五節 一日のやり直し

眼と眼が合う。


「大丈夫?どうしたの目ーそらして、フフフ流石の私も少し疲れた。」


「大丈夫?」


「若干だよ、それにしても珍しく甘えたね。」


からかうような顔から目をそらすように視線を上げる。


「……私だけが生き残っちゃった、君を置き去りにして多くの人を巻き込んで、目が覚めたら泣いてる君がいて安心しちゃった。」


「言うなよ恥ずかしい。」


頭をわしゃわしゃと撫でられる。


「正直どう接すせば良いのかわからないけど、もう少しこうさせて。」


撫でる手を払いのける事ができない、幸せ。


「いい加減起きるか、面倒事は早く終わらせよう。」


僕は懐中時計を眺める。この世界に来た時の時間と出た時の時間を合わせるための仕掛け、過去改変程では無い、辻褄合わせの類か、何にしても


「多分時間の流れが掴めた。ありがとうおかげで今日を繰り返せる。」


乱れた布団を直し、離れの温泉に向かう。


階段を下り離れに着き、渡り廊下を通って旅館に戻る、もう慣れたもはやその程度の空間の歪みに、良く出来てるとは思えど驚く事は無いだろう。


そこは小山にいくつもの温泉が湧いており、赤く色づく木々の中、恵比寿内海の広大な海を見下ろしながら湯船に浸かる。


紅葉の葉が軽く見る程度の風が、火照った体に気持ちよかったと思う。


少し浸かりすぎたのだ、互いの顔も見れぬ程度に、


「ニャハハ、おはようございます、夕べはお楽しみでしたね。」


荷物を纏め、猫又の中居さんの言葉を遮りつつ旅館を出た。


太鼓橋を渡って少し歩けば霧の中、さらに少し歩けば目的地、霧が晴れれば少し古びた鳥居が並んでいた。


「ん?同じ場所だよね?」


ボクは崩れた鳥居に首をかしげる。


「神域としての境界も曖昧で、阿吽の石像からも力を感じないわ。」


「父さんがここを離れたせいか、それともスサノオ様が去られたからか主の不在と言うのはこうまでも。」

 

思わず手に持つ父の首桶を一瞥し、改めて昨日の社に視線を戻す。


「スサノオ様にやり直しの許可をいただきに行こう。」


「その必要はねぇぜ。」


力が弱まってたせいか、はたまた姿が変わってたせいか近づくまで気が付かなかった。


「ヤマトタケルノミコト?」


少年だった、ボクの鬼の姿と同じかそれより低い位の背丈、宝飾品で身を包んだ英雄というよりかは世間知らずの坊ちゃん(古代日本の服装)みたいな。


「おお、まあ首傾げるわな、小碓命(おうすのみこと)と呼んでくれ、英雄としての俺は死んだ、一時の夢として消えるのも悪くはないと思ったが、勝者には報酬があるべきだ。」


父と離れ離れと言うのは辛いからな、彼は小さくそうつぶやいた。


「スサノオ様に英雄と言う役を譲った、もう一度巡らせるが良い、次は儂を楽しませろとそれが伝言だ。頑張れよ英雄。」


言いたいことだけ言って去ってく小碓命(おうすのみこと)に感謝しながら、僕は昨日の社に向かう。


「巡れ、巡れ、巡らせろ。」


心臓を掴むように叫べは、空は暗くなりヘビが姿を表す。


「我が名はメヘンウルボロス、黒きファラオ、あるいは見通す天使、その配下として永遠を司る。その時計は不要か?極東の悪魔(ジン)よ。」


僕は古い銀色の懐中時計をウルボロスに渡す。


「その手で巡らすと良い、歩けば日の位置は変わり、振り返れば場所が変わる。それは力ある者を基準とし世界が動くことの証、それを安定させる術は時計が、流れを変える術はヘビの力が教えてくれる。」


今1日が巡り、夜神楽が始まる。


「ゴッホッホッ、楽しませてくれ、あの祭の様に、空を漂う雲の如く日本海の統治すら放棄した天空神、根の國に落ち着こうとそれは変わらん。」


雷鳴が鳴り響く。


「ええい息子よ力を貸そう、相手はスサノオ死力を尽くさねばならぬ。」


ガバリと開く首桶から、八岐の大蛇の父が溢れ出す。


「親父、もう一度言うぞ俺のために生きろ、孫の顔見てもらうからウグ。」


照れ隠し、あれ頭撫でられてる?


