いろいろとユ・ウ・ウ・ツ
フロイライン戦線はいまごろどうなっているだろうか。
などとのんきに、紗英の部屋に疎開して思う。もちろん小百合も一緒に。
「久しぶりに来たな、紗英の部屋」
「あ、そういえばそうだね。最近哲郎おじさんの件でいろいろあったし、来る機会なかったよね」
ちなみに紗英の部屋は淡いピンクが基調となっている。
ここに来るといつも、女子の部屋ってこんなもんなのだろうか、なんて思ったりはするが、俺は同年代の女子の部屋に忍び込んだことはないので詳細は不明。
そして俺の隣に座っている小百合は。
おちつかなさそうにキョロキョロしていたが、やがて紗英のベッドのわきに置いてあるぬいぐるみに気づいた。
「ほ、ほわぁ……あ、あのぬいぐるみ、かわいい……」
「あー、それはねえ、大学前にある『ハッピー』っていうゲーセンに置いてあった『ウザまる』の最新のぬいぐるみだよ。小百合ちゃん、気に入ったならあげようか?」
「いいんですか!?」
「うん、ゲーセンで友達がバイトしててね、お願いしたわけでもないのに『あげる』ってしつこいから受け取っただけだから。きっと小百合ちゃんにもらわれたほうがぬいぐるみも幸せでしょ」
ゲーセンでバイト……ああ、
ちなみに『ウザまる』ってのは、殴りたくなるようなウザい顔をしたウサギのぬいぐるみだ。なぜか巷では人気らしいが、プライズ専用のキャラなので入手は結構難しかったりする。
「あ……でも、今お財布の中に三十八円しかなくて……」
「いや小百合ちゃん誰もお金を請求なんてしないからね?」
「あ、え、でも、タダより高い物はないっていつもお母さんに言われてまして……」
小百合の発言で、紗英の部屋内が悲しみにあふれた。小百合にそう教育した恵理さんの真意がわからん。とりあえずはっきりしたのは、あとで小百合に小遣いをやらなければならないということだけかもしれない。
「本当にいいからね? お姉ちゃんからのプレゼントだと思って受け取ってください」
「は、はい。何やら申し訳なさが先立ちますが……ありがとうございます」
「うんうん。そのお金はうまい棒を買うのにでも使ってよ」
紗英も紗英でサラッとひどいこと言ってるなあ。まあ小百合は気にしてないみたいだけど。
「そうですね。うまい棒サラミ味でも買うことにします」
「……ちょっと待った小百合」
おおっと。聞き捨てならない言葉を聞いてしまったので、ここで兄が参戦せざるを得ない。
「うまい棒はやさいサラダ味だろう?」
「え、ええ……っと、サラミ味一択じゃないですか、普通は……」
「そんなわけない。きっと食べればわかる」
「いろいろ食べ比べた結果、サラミ味にたどり着いたんですが……」
「……」
「……」
「紗英は?」
「お姉ちゃんは?」
「ひゃっ!?」
突然とばっちりを受けたようにビクッとする紗英。
いや、もとはといえば紗英がうまい棒のネタを振ったんだから、責任取ってこの戦争にケリつけてくれ。
「え、ええと、ボクは…………メンタイ味、かな……」
「……しょぼーん」
「……がっかりだよ、紗英」
「突然振ってきたあげくにその言葉はひどくない?」
紗英による仲裁失敗。
「あ、でも、ちょうど三本買えますから、一本ずつ……で、どうでしょう」
「……それもそうか」
まあいい、こんなくだらないことで兄妹げんかしていられないから、手打ちで。
「うん……ただで気が引けるというなら、それで行こうか、小百合ちゃん?」
「はい! じゃあ、買ってきます」
「え、今行くの?」
人の話も聞かずに、小百合が買い出しに出ていってしまった。
そんなにウザまるのぬいぐるみをもらえたのが嬉しかったんだろうか。うむ、もう少し落ち着いてほしい気もする。
「小百合ちゃんも、けっこう思い立ったら、ってタイプだね」
「……なるほど、納得した」
血は水よりも濃い。そういうことだろう。つまり恵理さん──おっと、戦場のことは思い出しちゃいけない。
「ところで、紗英」
「ん?」
「ウザまるのぬいぐるみだが……まさか、中に盗聴器とかしかけられてないよな?」
「へ?」
「永井の阿呆なら、そのくらいしそうで怖いんだけどさ」
「……大丈夫じゃない?」
「あれだけストーキング被害に遭っていながらそう言い切れる、その根拠をお聞きしたい」
説明しよう。
紗英は散々、
「あ、妹ちゃんと仲良くなったから」
「……なるほど、合点がいった」
永井の唯一のウィークポイントを押さえたか。さすが紗英、女たらしなだけある。
紗英のやつはすさまじいプレイボーイなのに、まわりから女たらしと思われないのがなあ。見た目ってすごく重要。
…………
大学、また始まるんだなあ……ああ、めんどくさい。
小百合がいじめられないように、中学校まで一緒についていったほうがまだいいわ。
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