第39話
あげはちゃんは何度も刺されたような姿で。
ゆりちゃんは首を絞めて殺されたような苦しんだ顔で。
二人とも、目も当てられないほどに
残酷な殺し方をされていた。
「あ……なんで……
嘘だ……そんなわけ……」
上手く、呼吸が出来ない。
息は吐かれるばかりで、一向に新しい空気を取り込んではくれなかった。
たまに入ってくるニオイは、
血なまぐさくて吐きそうになる。
「ハァッ……ウッ……ッ」
もう私の過呼吸を必死に抑えてくれたあげはちゃんはいない。
もう優しい笑顔のあげはちゃんはいない。
目の前で、血でぐちゃぐちゃになって。
こんな、苦しそうな顔で。
「私の……私のせいだ……」
本当に私のせいだ。
この二人に接点なんてないはずなのに、
こうして並んで殺されているなんて。
私への見せしめとしか考えられない。
「ごめんなさい、ごめんなさい……
私のせいで……!」
やりきれない。
私が殺したも同然だ。
あげはちゃんだって、もうきっと『みずきってぃーは何も悪くないよ。』なんて言ってはくれない。
最期は私への憎しみでいっぱいだったに違いない。
ゆりちゃんだってそうだ。
間接的に私に殺されて、
さぞ私が憎かっただろう。
私のせいだ……
私のせいなんだ……
「渡辺、」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「渡辺!」
後ろを追いかけてきた榊原が、
私の肩を揺すって叫んだ。
「私のせいで、二人が……」
「お前のせいじゃない、落ち着け!」
「私のせいじゃないわけない!」
私を狙うなら私を殺せばいいのに、
こうしてほかの人まで巻き込むなんて。
犯人は、それほどまでに私が憎いの?
私を苦しめるためなら人だって殺せる。
そんなメッセージのつもりなの?
「大丈夫だ、渡辺は何も悪くない。とりあえず落ち着いて、ここから出よう。な?」
そう言って榊原は、
痛いほど強く私を抱きしめた。
それなのに、嬉しくない。
榊原とこんなに近くにいても、
何も嬉しくない。
ずっと大好きだったはずなのに、
ずっとこうして触れたかったはずなのに。
心が壊れそうだった。
こんなぬくもり、いらない。
「……もう、関わらないで。」
「え?」
私は榊原を強く振り払った。
驚いた顔をする榊原に、
私は続けて話す。
「もう、嫌なの。
これ以上誰も死なせたくない……」
「その思いは俺も一緒だよ。
だからこうして手掛かりを探してるんだろ!?」
「手掛かりなんて必要ない!
私と関わったら死ぬんだよ!」
「まだそうと決まったわけじゃないだろ!」
「どう考えてもそうでしょ!?
そうとしか考えられないじゃない!」
「落ち着いてくれよ!!」
悔しい。
何もできない自分が、悔しい。
あげはちゃんもゆりちゃんも、
私と関わらなければ死なずに済んだのに。
私と関わったがために殺されてしまった。
あげはちゃんは生きるために
龍ちゃんを殺した。
ゆりちゃんは必死に逃げて
1年生で唯一生き残った。
それほどまでに生に執着していた二人を、私と関わったばかりに死なせてしまうなんて。
……もう、死んでしまいたい。
私は関わった人すべてを不幸にしてしまうのかもしれない。
それなら、私から離れて生きてよ。
榊原が生きていてくれるなら、
私はもうそれでいい。
榊原が生きていてくれるのならば、
ぬくもりなんていらない。
私一人で、冷たい世界で生きていくから。
私を、突き放してよ。
「おい!待てよ!」
背後から聞こえる榊原の声を無視して、
私は保健室から飛び出した。
逃げよう、もう誰も殺さないように。
私のせいで人が死ぬなんて耐えられない。
そんなことを思いながら、
階段を駆け下りた。
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