妖艶な女、ローズ
次の日、行為にふけようとしたところで客が来た。ちっ邪魔しやがって、と思いながら扉を開けるとトルストだった。
何でも昨日の模擬戦での俺の実力が認められたので一度城に顔を出せ、とのこと。というか、昨日も模擬戦監視されてたのか。てことはキスも……。
「朝っぱら公衆の面前でキスとはめでたい頭をしているな!」
監視役お前かよ。
「というかそれだとイーナもめでたい奴になってしまうけど良いのか?」
「イーナは別だ」
都合のいい頭だな。
「あらトルスト、いらっしゃい」
「おはようイーナ。この男にも話したが君も一度城に来てほしい。戦争が起こるにしろ起こらないにしろ、色々準備というものがあるからな」
「わかったわ。今から朝ご飯なんだけどトルストもどう?」
トルストはこちらを一瞥して、
「いや……せっかくだけど遠慮しておくよ」
そう言った。気を使わせてしまったな……。帰り際俺にだけ聞こえる声で、
「二人共随分と良い顔になったな」
と囁いて帰って行った。とことんイケメンだなアイツ。
そんなこんなで城の謁見の間に到着。相変わらず偉そうな奴らもいた。トルストが改めて今回の模擬戦について説明をし終えると王が口を開く。
「ふむ……。もう大分呪いの力は無くなっていると聞いていたが、イーナを倒すとは。にわかには信じ難いな」
「しかし、本当です。彼は戦場においても十分な力を発揮するでしょう」
ふむ……と思案する王。そこへ周りの野次が飛ぶ。
「大方イーナ将軍が手を抜いたのでしょう! お優しいことで!」
「そうだそうだ! 実際以前の頃の力は無いのは事実なのだろう!?」
「情が移ったか! 所詮は男女ですからな! 口だけは何とでも言えますからな!」
ムカツクなコイツら。周りを見るとトルストもイーナも感情を抑えている。大人だなアイツら。俺は無理だ。
「疑いがあるならかかってきな。口だけは何とでも言えるからな?」
そう言って野次を飛ばした連中を睨む。するとそいつらはうっと言葉を飲み込んだ。本当に口だけだなコイツら。
「ふむ、よい信じることにしよう。勇者よ、力を貸してくれるか?」
ふん、ここにイーナがいる時点で貸さない選択肢は無いと分かっているだろうに。
「ああ、貸してやるよ。その前に戦争の回避を目指すべきだとは思うがな」
「もちろん最大限の努力をしよう」
どうだか、何となくこの王は信用ならない。俺を監禁しようとしてたわけだしな。しかし戦争が始めるまで時間がありそうだし、ティタのところに呪いのことで相談しにいってみるか。責任、取らないといけないしな。
「ああそうだ。少しの間俺はこの国を離れる」
そう言うと再び野次の嵐。本当に口だけは達者だなコイツら……。
「安心しろ、戦争が始まるまでには帰ってくるさ」
「信用できるか!」
「待て」
そこへ王の一声。
「私は勇者を信じよう」
そう言いつつイーナの方をチラッと見る王。人質、とでも言いたいのだろうか。この男やっぱムカツクな。
まあでも、許可を得たので堂々と出かけられるぜ。そう思った瞬間、
「だが勇者一人では何かあったら大変だ。従者を一人つけよう――ローズ!」
「はーい!」
何処からともなく女が現れた。従者、だと?
「ローズ、そなたに勇者の従者を命ずる。しっかりと役目を果たすように」
「了解です! わぁ、本物の勇者様! これから宜しくお願いしますね!」
ニッコリと微笑む女。何か妙に色気を感じるが……。これは、あれか。ハニートラップ的な?
「ボルツ王。従者など邪魔だ」
「これは絶対だ。なに、ローズはこう見えて中々の実力者。足を引っ張ることはそうないだろう。邪魔なら無視しても構わんぞ? こちらが勝手について行かせるだけだからな」
コイツ……! これじゃあエルフの国に行けないじゃないか! この国の息のかかったやつを連れて行ったらまた新たな問題が起きるに決まっている!
「どうした勇者よ。何かやましいことでもあるのか?」
クソッタレ! 仕方がない……ここで拒否するのも後々面倒なことになりそうだ。一旦引き受けておいて後で撒けばいいか?
「いや、よく考えれば道中女を買う必要がなくなる。ありがたく貰い受けよう」
試しに悪印象を与えようとしてみたが、俺にだけ聞こえるように耳元で、
「なるほど……勇者様は溜まっていらっしゃるんですね? でしたらなおのこと私にお任せ下さい」
と、色っぽい声で言われた。全く意味無しか。代わりにイーナが凄い形相で睨んでいる。悪印象を与えたかったのはお前じゃないんだが……。
旅立つ前に少し時間を作り、トルストから情報をもらっていた。それによるとローズは凄いエロい女らしい。
「お前ふざけているのか?」
「違う! 大真面目に言っているんだ!」
確かに真面目な顔だ。信じてやるか。
「ローズはその顔と体で他国の男から情報を抜き取り、場合によってはその国の政治にさえ口を出し、我がボルツ国の有利になるよう立ち回る。表ではイーナが重要人物だが裏ではローズがその立場となっている」
「なるほど、俺が感じた印象は間違っていなかったか」
「更に任務の都合上、単身敵地で立ち回ることを当然としているだけあって実力もかなりのものだ。そんなヤバい奴が監視役になったんだ……本当に気をつけろよ」
トルストから有り難い情報をもらった後はイーナのところに向かった。さっき凄い怒ってたから行きたくないけどな。
案の定イーナは不機嫌だった。部屋に挨拶に来たのだが、さっきから目を合わしてくれない。
「『俺のものになれ!』って言ってすぐ他の女に手を出しちゃうんだ? しかもよりによってローズなんかに」
「まだ手を出していないが」
「まだ!? やっぱり手を出す気なのね!?」
「いい加減落ち着けって。あれは悪印象を与える作戦ってお前も分かっているだろう?」
「理屈では分かってるけど! 感情は別なのよ!」
面倒くせえなコイツ、そこが可愛いんだが。まあもう時間もないし言うこと言っとくか。
「安心しろイーナ。お前が思っているよりもずっと、俺はお前のことが好きだ」
「フユ……」
「だから他の女に手を出しても心はお前だけだ、安心してくれ」
「……馬鹿!」
凄い勢いで迫ってくる、殴られる! そう思って目を瞑ったが唇に柔らかい感触。
目を開けるとイーナに抱きしめられた。
「……最終的に私のもとに帰ってくればそれでいいから。だから、帰ってきなさいよね」
「もちろんだ」
そう言って頭を撫でながら俺も抱きしめる。コイツのためにも呪い、どうにか出来たらな。
別れも済んだので正門に向かうと既にローズが待っていた。
「挨拶も済みましたか? それでは行きましょうか! ところで、どちらに向かうので?」
「ああ、ここの属国にも挨拶をしておこうと思ってな」
ルビアは元気だろうか? あいつも心壊れかけていたから様子見にいかないと。そしてそこでコイツを撒こう。
「分かりました! 改めて、宜しくお願いします、勇者様!」
そう言って体をしなだれかかるローズ。それだけなのに凄いエロく感じてしまう。この女、何なんだ? まあ、エロいことは良いことだな……何となく背中に視線が突き刺さっている気がするのは気のせいだと思うことにしよう。
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