返したかったのに、結局何も言うことができなかった。そんなこと、自分に聞かれても分からないからだ。農道の隅っこに腰を掛け毎日のんびりと絵を描いているだけの娘だったのに、周りが勝手に変わり始めた。


 そろそろ年頃なのだから、と両親がクローディに大人になることを強要する。いつまでも絵を描いていたいのに、それは駄目だという。これからのおまえに必要なのは家を切り盛りする能力だ、と。絵を描くのもいいけれど、娘らしい趣味ももつことだ、と。


 クローディはとぼとぼとと通りを歩いていく。小さな町はけれども変わりつつある。大きな鉱山が近くにできたことでにわかに活気づき始め、今度銀行の支店ができるという。昔ながらの住人の中には各地から集まってくる鉱山夫に眉を顰めるものもいるが、町長は町の発展に賛成していてカイゼル家に協力的だ。


「クローディ」


 ふと後ろから呼ばれた。

 振り返るとそこにはグロシア夫人が佇んでいた。彼女は別の村からドーンヴィルに嫁いでいて現在はカイゼル家に雇われているのだ。


「なんですか、グロシア夫人」

「若奥様が今日帰ってこられてね。あんたに会いたいんだと」

「わたしに?」

「そうさ」


 グロシア夫人が首を上下に振った。そして彼女は明日の午後カイゼル家に来るように伝えて引き返していった。

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