「私も手伝わせてね。」


聖の声。


「うん。」


「来たぞ。」


アマテラスが太陽、ツクヨミが月であるのなら、どちらも構わず覆う雲、昼も夜も気にせず暴れる天空神、荒ぶる空の擬人化。


肌は夕日に照らされた輝かしい茜の根雲、ほとばしる雷鳴が其の内に輝く大男、服は真夏の入道雲の様に白く、冠被りし黒髪黒髭は雷雲、太陽を背後に山々すら軽々跨ぐ巨神こそスサノオである。


「お前たち風に言うなら、幻想の姿さらすとしよう。清き水よ、揺蕩い、流れ、海へと至りて星を洗い流せ、薙ぎ祓うぜ、ヒヨッコ天羽々薙ぎ斬。」


地平線の向こうから、目に見える全ての雲が夕日を背に優しき風と共に全てを吹き飛ばす。


「すまないモルガン殿、円卓の状態を確認に来た。」


翼を持つ少年が妖精の世界に潜り込む。


「あら堅苦しい、同じ数字付きの代表の中ではありませんかエノク様、メルヘンがありませんよ。」


妖精女王と少年天使の会話に、和服姿の老人が参加する。


「なんじゃ、お前の実験やないんけ?」


「あっ、恵比寿のじっちゃん。」


更に少女が乱入


「おやアルちゃん、相変わらずめんこいのメルヘン言うんやけ?」


聖剣を携えた妖精少女に、和服の老人は表情を緩めてその頭を撫でる。


「フフフ、ついにメルヘンを感じましたか、見て下さいこの聖剣の輝きを、これぞ愛、愛の力に聖剣が輝いています。」


「愛、なるほどクシナダヒメか、エノクの、外から来たスサノオが、数字の代表以上の力を持ち続けられた理由はそれじゃろう。唯一神が現れても数字の代表をその格上にすると言う触れ込みじゃったが縁を司る者と英雄と言う来訪者の身分で誤魔化しおった、改良が必要じゃの。」


「スサノオ様は賢き神だ、格もあり良く逢魔が時にお忍びで来られている。円卓の平等さを押し付ける効果がどの程度で効くのか確かめたかったが失敗だ、まぁ時間が巫女の試練には間に合う、問題は……」


「新たな代表がスサノオを超えられるかだ、ただでさえ英雄の来訪神としての伝説が色濃いのに今回で数字の代表に対する特効を持たれたら、それこそ愛宕・黄泉大神様に貸しをつくってでも有耶無耶に終いにしなければならんぞ。」


「ハハハ」


心の底から笑っていた、美しい夕日を背景にスカイダイビングだ、僕も鬼だ自由は好きだ。


「聖、父さん、楽しい、ちょっと辛くても、苦労があっても、笑って過ごせなきゃ鬼(自由)じゃない。」


「良いわね、何する?」


「ええい呑気な、だがあのどんちゃん騒ぎでワシが負けた扱いというのも気に食わん、厳密に同一でないと言えな、酒天吹き飛ばされる前にワシはお前の肉体に定着した。」


「よし、じゃああえて分離しよう、聖は制御お願い、大変だけど来年の話を笑える物にしよう。」


「ふむ。」


「あのウルボロスみたいな感じね理解したわ。」


「「スサノオ祭の時間だ。」」

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